数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
「亀裂 創業家の悲劇」 高橋篤史 著、講談社刊 刊
創業家の結束はいかにも強固に見える。しかし、時に意外なほど脆かったりする。事実、創業者一族が経営権をめぐって骨肉の争いを繰り広げることが往々にしてある。株式を上場するような大企業であっても、親子や兄弟が争い、親族をも巻き込んで“お家騒動”に発展するケースは後を絶たない。
「父娘喧嘩」が記憶に新しい大塚家具。創業者の大塚勝久と後継社長に指名した長女・久美子が経営方針の食い違いなどから全面戦争に発展した。勝久が娘を解任し、いったん社長に返り咲くが、娘が逆襲し、最終的に父親を会社から追い出したのだ。家族は二派に分断され、父勝久は長男・勝之とともに、新会社「匠大塚」を立ち上げた。
だが、久美子社長率いる大塚家具は凋落が止まらず、2022年5月に家電量販店のヤマダデンキに吸収され、父娘の対立劇は最悪の結末を迎える…。
戦後生まれで世界に最も知られる日本企業といえば、ソニー(現ソニーグループ)が真っ先にあがる。2人の共同創業者のうちの1人が盛田昭夫。経団連会長への就任が確実視されながら予期せぬ病に倒れる悲運に見舞われた。
名声をほしいままにしていた昭夫を悩ませたのが長男・英夫。ソニーに入社したものの、長続きせず、退社。スキー場開発やF1参入に巨額資金を散財した挙句、財産のほぼすべてを失った。文字通りの放蕩息子だったというのだ。
本書は誰でもが知るような著名企業8社の創業家にスポットをあてた。大塚家、盛田家のほか、ユニバーサルエンターテインメント(旧アルゼ)の岡田家、日韓ロッテグループの重光家、大戸屋ホールディングスの三森家、セイコーグループの服部家、国際興業の小佐野家、ゲオホールディングスの遠藤家を取り上げ、一族の相克を丹念に追いかけている。
大戸屋、セイコーグループを扱った個所ではコロワイド創業者の蔵人金男会長、エイチ・アイ・エス創業者の澤田秀雄会長が秘密資金、いわゆる「M資金」詐欺に巻き込まれる場面が赤裸々に描かれる。終章では、かつて猛威を振るった旧村上ファンドを率い、今日「生涯投資家」として活動中の村上世彰氏のファミリーストリーに迫っている。
著者は日刊工業新聞社、東洋経済新報社の記者を経て独立したフリーランスのジャーナリスト。(2022年9月発売)
文:M&A Online編集部