「ジャパニーズ・ディスカウントからの復活」|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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「ジャパニーズ・ディスカウントからの復活-日本企業再生への処方箋」野澤英貴著、東洋経済新報社刊

バブル崩壊から30年以上が経過したが、未だに日本経済はかつての輝きを取り戻せずにいる。なぜか?多くの論客が日本経済の停滞について解説しているが、その多くは抽象的な「一般論」に過ぎない。ある者は「日本型経営を捨て去り、欧米型の利益第一主義に陥ったのが失敗だった」と言い、またある者は「日本型経営から脱却できず、合理的な企業行動を取れなかったのが原因だ」と真反対のことを言う。

そんな不毛の「日本経済衰退論」に物足りなさを感じたら、ぜひ手にとってほしい1冊だ。少子高齢化に伴う国内市場の衰退に早くから気づいていた日本の大企業は、海外にフロンティアを求めて進出した。しかし、超大型M&Aの多くは十分な成果をあげられず、中には大企業本体の没落につながった買収すらある。

ジャパニーズ・ディスカウントからの復活

グローバル市場で買収一本槍のM&Aを推し進め、既存事業とのシナジーは生み出せないまま。ノンコア(非中核)事業のカーブアウト(企業が自社事業の一部門を切り出し、新たにベンチャー企業を立ち上げて独立させること)もままならない。グループ全体の価値は損なわれ、グローバル市場で日本企業が評価されない現象-それを著者は「ジャパニーズ・ディスカウント」と定義する。

こうした「ジャパニーズ・ディスカウント」は、世界中で見られる「コングロマリット・ディスカウント(多くの産業を抱える複合企業=コングロマリットの企業価値が、各事業ごとの企業価値の合計よりも小さい状態のこと)」の日本版と言える。

日本企業と同じく「コングロマリット・ディスカウント」の洗礼を受けた海外グローバル企業がそれを乗り越えた一方で、日本企業の多くがディスカウント状態から抜け出せないのはなぜか?

著者は日本企業が「ジャパニーズ・ディスカウント」に陥った三つの要因を指摘している。第一にグローバル市場で急激にプレゼンスが低下している。次に楽観的なビジネス予測と過去の成功体験で、時代にそぐわない戦略思考をしている。最後に本質的な課題解決を後回しにし、競争力が低減している。この三つが日本経済の再浮上を妨げているというのだ。

コンサルタントとして経営戦略の立案や助言、M&Aを手がけてきた著者が、こうしたディスカウント回避の成功例としてシーメンスやシュナイダーエレクトリック、日立製作所、ソニーグループといったコングロマリット企業を分析し、企業再生や企業価値を高める施策を提言する。沈滞する日本経済の問題点を明確に定義し、具体的な企業再生の指針を示す、経営者必読の1冊だ。(2022年10月発売)

文:M&A Online編集部