「GE帝国盛衰史『最強企業』だった組織はどこで間違えたのか」|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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GE帝国盛衰史「最強企業」だった組織はどこで間違えたのか トーマス・グリタ、テッド・マン著、 御立英史訳、ダイヤモンド社刊

20世紀最強の企業の一つだったゼネラル・エレクトリック(GE)。「選択と集中」「M&Aによる規模拡大」「製造業からサービス業へ」…現在の企業が目標とする事業革新を先取りした巨大企業が、なぜ21世紀に入ってまもなく没落してしまったのか?本書は世界を代表する巨大企業の大いなる「失敗史」である。

GE没落の種は、同社最高の経営者と賞賛されるジャック・ウェルチ最高経営責任者(CEO)時代にまかれていた。ウェルチCEOは大胆なリストラや成長事業の買収、肥大化した社内組織の簡素化、実力主義の人事評価、金融サービス部門の拡充などで過去最高の利益を更新、高い配当と株価の上昇で投資家からも高い評価を得る。

GE帝国盛衰史

しかし、まさにそれこそがGEの「落とし穴」になった。ウェルチの後継者であるジェフ・イメルトCEOの時代に、GEは未曾有の経営危機に陥る。それはウェルチ時代の行き過ぎたリストラや高値づかみの買収、安易な組織解体、実力主義の名の下での過酷な出世レース、金融サービス部門への過度な依存、高い配当と株価維持の強烈なプレッシャーなどが、経営の意思決定と組織統治を歪めた結果だった。

さらに「偉大な経営者」の後継者となったイメルトCEOが自らの独自性を出そうと乗り出したマーケティング主導の経営が、GEの混乱を加速していく。もがけばもがくほど泥沼にはまりこむ巨大企業の落日を、ウォール・ストリート・ジャーナルの2人の記者が詳細に描いていく。

企業のサクセスストーリーは様々だが、失敗の物語はどこも似ている。過去の成功体験と「失敗は許されない」との自縄自縛、経営不振から世間の目をそらせるために打ち出す空疎な新機軸が、「最悪の選択」に結びついていく。

現在は飛ぶ鳥を落とす勢いのGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック=メタ、アマゾン)やトヨタ自動車といった巨大企業も例外ではないだろう。いずれGEと同じ「その日」がやって来るかもしれない。

21世紀初頭のGEに何が起こったのかを知ることは、優良企業や自社の没落をいち早くキャッチする助けになる。それを防ぐにはどうすべきかの処方箋は示されていないが、早い段階で察知できれば対策を打つ時間は稼げるだろう。投資家や経営者、上級管理職には必読の書と言える。(2022年7月発売)

文:M&A Online編集部