「相談役 島耕作(全6巻)」|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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「相談役 島耕作」(全6巻) 弘兼憲史著、講談社刊

「課長」からスタートした連載も、ついに「相談役」にまでたどり着いた。ちなみにスピンオフで「学生」から「係長」までの「島耕作史」が連載されている。さて本編の最新版である「相談役 島耕作」では、社内闘争解決のための委員会設置会社化をめぐるプロキシーファイトと、中国の巨大電機メーカーによる敵対的TOB(株式公開買い付け)がストーリーのヤマだ。

相談役 島耕作(1)

二つの大きなヤマの間には財界活動やスタートアップ企業の支援、孫との交流、学生時代に付き合っていた女性との再会、さらには新型コロナウイルス感染症(COVID-19)での隔離といったストーリーがオムニバス形式で盛り込まれている。

いずれも内容は尻切れトンボ。1巻で取り上げられたスポーツのビジネス化についても現状を視察して「スポーツビジネスはアスリートにとっても協賛企業にとってもウィンウィンの関係でなくてはなりませんね」「日本もこれから意識を変えましょう」で締め括られ、具体的に何かするわけではない。

中国の取引先からのハッキングについても、中国政府が裏で糸を引いていることが暗示されるものの、ハッキングを手引きした中国人社員が殺害されて終わり。もう少し深堀りできたとは思うが、中途半端なままでシリーズの伏線にもなっていない。

本筋の敵対的TOBでもテコットの取締役会が買収拒否で一致したら仕掛けた中国企業があっさり引き下がるなど、現実には考えにくい展開なのも気になる。漫画という制約上、得られる情報量はネットでの用語検索よりも少ない。「物語」として楽しんで読む内容であり、シリーズを読んで企業コンプライアンスや敵対的買収についての知識を得ようと期待しない方がいいだろう。

組織の不条理に悩み七転八倒だった「課長」を除けば、島耕作シリーズは「サラリーマンのファンタジー」だ。現実のサラリーマンではありえない出世が続く。同様のビジネス漫画であれば、1993年から1997年にかけて連載された都市銀行総合職を主人公にした「この女(ひと)に賭けろ」(周良貨原作、夢野一子作画)の方がリアリティーがある。

「会長」「相談役」そして現在連載中の「社外取締役  島耕作」は、「社長」という会社の頂点を極めた島耕作の「エピローグ3部作」とも言える。高度成長期末期の1970年に入社し、バブル経済とその崩壊からの失われた30年を駆け抜けたサラリーマンの「着地点」は、どう描かれるのだろうか。(2020年3月〜2022年5月発売)

文:M&A Online編集部