「決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月」|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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「決戦!株主総会ドキュメント LIXIL死闘の8カ月」 秋場大輔著、文藝春秋刊

「君、クビだから」とオーナー経営者の理不尽な一言で解任され、泣く泣く会社を去った取締役の悲話は決して珍しくない。一時は話題になるが、社員も株主もそしてマスコミにも「仕方ないよな」の一言で忘れられてしまう。

決戦!株主総会

そうしたオーナー経営者のやりたい放題の暴挙が公然と非難されるのは、無軌道なワンマン経営で会社が経営危機や破綻に直面した時だ。

それまでオーナー経営者に異を唱えなかった社員や株主、マスコミ、それどころか「忠臣」だったはずの取締役までもが、「いずれこうなることは分かっていた」と堕ちたトップを激しく非難する。

とはいえ、その時には会社は再起不能に近い状態まで叩きのめされていることがほとんど。だったら、その前になんとかしよう!というのが、「コーポレートガバナンス」の考え方だ。

今や国内企業でも当たり前となっている「コーポレートガバナンス」だが、掛け声ばかりで実態が伴わない企業も少なくない。

本書は「コーポレートガバナンスの優等生」と呼ばれたLIXILグループでの「オーナー経営者の暴走」とそれに立ち向かった「プロ経営者の抵抗」を、双方の当事者から取材してまとめた「ガバナンス戦記」である。

住友商事出身で、BtoB(企業間取引)インターネット通販サイト企業のモノタロウの立ち上げと新規株式公開(IPO)を果たした瀬戸欣哉は、LIXILグループの旧トステムオーナー家出身の潮田洋一郎に乞われて同社の社長兼最高経営責任者(CEO)に就任する。

瀬戸は就任前に潮田が主導した野放図なM&Aにメスを入れ、お気に入り企業の売却を検討したことで対立が表面化。潮田から「指名委員会の総意で辞めてもらうことになった」と一方的に解任を通告される。

実践的な「コーポレートガバナンスの教科書」

ところが、当時の同社社外取締役指名委員で作家の幸田真音から「潮田さんからは『瀬戸さんが辞めたいと言っている』と説明を受けた」と聞いたことから、自らの解任劇に疑問を持つ。瀬戸は社内外の仲間たちとCEO復帰を目指し、潮田はじめLIXILグループを相手に8カ月にわたる抗争を繰り広げる。

闘争は株主総会にまでもつれ込み、両者は機関投資家や個人投資家を味方につけようと、丁々発止の攻防を繰り広げる。最後の最後まで結果が見えないスリリングな展開に、ドキュメンタリーとして読み応え十分だ。

しかし、本書の醍醐味は実例に基づく「コーポレートガバナンスの教科書」であることだ。何がコーポレートガバナンスを形骸化していくのか、それを防ぐために必要な対応とは?「理想論」ではない、実践的な示唆に富む教材と言えるだろう。

その意味で最も重要なのは、巻末の「あとがきに代えて」だ。株主総会後のLIXILグループがコーポレートガバナンスをどのように制度設計し直し、運用したのかが簡易に説明されている。コーポレートガバナンスが「仏作って魂入れず」にならないための指南書と言えよう。

本書でオーナー経営者の潮田は「悪役」だが、最大の「被害者」であった側面もある。自ら招き入れたプロ経営者の瀬戸以外は、役員も管理職も潮田の顔色を見て忖度するばかりで、正しい情報や助言を与えなかったのだ。

その結果、潮田は不用意な発言をマスコミや社員の前で繰り返すなど、自らの立場を不利にする失敗をしてしまい、株主総会で敗北することになった。油断すると、いとも簡単に「裸の王様」となってしまう経営者にとっても「必読の書」だ。(2022年6月発売)

文:M&A Online編集部