数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
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会社法 I ガバナンス編・会社法II ファイナンス編 (ネオ・ベーシック商法2) 道野真弘編著、北大路書房刊
会社法を学ぶ意味は何か?もちろん実際にビジネスを進めるためのルールを知ることが「王道」だが、法務部の社員でない限り会社法を意識しながら仕事をするケースは稀(まれ)だろう。法律はルールであると同時に、国によるデザインでもある。つまり会社法は国が「会社をどうデザインしているか」を知るツールなのだ。
本書は会社法の全体像を網羅(もうら)的に理解してもらうことを想定した初学者向けのテキストだ。M&Aについても解説している。企業買収の方法やキャッシュアウト(スクイーズアウト)の考え方と手順などが平易に説明されている。
合併についても、その定義に加えて手続きの流れについてページを割く。新設合併設立会社を除く全ての企業の合併には株主総会の特別決議が必要になるが、吸収合併だけに適用される「略式手続」や反対株主の保護、債権者異議手続などが、なぜ必要なのかを含めて俯瞰(ふかん)的に解説している。
株式交換や株式移転における株式会社の完全親子会社化、株式交付による100%ではない親子会社化、それらとは反対に自社の事業を切り出す会社分割、事業譲渡などについても触れており、ざっと全体像を把握することができる。
債務履行を不当に逃れるために会社分割を濫用するケースが増えたのを受けて、平成26年(2014年)の会社法が改正。債権者に不利となることを知りながら会社分割をした場合、承継・設立会社に対して会社分割により承継された財産価額を限度に債務の履行を請求することができるようになった。こうした最新の法改正もしっかり押さえている。
本書でM&A法制について詳しく説明しているのは、ガバナンス編の11・12章とファイナンス編の1章、合わせて30ページばかり。M&Aについて詳しく学ぶためというのなら、いささかコストパフォーマンスが悪い。そうではなく会社法全体の中でM&Aがどのような位置づけなのか、その「デザイン」を知るためならば最適の参考書と言える。木ではなく森を見るために、一読をお勧めしたい。(2022年5月発売)
文:M&A Online編集部