数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
登山中に「これはマズい!」と思ったら、すぐに山を降りるのが鉄則だという。企業経営も同じかもしれない。早い段階で経営から「降りる」決断ができれば、取引先や従業員、そして経営者自身や家族にとって「どん底」に堕ちるリスクを最小限に抑えられる。そのためには「たたみ方」を知っておく必要があるだろう
本書は会社を「たたむ」タイミングや、そのための方法や手続、そして何より「再生」についての解説書だ。この本では「廃業」よりも「再生」や「事業承継」に力点を置いている。
危機的な状況ではないが先行きが不透明なので会社を整理して、残った資産で老後を安らかに過ごそうという「石橋を叩いて渡る」経営者向きの本ではないことを断っておく。
冒頭で取り上げられるのが、江戸時代初期に創業した会津の老舗蔵元で起こった実話だ。この蔵元は昭和30年代に進出したホテル事業がバブル経済の破綻(はたん)で失敗し、廃業の危機に直面する。
蔵元はホテル事業を手がけていたグループ企業を解散し、ホテルを任意売却。それだけでは債務返済に足らず、酒蔵や経営者の自宅などはすべて競売で人手に渡った。
しかし、地元生協がスポンサーとなり、競売された酒蔵の一部を借りて酒造りを再開。その後の地酒ブームに乗り、全国からの注文に生産が追いつかないほどの「復活」を果たした。これが著者の言うところの「会社のたたみ方」だ。
そこでポイントになるのは「たたむ」のは「会社」であって「事業」ではないことだ。つまり最悪の場合、会社が消滅しても事業を承継する道を模索すべきなのだ。そのためには民事再生手続きによる自主再建と、M&Aによる株式または事業譲渡の二つの方法がある。この二つ方法について、本書は丁寧に分かりやすく解説している。
もちろん会社の清算や破産についてもページを割いているが、「事業」を残すことを前提とした「たたみ方」であることに留意したい。
企業にも経営者と同じで寿命がある。が、1人の経営者が死んだとしても、その後継者が会社を引き継いでいく。「事業」という視点で見れば、会社の「たたみ方」次第で不死鳥のように甦ることができるのだ。会社を「たたむ」ことが、不確実な時代を生き残る「究極のリスク管理」なのかもしれない。(2022年3月新訂版発売)
文:M&A Online編集部