「権力者と愚か者 FT編集長が見た激動の15年」|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

「権力者と愚か者 FT編集長が見た激動の15年」 ライオネル・バーバー著、日本経済新聞出版刊

高級経済紙として世界的な名声を得ている英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)。各国の首脳や政治指導者、ビジネスリーダーから一目も二目も置かれる。FTの編集方針は「恐れずに、媚びずに」。その編集長を2005年から2020年1月まで15年間務めた著者は在任中、世界中の「権力の側」の人々と対話する機会に恵まれた。克明なメモを頼りに、日記形式の回顧録に仕上がったのが本書だ。

権力者と愚か者

FT編集長の“特権”なのだろうか、世界のあらゆる要人へのインタビューが実現している。米国のトランプ大統領、ロシアのプーチン大統領、ドイツのメルケル首相、インドのモディ首相、中国の温家宝首相、香港政府の林鄭月娥行政長官、安倍晋三首相…。現在のジョンソン氏にいたる歴代の英国首相は当然。アフリカ、中東にも何度も足を運んでいる。それぞれの人物評も興味深い。

編集長が在任したのは世界金融危機の前夜から、コロナ一色に世界が染まる直前までの間。リーマンショック(2008年)やブレグジット(英国の欧州連合離脱、2016年)については自身予想していなかった事態だったとし、FTの編集トップとして反省の弁を記している。

デジタル革命の進展とともに、FTの経営にも深刻な影響を及ぼし始めたのが新聞離れ。紙媒体からデジタルファーストにどう舵を切るのか、苦闘のあとが随所にのぞく。

2015年、FTの経営に激震が走った。日本経済新聞社に傘下に入ることになったからだ。当初はドイツの大手新聞・出版グループのアクセル・シュプリンガーが本命視されていたが、ダークホース的存在の日経が最後に抜け出した。新オーナーとなった日経の喜多恒雄会長は何年も前からFT買収を切望していたという。

FTと並ぶ英語圏の2大経済紙の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は2007年に“メディア王”と呼ばれるマードック氏の傘下となり、米最有力紙のワシントン・ポスト紙は2013年にアマゾンの創業者ベゾス氏に売却された。そうした流れの中で、FTが日経の一員となって早5年以上。M&A後の相乗効果が気になる。(2021年9月発売)

文:M&A Online編集部