数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
「日本のM&Aの歴史と未来」 金融財政事情研究会 編・著 きんざい 刊
「待望の一冊」といっていいかもしれない。企業の大小や業種を問わず、日本でも今や経営の常套手段となったM&Aだが、黎明期からの歴史を知る人はさほどいない。M&A先進国・米国、その背中を追ってきた日本のM&Aの過去・現在・未来を俯瞰しようと試みたのが本書だ。
日本におけるM&Aの夜明けは1980年代といわれる。転機はプラザ合意(1985年)による急激な円高。輸出で稼ぐビジネスモデルは転換を迫られ、多くの日本企業が現地生産にかじを切った。これにより、80年代後半から海外M&Aの流れが生まれた。
そのころ、ようやく日本で最初のM&A専業会社が誕生した。山一証券出身の吉田允昭氏が1987年12月に設立したレコフだ。吉田氏が独力で立ち上げたレコフの成長を案件面で支えたのが当時流通最大手のダイエーの総帥・中内功氏だった。
翌1988年10月には日米合弁による野村企業情報がスタート。こちらはM&Aビジネスの本格到来を見据え、野村証券の肝いりで誕生した。
M&Aプレーヤーとしては従来、一般事業会社が独自に社内のスタッフで取り組んでいるケースをはじめ、証券会社、銀行、商社が自社内で取り組むケース、日本進出の外国金融機関が取り組むケースがあったが、そこに新たに出現したカテゴリーが専業会社。レコフ、野村企業情報(2002年に野村証券が吸収合併)が基礎を築いたのだ。
3章構成の本書のうち、3分の1以上の100ページ強を割いた第2章では野村企業情報の初代社長を務めた後藤光男氏にフォーカスした。同氏に白羽の矢が立った理由は、日本にM&Aビジネスをどう根付かせたのか、日本流M&Aの神髄とは…。先人の苦闘を活劇さながらのタッチで描いている。
M&Aが本格的に脚光を浴びるようになった1990年代以降、M&Aの専業会社が次々に生まれた。第3章では渡辺章博・GCA創業者、三宅卓・日本M&Aセンターホールディングス社長、荒井邦彦・ストライク社長、中村悟・M&Aキャピタルパートナーズ社長の4氏が「日本のM&Aの現状と未来」をテーマに語り合う。
渡辺氏は1980年代初めに単身で米国に渡り、ニューヨークの大手会計事務所でキャリアを積んだ。米国のM&Aの成り立ちを踏まえ、日米のM&Aの違いなどについて卓見を披露し、思わず引き込まれる。
現下の日本経済が直面する課題が中小企業の後継者不在。こうした課題の解決に期待されているのがM&Aにほかならない。第1章では中小企業M&Aを取り巻く最新の状況を解説している。(2021年11月発売)
文:M&A Online編集部