数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
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「スモールM&Aのビジネスデューデリジェンス実務入門」 寺嶋直史、齋藤由紀夫 著 中央経済社刊
著者は、事業再生コンサルタントとして、さまざまな企業の再生に携わってきた経験を持つ。事業再生では企業の調査、分析を行い、業績低迷に陥った要因を突き止める「ビジネスデューデリジェンス(ビジネスDD)」を行ったうえで、 「事業調査報告書」や「経営改善計画書」 を作成し、具体的な支援を行う。
ただ、ビジネスDDは単なる企業情報の整理にとどまり、実態とはかけ離れていることが多いという。それでもM&AのビジネスDDと比べるとクオリティーは高いと言い切る。
それはM&AのビジネスDDが、買い手企業側の一般社員が実施するケースが多く、どうしても品質が低くなるためだとし、買い手企業は売り手企業の事業の中身(事業内容の現状、問題点、強みなど)を理解しないまま購入しているのが現状と分析する。
そこでM&AアドバイザーやM&Aを検討している経営者、M&Aの実務を担当している社員、銀行員、投資家らを対象に、中小企業のM&AのビジネスDDの詳細についてまとめたのが本書だ。
筆者は、ビジネスDDで重要なことは、会社の問題点と強みを一つひとつ丁寧に発見し「見える化」することであるとし、そのための方法やノウハウを示している。
例えば、第5章で取り上げたヒアリングでは、企業には表に出ている問題点や強み以外に、社長や従業員も気づいていない隠れた問題点と強みがあり、これら情報を漏れなく確実に取り込むための手法として「録音やパソコン入力は行わず、重要な情報は手書きで紙にメモする」などの「ヒアリング7ルール」を示している。
また第11章では社長のタイプを取り上げ、中小企業の経営は社長個人の力量やスタイルに大きく影響されるため、ビジネスDDでは社長自身がどのようなタイプなのかを把握することも重要としたうえで、判断の目安となるよう、社長のタイプを6つに分けた表を掲載。
加えて社員の能力が業務のスピードや品質に大きくかかわるため、社員の力量を図ることも必要とし、業務レベル評価表の作成手順などについても言及している。
さらに、最終章の第16章では、多くの経営者がM&Aを失敗したと感じているとしたうえで、その原因が事業や業務の内容をしっかりと理解しないまま買収後の統合作業(PMI)を行っているか、PMIに力を注いでいないことにあると分析し、「ビジョンの明確化」などのPMI成功のための7つのポイントを示した。
M&Aに必要な一般的な知識だけでなく、随所にノウハウが盛り込まれており、実務に携わる人たちの手引書となりそうだ。(2021年10月発売)
文:M&A Online編集部