「第三者委員会」の欺瞞|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

「第三者委員会」の欺瞞 報告書が示す不祥事の呆れた後始末 八田進二著、中公新書ラクレ

大企業や省庁で不祥事が起こると、必ずのように立ち上がる「第三者委員会」。不祥事の真相究明と再発防止が目的だが、全ての第三者委員会が成果をあげているわけではない。調査は中途半端でモヤモヤとした印象しか残さず、あまつさえ報告直後に同じ会社で新たな不祥事が露見することも珍しくない。

第三者委員会の欺瞞

にもかかわらず、不祥事が明るみに出ると第三者委員会が開設され、マスコミはその調査報告を大きく報道する。なぜ多くの第三者委員会が十分に機能しないのか。著者は会計学者の視点で第三者委員会の問題点を洗い出す。

本書は著者もメンバーになっている「第三者委員会報告書格付け委員会」での議論をもとに10件の事案を検証している。第三者委員会はコンプライアンス(法令遵守)という用語と共にバブル崩壊後の1990年代後半に登場したため、欧米から輸入されたと考えられがちだが、実は日本で生まれたスキームだ。

第三者委員会のルーツは1997年12月に自主廃業に追い込まれた山一證券の「社内調査委員会」だったという。同委員会の報告は、すでに同社が経営破綻していたこともあり、巨額の簿外債務が発生した原因や、それが見逃された経緯について詳細に調べ上げた内容だった。

重要なのは「Why?」

しかし、その後の企業不祥事で第三者委員会が立ち上がると、真相究明や再発防止よりも責任回避やすでに社を去った元経営者の糾弾などに走るようになる。近年は経営陣が記者会見での厳しい質問をかわすために第三者委員会に説明責任を丸投げし、報告書が出る頃には世間の記憶が薄まっていることに期待する傾向すらあるという。

そうした「隠れ蓑」的な第三者委員会の報告書は「コンプライアンス意識の低さ」(神戸製鋼所)、「内部統制が機能していなかった」(東芝)、「企業風土」(東洋ゴム工業)という総花的な原因を羅列して「猛省の上に立って再発防止に取り組むべきである」(厚生労働省)との「精神論」で終わる。そして、その舌の根も乾かぬうちに不祥事が再発するという構図になる。

そうならないためには、どうすればいいのか。必要な視点は「Why?(なぜ)」だという。「なぜ、コンプライアンス意識は低いままだったのか?」「なぜ、内部統制が機能しなかったのか?」「なぜ、そうした企業風土が形成され、温存されたのか?」。それなしに真の問題点は見つからないし、再発防止もおぼつかない。

これは何も第三者委員会だけの話ではない。トヨタ自動車のトヨタ生産方式では「なぜ(Why?)を5回繰り返せ」が鉄則という。ベルトコンベアが異常停止した場合、「なぜ、止まったのか」「ラインを動かす歯車が破損したからだ」「なぜ?」「潤滑油が供給されなかったからだ」「なぜ?」「自動注油装置が詰まってしまったからだ」「なぜ?」「高温でパイプ内の油が固化したからだ」「なぜ?」「自動注油装置のすぐ横に塗装乾燥用ダクトが通っていたからだ」と、真の原因に迫っていく。

これが最初の「なぜ?」で終わったら、新しい歯車に交換して終わり。しばらくはベルトコンベアも動くだろうが、歯車は潤滑油切れで再び破損して同じトラブルに見舞われることになる。第三者委員会を立ち上げなくてはならなくなる前に、「なぜ?」を5回繰り返す「企業風土」を社内に植え付けるべきだろう。それは組織にとって、最高の危機管理なのだ。(2020年4月発売)

文:M&A Online編集部