『アパレル興亡』|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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『アパレル興亡』 黒木 亮 著 岩波書店 刊

今年5月、アパレル業界に激震が走った。レナウンが経営破たんに追い込まれたのは記憶に新しい。30年に及ぶ長期低落に歯止めがかからず、綱渡りの経営が続いていたところに、新型コロナウイルスの影響がダメを押した。

かつて売上高トップを誇り、業界盟主を自任していたレナウンの凋落は同業各社にとどまらず、すべての企業にとって決して他人事ではない。そのことをアパレル産業の変遷を踏まえ、如実に教えてくれるのが本書だ。

……頭にあるのは、レナウンや樫山に迫り、ワールド、イトキン、三陽商会を蹴散らすことだけだ。

物語の舞台はアパレル業界6位のオリエンタル・レディ。戦後の混乱の中でスタートし、めきめき頭角を現し、大手の一角を占める。その同社を長年率いるのが社長の田谷毅一だ。抜群の商売センスとエネルギーの持ち主で、業界で「ミスターアパレル」の異名をとる。

アパレル興亡

先にあげた社名を見れば、オリエンタル・レディ以外はいずれも実在する会社。レナウンは1902(明治35)年に創業したアパレルの草分けであり、樫山(現オンワードホールディングス)も1927(昭和2)年に創業し戦前から名をなしていた名門だ。草創期のイトーヨーカ堂、今をはばたくユニクロ、ZOZOなども登場する。

その中で、田谷率いるオリエンタル・レディの来し方行く末を通じて、日本のアパレル産業の栄枯盛衰をあますところなく描いている。

戦後、日本のアパレル産業は朝鮮戦争勃発(1950年)によるガチャマン景気(別名、糸へん景気)で息を吹き返し、その後の高度経済成長で黄金期を迎えた。そして2度の石油危機、バブル崩壊。平成になると、製造小売り業(SPA)のユニクロに象徴される主役交代が現実のものになった。

オリエンタル・レディも時代の波には抗えない。内部留保は厚いが、ヒット商品が出ない。そこを衝かれて村上ファンドの標的になり、株を買い占められるのだ。実際の出来事として、かつて村上ファンドがアパレル大手の東京スタイル(現TSIホールディングス)と全面対決した一件をほうふつさせる。

物語は社長の田谷が急逝することから急転する。M&Aだ。田谷を欠いたオリエンタル・レディは新興アパレル企業との合併で活路を見いだそうとするが、経営の主導権は果たして?

経済小説でありながら、その域を超えるスケール感に圧倒される。戦後の日本経済の歩みを通読できる“一大産業絵巻”といえる力作だ。(2020年2月発売)

文:M&A Online編集部