『ラストチャンス 参謀のホテル』|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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『ラストチャンス 参謀のホテル』江上剛 著、講談社文庫

経営不振に陥っている三大名門ホテルと称される大和ホテルの再建を託された樫村徹夫が、次々と立て直し策を打ち出す中、中国の格安ホテルへの売却話が持ち上がる。 

大和ホテルの再建はなるのか、それとも中国企業の傘下に入るのか。銀行からの借り入れ利率を巡る不正などもからみ、事態は思わぬ方向に展開する。 

銀行員による不正の手口、ファンドの暗躍、中国資本の動向、政財界のフィクサー(黒幕)の存在など興味を引く要素が散りばめられており、樫村自身や家族に身の危険が迫る中、結末に向かって緊迫感が高まる。 

難しい用語や仕組みなどはほとんどないため、企業再生やM&Aに関わる人たちだけでなく、誰でも読み通すことができる。 

参謀のホテル

物語は大学講師をしている元エリート銀行員で、飲食店チェーンなど様々な会社を再建した実績を持つ樫村徹夫のもとに大和ホテルの再建話が舞い込むところから始まる。 

大和ホテル再生の依頼人は大和ホテルの40%の株式を保有する実質オーナーの金杉芳雄。金杉はバブル前後に名を馳せ、今では表舞台から姿を消した政財界のフィクサーだ。 

大和ホテルの創業家でありオーナー意識の強い木佐貫家と金杉は対立しており、創業家の娘で、社長の木佐貫華子は両親が金杉に殺されたと思い込み強い憎しみを持つ。 

木佐貫華子は金杉が送り込んできた樫村の存在を好ましく思っておらず、再建には一切協力せず、樫村を遠ざける。一方、樫村は社員のモチベーションを上げることが再建にとって最も重要と考え、独自に社員から意見を吸い上げ次々と手を打ち成果を上げ始める。 

そんな中、突如、銀行や保険、不動産などを広く手がけ、格安ホテルチェーンとして世界2位の規模を持つまでに成長した中国の企業集団が、大和ホテルの買収に動き出した。背後には悪名高いファンドがついている。 

物語は銀行借入金に対する金利の利率を巡る不正や、金杉と木佐貫華子との真の関係など明らかになり、やま場を迎える。 

最後のどんでん返しにはややあっけなさを覚えるが、それまでの緊迫感が最高潮に達していただけにホッとした感情も湧いてくる。(2020年4月発売)

文:M&A Online編集部