数あるM&A専門書の中から、新刊を中心にM&A編集部がおすすめの1冊をピックアップ。選書の参考にしてみては?
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『ゼロからわかる事業承継・M&A 90問90答』
植木康彦編著、髙井章光、榑林一典、宇野俊英、上原久和共著・税務研究会出版局刊
国内中小企業の6割に当たる245万社の社長が、数年内に70歳の「平均引退年齢」を迎えると言われている。しかし、その半分の127万社で後継者が決まっていない。最悪の場合、財務内容が健全にもかかわらず廃業を選択することになる。日本経済にとっては独自の製品・部品や技術、雇用を失うことになりかねない「大きな痛手」だ。
強い危機感を抱いた政府は2018年4月からの10年間限定で、事業承継のために相続や生前贈与された非上場株式への課税を猶予する「特例事業承継税制」を適用している。親族や役員、従業員への事業承継で株式を無償譲渡するのに画期的な制度であり、まさに今が「事業承継のチャンス」といえる。
とはいえ、事業承継を経験している中小企業は少ない。経営上の悩みであれば社長仲間に相談もできるが、事業承継となると経験者が少ないだけにアドバイスを受けることすら難しいのが現実だ。事業承継の経験豊富な会計事務所や法律相談所も少なく、いざ事業承継という段階になって途方にくれる経営者が多い。
本書では事業承継を、文字通り「ゼロからわかる」形で紹介するマニュアル本だ。取っつきやすい一問一答形式で、事業承継の準備や手続きなどについて解説している。「事業承継とは何か」から始まり、具体的な進め方や承継する事業が健全かどうかを判定する方法、不健全だった場合にどのような形で承継すれば良いのかなど、極めて実践的な内容だ。
「後継予定者が複数の場合の会社分割の利用」や、逆に「対象企業が複数あるケース」、事業承継に必要な「資金調達の方法」、承継する「譲渡対象資産に第三者所有資産がある場合の対応」など、事業承継で予想される手続きやトラブルを網羅している。
承継する相手が親族か、自社の役員や従業員か、それとも第三者かで、それぞれのケースごとに必要な準備も説明。不幸にして廃業を選択せざるを得ない場合の対応策など、「かゆいところに手が届く」内容。事業承継に悩んでいる経営者はもちろんのこと、中小企業をサポートする金融機関や士業、行政、商工会議所関係者にも読んでいただきたい1冊だ。 (2020年4月発売)
文:M&A Online編集部