ブロックチェーンで変わる未来 銀行がなくなるかも

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ブロックチェーンで変わる未来について講演する野口悠紀雄氏

将来、経営者も労働者もいない無人のタクシー会社ができるかも知れない

経済学者で一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏は近未来をこう予想した。2018年11月27日に東京都中央区のGINZA SIXで開催されたリーガルテック展で「ブロックチェーンで変わる未来」をテーマに講演。

「AI(人工知能)による自動運転と、ブロックチェーンによる自動車のシェアリングが結び付けば、経営者やドライバーらがいなくても、全く無人のタクシー会社が成り立つ」と語った。

ブロックチェーンは仮想通貨を支える重要な技術。ブロックチェーンに書き込まれた情報は石に刻み込んだ情報と同じで、書き換えることが難しい。日本ではコインチェックやテックビューロによる仮想通貨の不正流出事件が発生しているが、これらは仮想通貨の保管場所であるウォレットから盗み出されたもので、ブロックチェーンが書き換えられたものではなかった。

金融庁は仮想通貨交換業者に対し、セキュリティー対策や内部監査体制の強化などを求めて業務改善命令や業務停止命令を発令したが、ブロックチェーンそのものに対する指導はなかった。

現在、大手企業が経営基盤の脆弱だった仮想通貨交換業者のM&Aを実施し、仮想通貨交換業界に落ち着きが見られるようになってきた。

性悪説に立っても、事業を実行できる

講演ではブロックチェーンについて「お互いに信頼できないグループと組んで、信頼が必要とされる業務ができるかという問題に、これまでは解が無かった。しかしブロックチェーンはこれに対する答えを出した。これはコンピューターサイエンスの偉大な進歩」とした。

そのうえで、「仮想通貨やブロックチェーンの重要な点は管理主体無しに通貨という非常に信頼が必要な運用ができること。性悪説に立っても、事業を実行できる可能性があることを実証した」と説明。

さらに「これまでは通貨を電子的に送ることができなかった。ビットコインによってそれができるようになった。今でもできるという方がおられるかもしれない。例えば通販でクレジットカードの番号を入れると買い物ができる。確かにそれはその通りだが、それは通販会社が大企業であり、まさか私のクレジットカードを使って悪いことはしないだろうという信頼があるため」と分析。

さらに「これまでの仕組みは性善説に立った事業しかできなかった。だから巨大企業が信頼性を獲得できた。それが変わる。相手を信用しなくても経済的な価値を送れるようになった。これは極めて重要な変化」とブロックチェーンを高く評価した。

市中銀行が無くなる

ブロックチェーンの金融面での応用について「仮想通貨は中央銀行が発行することも考えられる。そうなると送金は中央銀行の仮想通貨を使えば良いので、銀行預金がいらなくなる。したがって市中銀行が消滅する可能性がある」と警告。

さらに「あらゆる取引を中央銀行が把握できることになり、個人のプライバシーが無くなるということが考えられている。どちらも大変重要な問題なので、中央銀行の仮想通貨はなかなか難しい問題があるが、中国では可能性がある」とした。

金融以外の応用についても「文書の存在証明も応用例の一つ。これは過去のある時点において、ある内容を持つ文書が確かに存在していたということを証明するサービス。例えば新しいアイデアを思い付き特許を取ろうとする時、後から考えついた人が特許を取ってしまうことがある。その時、私の方が先に思い付いていましたということを証明することができる」という。

このほかにも「自動車の売買の記録をブロックチェーンに書き込むと、電子的に極めて簡単に記録ができる。そうすると自動車の売買をすることと、レンタカーをすることがほとんど同じことになる。レンタカーをするように自動車を売買することができる」

「一方でAIを用いた自動運転が可能になりつつある。自動運転と所有権の簡単な移動が結びつけば、世界は大きく変わる。自動車を保有するのでなくてシェアリングで利用するようになり、シェアリングを全く無人でできるようになる。自動車を全く無人のサービスで利用できるようなる」と未来の社会を描いてみせた。

そして「これは夢の社会ではなく、ついそのあたりまで迫っている」と結んだ。

文:M&A Online編集部