【解説】内部告発文書で不正が発覚した「アウトソーシング」

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アウトソーシングの「レガシー」

ビズサプリの久保です。前回は、架空売上を行い上場廃止となったグレイステクノロジーを取り上げました。これは、客先からの入金を創業経営者が個人資金により偽装するという珍しい事例でした。(前回の記事はこちら)

今回はプライム市場上場会社のアウトソーシングを取り上げます。こちらの事例は、上場会社の中でも多かれ少なかれありうる企業風土の問題に起因するものでした。調査報告書は120ページを超える大作ですが、できる限り要点を絞ってお話したいと思います。

1.発覚から調査委員会の設置まで

2021年9月8日、一つの内部告発文書が監査法人に届きました。これは株式会社アウトソーシングテクノロジー(以下「OST」)の子会社である株式会社アネブル(以下「EN」)における仕掛品についての不適切な会計処理を告発するものでした。

翌日の9日には監査法人は当該会社の監査等委員会に連絡し、事実関係の把握等を要請しました。

OSTは、株式会社アウトソーシング(以下「OS」)の子会社です。OSは、主に製造企業を顧客として、業務請負や人材派遣を行う会社です。静岡市において代表取締役の土井春彦氏が創業し、2004年にジャスダック市場に上場後、2012年に東証二部、翌年には東証一部に上場しています。創業経営者のリーダーシップの下、国内外におけるM&Aにより事業拡大している会社です。

OSは、主要子会社であるOSTを上場させる予定でした。OSTは、上場準備期間を経て、この告発の約3か月前の2021年6月に東証に上場を申請していましたが、結局のところ、この不祥事を受けて上場申請を取り消しています。

9月29日開催のOSの取締役会において外部調査委員会の設置が決議され、調査が開始されました。この調査は予想外に長期化し、調査開始から3か月後の12月28日に調査報告書が公表されています。

参考「OSグループ各社の関係(本稿に記載した会社のみ)」
株式会社アウトソーシング(OS)=>100% =>株式会社アウトソーシングテクノロジー(OST)=>99.5% =>株式会社アネブル(EN)

2.過年度訂正の内容

OSは、2021年12月期において、連結売上高5,693億円、営業利益241億円で、国内外に連結子会社246社、12万人の従業員を有する、いわば「堂々たる」プライム市場上場会社です。2016年12月期から国際会計基準(IFRS)に基づく連結決算を行っています。

2021年12月期の期首における過年度訂正による累積的影響額(利益剰余金への影響額)は約25億円であり、OSにとってあまり大きい金額とは言えません。

会計不正は2016年12月期ごろから行われていましたが、2019年12月期以前のものは影響額が大きくないため、2019年12月期にそのすべてが反映されています。

この会計不正は主に営業利益に影響を与えるものでしたが、各年度において10億円から15億円程度の営業利益の水増しがあったと理解できます。2020年12月期で言うと、本来は営業利益133億円であるところ、143億円と公表していたということになります。2021年12月期においては、これらの過年度訂正が約3.4億円の利益増加要因となっています。

意図的な利益操作といっても、この規模の会社にとっては、これは微調整のレベルであり、なぜこの会社がこのようなことをしたのか疑問に残るところです。まずは、この会計不正の概要を見ておきましょう。

3.アネブル(EN)の会計不正

ENでは監査法人への告発の約半年前の2021年2月に、前渡金に関わる不適切な会計処理が社内で発覚していました。ENは、親会社であるOSTの内部監査を受けていましたが、その際にENの従業員は、OSTの内部監査室及びOSTの執行役員(ENの取締役を兼務)に対して、前渡金以外の不適切な会計処理もあること伝えましたが、その内容は確認されず、隠蔽されたとのことです。

当時のEN社長であったX氏が経理部長に対し「予算を達成したいが、何とかならんか」などと依頼したことから、経理部長がさまざまな会計不正を実行したとされています。

社長は利益操作をするように指示したわけでなかったものの、その具体的な内容について経理部長から報告を受けていたことから、「社長が指示した」と調査報告書では認定しています。

今回の調査報告書の中で、過年度影響額が一番大きかったのは、ENにおける減損損失の回避でした(税引前利益の過大計上が2019年3月期166百万円、2020年3月期842百万円)。ENはエンジン試験の受託業務を行う拠点をいくつか持っていますが、そのうちの2拠点の業績が悪く、拠点設備等の減損処理が必要となる状況に陥っていたようです。

これを回避するために、他の部署の売上を付け替え、その2拠点の業績を良く見せることにより、減損損失を回避したというのがその内容です。

4.企業グループ全体で見つかった会計不正

調査委員会が調査を始めてみると、それ以外に多くの会計不正が見つかりました。会計不正はENだけでなく、OSTやグループの親会社を含むOSグループ17社で見つかりました。

調査委員会の調査が長引き、第3四半期報告書の提出を再延長せざるを得なくなったのは、このためと考えられます。結果的に、OSグループ会社の会計不正は、売上架空計上、費用繰延、売上早期計上、仕掛品過大計上、減損損失回避など10事案に上ります。

5.アウトソーシング(OS)とアウトソーシングテクノロジー(OST)の「レガシー」

親会社のOSでは2013年3月期頃、当時の専務取締役Z氏が「レガシー」と命名した利益操作を指示していたことが分かりました。第4四半期になると、各部署に対して「オーガニック挽回策は各自XX千万円以上、レガシー策は別途記載」などとメールでの指示が行われていたのです。

オーガニック挽回策とは、通常の営業推進やコスト削減努力であり、レガシー策は不正な利益操作を意味します。レガシーの主なものは、「バーター取引」と「経費の先送り」でした。

バーター取引とは、取引先に対して水増しした売上を計上し、翌年度に同じ取引先に対してそれを相殺する取引として経費取引を行うというものです。翌年度には経費が計上されるため、経費の先送りと同様、予算達成のための苦肉の策と言えます。これらの取引額を毎期増加させれば、利益のかさ上げ効果はあるものの、翌年度の経費負担も増えることになります。

当時の専務取締役のZ氏の指示を受けたC氏は、Z氏の退任後は自らが専務取締役に就任しレガシーを続けました。C氏は「レガシー早見表」を作成してこれを管理していました。翌年度に計上される経費を予算に反映する必要があったためです。

子会社のOSTにおいてもOSの「伝統」を受け継ぎ、自社内でレガシーが行われました。OSTでは、通常の営業施策もレガシーと呼び、「営業利益を積み増す方策」と認識している者もいたようです。

6.OSグループの内部通報体制とコンプライアンス委員会

内部通報窓口業務は、国内グループ会社は専門会社に依頼し、海外グループ会社は現地の弁護士に依頼していました。しかし、そもそもOSには内部通報規程がない(OSTにはある)状況でした。どこの会社にもあるはずの規程がないというのは、監査等委員監査や内部監査で簡単に発見できたと思います。内部通報制度は、J-SOXにおける全社統制の一つでもあるので、規程がないことは監査法人が指摘すべきでした。

また、OSにはコンプライアンス委員会がなかったようです。OSは、東証に提出した改善報告書において「コンプライアンスに関する会議体」を設置するとしています。

7.Tone at the Topの欠如

OSの改善報告書では、調査報告書を受けて「右肩上がりの成長への固執や予算達成へのプレッシャー」がこの会計不正の原因であったとしています。

実際に不正を実行したのは、経理部長などの社員であり、それを内部監査室や常勤監査等委員が隠蔽した形になっています。しかし、右肩上がりに固執したり、プレッシャーを与えたりしたのは、社員ではなく経営者です。調査報告書では「レガシー」を始めたのは元専務取締役のZ氏であったとしていますが、Z氏は創業者社長の意向を汲んでこれを実行したのは間違いないと思います。

これは、OSTの子会社であるENにおいて、当時の社長が経理部長に対し「予算を達成したいが、何とかならんか」などと依頼したことと、図式は同じです。OSグループの上から下まで、同様のカルチャーがあったと判断できます。

OSグループ全体における「監査法人に見つからなければ、少々の利益操作は許される」という長年醸成された企業風土が問題です。しかし、それがつくられたのは、創業者社長を含む経営層が「不正は許さないと宣言しその姿勢を社内に示す」こと、すなわち”Tone at the Top”が欠如していたことが根本原因と言えます。

文:久保 惠一(公認会計士)
ビズサプリ通信 メールマガジン(vol.154 2022.6.8)より転載