ビズサプリの久保です。新型コロナは5月から5類に移行することが決まり、ようやくコロナ前の日常に戻りつつあります。今回は、1月31日に改正開示府令が公表されましたので、前回の「非財務情報が財務情報だった」の続編として、具体的な開示内容についてお話したいと思います。
開示府令の対象になる有価証券報告書は、投資家が投資判断に使う情報です。サステナビリティ情報は、非財務情報であると言われてきましたが、この一部が財務情報になってきたということができると思います。
サステナビリティに関する開示は、「サステナビリティに関する考え方及び取組」という記載欄(サステナビリティ記載欄)を新たに設けて記載することになります。ここでは「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」の4つの項目に分けて記載します。
これは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が提唱した4つの柱に該当します。2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、TCFDを気候変動に関する「国際的に確立した開示の枠組み」とし、プライム市場上場会社は「TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである」としています。
開示府令の改正によって、有価証券報告書を提出するすべての会社(上場会社と一部の非上場会社)に対してTCFDの枠組みに基づく開示が求められることになったことになります。
気候変動開示の枠組みが、サステナビリティ情報全体に適用されることには違和感があるかもしれません。これは、現在、国際サステナビリティ開示基準が検討されており、ここでTCFDの4つの柱が採用される見込みであるためです。この基準は今春には確定し、それに基づき日本での基準検討が行われる予定です。
日本のサステナビリティ開示基準が公表されれば、有価証券報告書の開示は、その基準に基づいた開示になるものと予想されます。
改正開示府令では、サステナビリティ記載欄において、人的資本(多様性を含む)について記載することを求めていますが、そのほかのサステナビリティ情報として何について記載するのかについて規定されていません。
どのようなサステナビリティ課題について記載するかについては、各社における重要性に応じて判断することになります。4つの柱のうち「戦略」と「リスク管理」については必須記載事項ですので、ここで特定することになると思います。
前述のとおり、プライム市場上場会社については、コーポレートガバナンス・コードによって気候変動に関する開示が求められています。自社にとって重要なサステナビリティ課題について十分検討することが必要となります。
人的資本(多様性を含む)の開示については、サステナビリティ記載欄と「従業員の状況」の2か所に記載することになります。
サステナビリティ記載欄では、「戦略」と「リスク管理」については必須記載事項ですが、「戦略」と「指標及び目標」は重要性に応じて記載することとなっています。ただし、人的資本(多様性を含む)に関しては「戦略」と「指標及び目標」への記載が必須となっています。
「従業員の状況」には、これまで従業員数、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与などが記載されていますが、これに加えて女性活躍推進法に基づく開示として、女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女賃金差異を記載することになります。
女性活躍推進法では、数値目標を含む行動計画を策定して情報公開することが求められています。上記の3つの数値目標以外の目標を定めて公表している場合には、「従業員の状況」への記載を省略できます。
これら3つの数値目標は、親会社と連結子会社それぞれについて記載します。女性活躍推進法は、常時雇用する労働者数が101人以上の事業主に適用されることから、親会社または連結子会社のうち、この法律が適用されない会社については、記載不要となります。
金融庁は、サステナビリティ情報については、現在、国内外において、開示の基準策定やその活用の動きが急速に進んでいる状況であるため、サステナビリティ情報の開示における「重要性(マテリアリティ)」の考え方を含めて、今後、国内外の動向も踏まえつつ、開示府令の改訂を行うことを予定しているとしています。
ビズサプリでは、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の記載方法や保証業務についてのご相談をお受けしています。お気軽にご連絡ください。
文:久保 惠一(公認会計士)
ビズサプリ通信 メールマガジン(vol.166 2023.2.8)より転載
学歴:1976年 大阪大学経済学部卒業
職歴:大学在学中に公認会計士試験に合格し、監査法人トーマツに入社。カナダバンクーバーの提携先会計事務所で実務経験。大手メーカーや銀行などの会計監査と株式上場支援を経験。監査法人内でリスクコンサルティング事業を立ち上げ、15名から450名の組織に拡大した。 監査法人トーマツのボードメンバー、デロイトトーマツリスクサービス株式会社代表取締役社長、トーマツ企業リスク研究所所長、情報テクノロジー本部長を歴任。石油公団資産評価・整理検討小委員会、東京電力点検記録等不正の調査過程に関する評価委員会、総合資源エネルギー調査会石油部会、原子力施設安全情報申告調査委員会などの政府委員会に参加。大手信販会社総会屋利益供与事件、信用情報機関の個人情報漏洩事件、東京2020オリンピック・パラリンピック招致に関わる海外支払の調査に関与。 元中央大学大学院客員教授
資格:•公認会計士•カナダ(ブリティッシュコロンビア州)勅許会計士
主な著書:•『東芝事件総決算』(単著、日本経済新聞社)•『水リスク−大不足時代を勝ち抜く企業戦略』(編著、日本経済新聞出版社)•『リスクインテリジェンス・カンパニー』(編著、日本経済新聞社)•『内部統制報告実務詳解』(編著、商事法務)