旧琵琶湖ホテル 絢爛豪奢な“公民館”|産業遺産のM&A

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現在は「びわ湖大津館」として運営されている旧琵琶湖ホテル。南側から望む。

琵琶湖の南岸・大津市の柳が崎湖畔公園に豪奢な佇まいの公的な文化施設がある。旧琵琶湖ホテル本館。現在の「びわ湖大津館」である。ホテルの佇まいを生かした大規模な多目的ホールを擁し、ホテルの各部屋は貸し会議室として市民に開放されている。そのほかにもカフェ、レストランなどを備え宴会・結婚式場としても対応するほか、屋外にはイングリッシュガーデンも備えている。

外観は、桃山風の破風造り。歴史と風格を感じさせる、まさに絢爛豪奢な趣のある“公民館”といったところだろう。2000年には大津市指定有形文化財に登録され、2007年には経済産業省の近代産業遺産群に認定された。

昭和天皇もヘレン・ケラーもジョン・ウェインも、川端康成も…

各界の著名人にも愛された旧びわ湖ホテル

旧琵琶湖ホテルは1934年に外国の要人を招く国策として全国の主要観光地に建造された国際観光ホテルの1つである。国際観光ホテルとは、1949年12月に施行された国際観光ホテル整備法にもとづいて国が登録を行った旅館やホテルのこと。現在も一定の基準のもと全国の主要観光地に設置されている。だが、法の制定に先立って1930年代に国策として建築・開業した国際観光ホテルの多くは解体されるなどして、その姿を消しているようだ。

琵琶湖ホテルは開業当時から国内外の多くの要人を魅了した。昭和天皇をはじめ多くの皇族の方々、また、ヘレン・ケラーやジョン・ウエイン、川端康成など、多分野の著名人を迎えてきた。その姿は、まさに“湖国の迎賓館”といった趣だっただろう。

豪華なホテルで市民サークル!?

真紅のカーペットが伸びるロビー

現在はびわ湖大津館となっている旧琵琶湖ホテルを覗いてみた。外観は栄華を極めた城郭・天守閣のようでもあり、荘厳な寺院建築物のようでもある。ところが公的な施設だけに、入館料はかからない。特定の施設利用のほかはタダ。自由に入ることができる。

北側に位置する重厚な正門玄関をくぐると、和風の外観に比して意外にも館内は洋風の佇まい。そこは老舗のホテルの趣である。真紅のカーペットが伸び、国際観光ホテルとしての面影を残す両替所の格子もある。寄木張りやタイルの床、唐草飾りの窓枠などには復元されたものもあるという。西側にはウェディングサロンがあり、東側にはカフェ・オープンカフェがあり、玄関を抜けた正面にある「桃山ホール」の南側には、琵琶湖を眼前に臨む開放的なレストランが広がる。

往時の面影を残す両替所

玄関すぐ西側には、フロントのような案内受付がある。その案内では、館内の紹介のほか、2階、3階のホテルの部屋を改造した展示室・貸し会議室などの利用受付を行っている。豪奢なホテルの建物を市民の折り紙教室や短歌教室などの庶民的なサークル・会合に、まるで公民館のように使われているようだ。そのギャップが新鮮だ。

2階に上がると南に面して広い展望テラスがあり、爽やかな風に乗ってヨットが湖面を疾走していた。なんとも優雅な公民館。旧琵琶湖ホテルの歴史を紹介するスペースもあり、来訪・宿泊し琵琶湖や湖国の古都・大津を愛でた国内外の著名人は、2階の展示室にパネル紹介されている。

京阪電鉄の子会社に

展望テラスからは琵琶湖を望む。青い大きな建物が現在の琵琶湖ホテル

1934年に開業した琵琶湖ホテル。開業当時の経営母体は株式会社琵琶湖ホテルであったが、その経営母体は時代の荒波に揉まれて転変していった。琵琶湖ホテルは第2次大戦直後の一時期、米軍に接収され、株式会社琵琶湖ホテルの経営のもと営業を再開したのは1957年のことだった。その間は駐留している米軍の専用ホテルとして使用されていた。

(株)琵琶湖ホテルは1960年代から1980年代にかけて多角化に乗り出している。びわ湖を周航するミシガン号などで有名な琵琶湖汽船の船内営業を始めるほか、湖北地方の余呉湖の近くにある賤ヶ岳サービスエリアの営業を開始した。

こうした多角化に先立ち、営業再開に際して(株)琵琶湖ホテルは外部からの資本注入を受けている。自治体に頼るとともに、関西の有力私鉄の1つである京阪電鉄に資本協力を求めた。1972年に京阪電鉄は(株)琵琶湖ホテルの筆頭株主となっている。さらに翌1973年、京阪電鉄は滋賀県からも株式を譲り受け、発行株式総数の51パーセントを占めることになった。この時期に(株)琵琶湖ホテルは京阪電鉄の子会社となった。

京都タワーの傘下に入る

旧琵琶湖ホテルは1998年に柳が崎湖畔公園から2キロほど南に位置する浜大津アーカス内に移転することになった。浜大津アーカスは、京阪電鉄グループがびわ湖浜大津駅の近くにつくった複合型商業施設である。湖南の大規模アミューズメント・リゾートに新設された琵琶湖ホテル。そのため、旧琵琶湖ホテルは閉鎖、やがて解体を迎えるかともいわれるようになっていた。

ところが住民の強い保存維持活動を受け、旧琵琶湖ホテルはその敷地・建物を大津市が取得することになり、敷地全体が柳が崎湖畔公園として整備された。旧琵琶湖ホテルは修復、耐震改修工事が施され、2002年に「びわ湖大津館」としてオープンしたのである。

移転した琵琶湖ホテルの運営会社である(株)琵琶湖ホテルは2016年にも大きな転換点を迎えている。京阪グループの京都タワー株式会社が(株)琵琶湖ホテルのほか株式会社京都センチュリータワーと3社合併を果たす。現在の琵琶湖ホテルは、京都タワー株式会社の3社合併と同日付で商号変更した京阪ホテルズ&リゾーツ株式会社が運営している。

文: M&A Online編集部