【バンダイナムコホールディングス】ガンダム×パックマンの経営統合とIP戦略

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Photo by ei-mi

ガンダム×パックマンの経営統合とIP戦略

 バンダイナムコホールディングス<7832>は、2005年9月、バンダイとナムコの経営統合により誕生した。バンダイはガンダムや戦隊ヒーローシリーズ、仮面ライダーなどのキャラクターシリーズを展開する。ナムコはパックマンやギャラクシアンなど日本が誇る世界的ゲームソフトの生みの親で、それぞれ事業領域の相互補完を目的として経営統合がなされた。

【企業概要】多種多様なエンターテイメントの追求と自社IPの融合

 ナムコはこれまでの経営の中で、多種多様なエンターテイメントを追及してきた。1986年にはレストランチェーンの「イタリアントマト」や老舗の映画会社の「日活」と、M&Aを巧みに使用し、自らの目指す姿を体現していった。

 その一つの集大成が、1996年開業の「ナンジャタウン」である。池袋にあるこの施設は、フードショップあり、イベントショーあり、アトラクションありと、まさにこれまでのノウハウの蓄積が具現化したものである。

  一方のバンダイは、自社IP(知的財産)の生み出し・活用に特化して注力してきた。先述の通り、「スーパー戦隊」シリーズや「仮面ライダー」シリーズ、「アンパンマン」、「プリキュア」シリーズ、「機動戦士ガンダム」シリーズといったロングランのコンテンツから、「妖怪ウォッチ」シリーズ、「ラブライブ!」シリーズ、「アイドルマスター」シリーズなど、新進気鋭の有名コンテンツなどを生み出し、育ててきた。

【M&A戦略】開発現場から統合の機運が高まる

 合併のきっかけは、ガンダムのゲームソフトの開発現場から始まったという。当時バンダイは、自社のIPに対するソフトウェアを外部委託していた。ナムコはゲームの開発部門を抱えていたため、「機動戦士ガンダム一年戦争」(2005年4月発売)を協力開発した。そこから「より踏み込んだ提携ができないか」と経営陣と現場両者の方向性が合致し、話が進んだようである。

 バンダイの保有するIPは、顧客層が子供から大人まで非常に多様であり、それに沿ったグッズ展開などのコンテンツ展開をしていく必要があった。そこでナムコが保有するノウハウが、自社IPの活用に資するものであるとの目的もあったといわれている。

 経営統合したバンダイナムコのグループ企業は下表の通りである。

バンダイナムコのグループ企業

関係 証券コード 関係会社名 合計保有比率(%) 売上高(百万円) 事業内容
連結子会社 7967     バンダイ 100 178,536 玩具の製造・販売
連結子会社 9752 バンダイナムコエンターテインメント 100 158,039 ネットワークコンテンツ等の企画・開発
連結子会社 - アイウィル 100 - アーティストのマネジメント,音楽原盤制作
連結子会社 - アートプレスト 100 - 印刷物の企画・デザイン他
連結子会社 - グランドスラム 100 - イベント・ライブの企画・製作
連結子会社 - サンスター文具 51 - 文具,雑貨,ホビー商品の企画・製造・販売
連結子会社 - サンライズ 100 - アニメーションの企画・製作他
連結子会社 - サンライズ音楽出版 100 - 音楽制作・楽曲出版,原盤権利全般の管理他
連結子会社 - シーズ 100 - 玩具,電子ゲーム等の製造
連結子会社 - シー・シー・ピー 100 - 玩具,家電製品等の企画・開発・製造・販売
連結子会社 - ディースリー・パブリッシャー 100 - ゲームソフトの開発・販売(持株会社)
連結子会社 - ナムコ 100 - アミューズメント施設の企画・運営他
連結子会社 - ハイウェイスター 100 - アーティストのマネジメント他
連結子会社 - バンダイナムコオンライン 100 - オンラインゲーム,ソフトウエアの企画他
連結子会社 - バンダイナムコスタジオ 100 - ゲームソフト等の企画・開発
連結子会社 - バンダイナムコビジネスアーク 100 - 総務・人事・経理・情報システムの受託等
連結子会社 - バンダイナムコピクチャーズ 100 - アニメーションの企画・製作他
連結子会社 - バンダイナムコライツマーケティング 99.1 - 映像コンテンツの配信
連結子会社 - バンダイナムコライブクリエイティブ 100 - イベント・ライブの企画・製作
連結子会社 4325 バンダイビジュアル 100 - 映像コンテンツ,パッケージソフトの企画他
連結子会社 9089 バンダイロジパル 100 - 運送・倉庫業
連結子会社 7854 バンプレスト 100 - アミューズメント景品等の企画・開発・販売
連結子会社 - バンプレスト販売 100 - アミューズメント景品,クジ景品等の販売
連結子会社 - プレジャーキャスト 100 - アミューズメント施設の運営
連結子会社 - プレックス 100 - 玩具等の企画・開発
連結子会社 - メガハウス 100 - 玩具,遊戯機器の企画開発・製造・販売
連結子会社 - ランティス 100 - 音楽著作物の企画・制作・運用他
連結子会社 - ロジパルエクスプレス 100 - 運送業,物流管理業,倉庫業,車両整備
連結子会社 - 花やしき 100 - 遊園地の企画運営他
連結子会社 - B.B.スタジオ 100 - ゲームソフトの企画・開発
連結子会社 - VIBE 100 - インタラクティブ・メディア利用他
持分法適用会社 7552 ハピネット 26.4 162,342 玩具,ゲーム機器・ソフト等の販売他
持分法適用会社 3711 創通 18.12 21,833 アニメーション番組の企画・制作
持分法適用会社 7865 ピープル 20.3 3,526 玩具の企画開発,委託生産による販売
持分法適用会社 - アニメコンソーシアムジャパン 40.5 - 映像コンテンツの配信他
持分法適用会社 - イタリアントマト 30.6 - 飲食店の経営・フランチャイズ運営

M&A Online編集部作成

 次に、バンダイナムコの主なM&Aを見てみる。下表のとおり、基本的には自社傘下の上場株式の買い集め・非公開化がいくつか見受けられる。一方で、完全に外部に対する買収は、2009年3月に買収した株式会社ディースリー<4311>が挙げられる。

  当時、ゲームコンテンツ市場は日本において減少傾向にあるものの、欧米地域においては市場規模拡大が続くと考えられていた。ディースリーは「SIMPLEシリーズ」「SIMPLE100シリーズ」という名前の通り、シンプルで手軽に楽しむことができるカジュアルゲームに特化したゲーム制作会社であった。

 そのディースリーをバンダイナムコは前日終値に対し33.24%のプレミアムを見込む良い条件でのTOB株式公開買付け)を行い、約86.03%を取得。元々保有していた株式と合わせ、86.29%まで保有割合を高めた。取得価額は1239百万円だった。

バンダイナムコの沿革と主なM&A

年月 内容
2005年5月  (株)バンダイ、(株)ナムコが経営統合を発表
2005年9月  (株)バンダイナムコホールディングス設立。東京証券取引所市場第一部上場
2006年1月 米国地域持株会社 NAMCO BANDAI Holdings(USA)を設立し傘下の事業会社を再編、株式交換により(株)バンダイロジパルを完全子会社化
2006年3月 (株)ナムコから施設運営事業を新設分割し、新生(株)ナムコ設立。日本国内のゲーム事業部を統合し(株)バンダイナムコゲームス設立
2006年6月 株式交換により(株)バンプレストを完全子会社化
2006年7月 NAMCO OPERATIONS EUROPE LTD.が英国で複合型ボウリング施設4店舗を取得
2006年9月 (株)バンダイが(株)シー・シー・ピーを子会社化。アミューズメントとキャラクターマーチャンダイジングが融合したナムコの大型施設「ナムコワンダーパーク ヒーローズベース」(神奈川県川崎市)オープン
2007年1月 欧州地域において地域持株会社NAMCO Holdings UK LTD.を設立し、事業会社の再編を実施
2007年3月 バンダイナムコホールディングスが、東映(株)、東映アニメーション(株)、(株)角川グループホールディングスとの資本・業務提携を強化
2007年5月 バンダイ、石森グループ、伊藤忠商事(株)が資本・業務提携。バンダイナムコホールディングスが(株)不二家の株式を取得
2008年1月 バンダイ、(株)ティー・ワイ・オー、(株)円谷プロダクションが資本・業務提携
2008年2月 株式交換によりバンダイビジュアル(株)、バンダイネットワークス(株)を完全子会社化。BANDAI SOUTH ASIA PTE.LTD. シンガポール設立
2009年3月 (株)エモーションの音楽事業を(株)ランティスに吸収分割し承継。サンスター文具(株)との資本業務提携に伴い、文具事業を行う(株)セイカを解散。(株)バンダイナムコゲームスが(株)ディースリーを子会社化
2013年10月 バンダイがサンスター文具を子会社化
2013年12月 体験型エンターテインメントミュージアム「東映ヒーローワールド」をオープン
2014年11月 正規版日本アニメコンテンツの海外向け動画配信などを行う(株)アニメコンソーシアムジャパンがバンダイナムコホールディングスなど複数社の出資により設立
2015年4月 (株)バンダイナムコライブクリエイティブが(株)グランドスラムを子会社化
2015年8月 ランティスが(株)ハイウェイスターを子会社化

M&A Online編集部作成

【財務分析】この5年ほどは順調に業績を伸ばす

 次に、同社の財務をひも解いていく。

バンダイナムコの財務情報

 2010年、2011年は売上・利益とも厳しい状況が続いたが、その後は損益、資産面とも回復基調に乗っている。

 主要セグメントは3つで、①トイホビー事業、②ネットワークエンターテインメント事業、③映像音楽プロデュース事業、その他事業となっている。

 ①のトイホビー事業は、ガンプラや仮面ライダーなどのグッズは前年度を上回る売上を見せたものの、去年、空前のブームを巻き起こし、対ポケモンとして挙げられた「妖怪ウォッチ」の売上減の影響を受け、売上高193,229百万円(前年度比6.4%減)となった。

 ②のネットワークエンターテインメント事業は、スマホアプリの継続的ヒットにより、好調を見せている。主力製品としては、「ドラゴンボールZ ドッカンバトル」や「ワンピース トレジャークルーズ」などの海外展開も行っているものや「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」などの国内主力タイトルが善戦し、売上高380,273百万円(前年度比18.5%増)となった。

 ③映像音楽プロデュース事業は、「ラブライブ!」や「ガールズ&パンツァー」シリーズを中心に映像コンテンツと音楽コンテンツを結びつけているが、売上高56,290百万円(前期比8.3%増)となった。

【株価】2017年は緩やかに上昇

 長期的に見れば、株価は緩やかに上昇し、直近は3,850円前後で推移している。

【まとめ】IPを軸に戦略を進化させる

 バンダイナムコホールディングスの中期経営計画においては、事業戦略として「IP軸戦略の進化」を挙げている。IPを軸とした戦略はグループ最大の強みでもある。「それをさらに強固なものとし、事業戦略、エリア戦略、機能戦略の3つの重点戦略を推進する」としている。

 テクノロジーの進化に伴い、コンテンツを活躍させることができる領域が拡大しており、バンダイナムコホールディングスは2017年7月14日、世界最先端の技術を駆使したVRアクティビティ施設、「VR ZONE Shinjuku」を期間限定で開催する見通し。同社のIPを使用したもの以外にも、「ヱヴァンゲリオン」シリーズや任天堂の「マリオカート」なども含まれており、その分野の先駆者としての立ち位置も期待できる。

 日本の大きな魅力の一つとしてのアニメ・ゲームカルチャーを支えるバンダイナムコホールディングスの躍進を今後とも応援していきたい。

 この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

文:M&A Online編集部