コラム 監査報告書がもたらす意味とは?

alt

監査報告書がもたらす意味とは?

不適切会計が発覚した東芝<6502>は、2017年8月10日に、2017年3月期の有価証券報告書に限定付適正意見、財務報告に係る内部統制監査報告書に不適正意見がそれぞれ付されることとなりました。監査法人から、有価証券報告書に対して不適正意見または意見不表明の監査報告書が付されなかったことで、東芝は上場廃止を免れました。

上場会社は金融商品取引法の規定、未上場会社であっても会社法や各種法律等に基づく監査が必要とされています。そこで今回は、監査報告書の意見によって会社にどのような影響をもたらすのか、考察していきたいと思います。

監査報告書とは何か?

会社(経営者)は財務諸表を適正に作成する義務を負っており、適正に作成するために会計基準が存在します。あらゆる取引の中で、会計基準に照らして判断が必要になる事項があります。

例えば、引当金や固定資産の減損があります。引当金は、将来において費用又は損失が発生することが見込まれる場合に、当期に帰属する金額を当期の費用又は損失として処理する場合に計上されます。固定資産の減損は、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態であり、減損処理とは、そのような場合に一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理です。

いずれも、将来や見込みといった予測が伴う性質で共通していると言え、予測には経営者の「会社の数字を良く見せよう」という意図が働きやすい状況にあります。このような項目をすべて含んで財務諸表は作成されます。

上場会社であれば、財務諸表を公表することになり、投資家はその財務数値をもとに投資判断をすることとなりますが、判断根拠となる財務数値が経営者の「会社を良く見せよう」という意図で実態とは乖離し場合に、投資家は投資価値が毀損するおそれがあります。

そこで、会社とは独立した第三者が、会社が適正に財務諸表を作成されているか、意見を表明することで、投資家の判断が誤らせないようにできます。その意見を表明する報告書が監査報告書になります。

監査報告書には4つの意見がある

監査報告書の意見区分には4種類あります。(参考:公認会計士協会「監査報告書の文例」

①無限定適正意見
一般に公正妥当と認められる企業会計の基準にしたがって、会社の財務状況を「すべての重要な点において適正に表示している」旨を監査報告書に記載します。

②限定付適正意見
一部に不適切な事項はあるが、それが財務諸表等全体に対してそれほど重要性がないと考えられる場合には、その不適切な事項を記載して、会社の財務状況は「その事項を除き、すべての重要な点において適正に表示している」と監査報告書に記載します。

③不適正意見
不適切な事項が発見され、それが財務諸表等全体に重要な影響を与える場合には、不適正である理由を記載して、会社の財務状況を「適正に表示していない」と監査報告書に記載します。

④意見不表明
重要な監査手続が実施できず、結果として十分な監査証拠が入手できない場合で、その影響が財務諸表等に対する意見表明ができないほどに重要と判断した場合には、会社の財務状況を「適正に表示しているかどうかについての意見を表明しない」旨及びその理由を監査報告書に記載します。

基本的には、監査人から無限定適正意見が表明されることになります。そうでなければ、会社は不適切な事項を公表していると捉えられ、会社に対する評判、信頼は失墜することとなるからです。

実際、証券取引所の上場廃止基準の一つに、

『監査報告書又は四半期レビュー報告書に「不適正意見」又は「意見の表明をしない」旨等が記載された場合であって、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき』

があります。この点、東芝の事例では、2017年3月期の工事損失引当金の計上時期について、監査法人側との見解が一致せず、限定付適正意見が付されることとなりました。もし、財務諸表全体に及ぶと判断されれば不適正意見となります。

内部監査報告書とは何か?

さて、前述のとおり、東芝の有価証券報告書(2017年3月期)では、内部統制監査報告書でも不適正意見が付されました。

内部統制監査報告書とは、内部統制報告制度に基づき会社が作成した内部統制報告書に対する監査人の意見を記載した報告書です。金融商品取引法の施行により、2008年4月1日以降、全ての上場企業に内部統制報告書と内部統制監査報告書の公表が義務化されました。

内部統制報告制度においては、会社が作成した内部統制報告書を監査人が内部統制の評価の基準に準拠して適正に表示しているかどうかを監査し、その意見を内部統制監査報告書により報告します。

内部統制監査についても監査の意見と同様に「無限定適正意見」「不適正意見」「限定付適正意見」「意見不表明」のいずれかで意見表明することになっています。

以上、監査報告書等に記載される意見の影響力は、時として会社の存続をも揺るがしかねない絶大な影響力があると言えるでしょう。

村田朗(公認会計士・中小企業診断士)/編集:M&A Online編集部