英アストラゼネカ、コロナでワクチン以外の思わぬ「副収入」を手に入れる

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英医薬品大手のアストラゼネカが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大で「思わぬ副収入」を得ていたことが明らかになった。同社は英オックスフォード大学と共同で開発した新型コロナウイルスのワクチン供給が英国や欧州連合(EU)で始まっている。しかし、これは「本業の収入」。では、どこから「副収入」がやって来たのか。

ライバルのモデルナ株売却で大儲け

意外にもコロナワクチンの開発競争をしていた米モデルナだ。同社はコロナワクチンの販売で、2021年12月期売上高が184億ドル(約1兆9500億円)になるとの見通しを発表したばかり。いわば「商売敵」のはずのモデルナから、アストラゼネカはどんな「副収入」を得たのか。

実はアストラゼネカが、保有していたモデルナ株を売却したのだ。コロナワクチンの開発成功でモデルナ株は急騰しており、アストラゼネカは持ち分7.7%分の全株式を売却して10億ドル(約1060億円)を超える収入を得たという。売却時期は不明だが、2020年後半とみられる。

コロナワクチンの開発成功でモデルナ株は急騰(同社ホームページより)

では、なぜアストラゼネカはモデルナ株を保有していたのか。今でこそ2兆円近い売上高が見込めるモデルナだが、業績は長期に渡って低迷していた。コロナワクチンの開発に成功した2020年12月期でさえ、売上高こそ前期の13倍を超える8億ドル(約853億円)だったが、最終損益は7億4700万ドル(約797億円)の赤字と、赤字幅が前期よりも2億3300万ドル(約248億円)も広がっている。これはコロナワクチンを含む研究開発費用が13億7000万ドル(約1460億円)と、前年の3倍近くに増えたため。

「投資」ではなく「技術提携」が目的だった

コロナワクチンまでは、ただの一つの医薬品も開発していなかったモデルナに投資家は関心を示さず、同社は資金調達に苦労していた。そこに救いの手を差し伸べたのがアストラゼネカ。アストラゼネカは2013年に2億4000万ドル(約256億円)を出資し、2016年には1億4000万ドル(約149億円)を追加投資して一時はモデルナへの出資比率を9%に引き上げていた。

アストラゼネカは将来の値上がりを期待して出資したわけではなく、モデルナが得意としコロナワクチン開発でも利用したメッセンジャーRNA(リボ核酸、mRNA)による生体内医薬品技術で提携するのが狙いだった。

アストラゼネカはコロナワクチンの開発でモデルナのメッセンジャーRNAを利用せず、チンパンジーに感染する風邪ウイルスを無害化し、新型コロナの遺伝物質を組み込んで使用する方式で開発した。そのためモデルナの技術は不要になり株式を売却したとも考えられるが、株価が上昇した時点で売却益を得るために手放した可能性が高い。

1回接種で済み、常温に近い温度で保管可能な米ジョンソン・エンド・ジョンソンのコロナワクチンの投入が迫り、モデルナ株の値下がりは確実だったからだ。メッセンジャーRNAを利用した製薬は汎用性が高く「お役御免」には早すぎる。事実、アストラゼネカはモデルナとの提携関係を維持する方針と伝えられた。

さらにアストラゼネカは、発作性夜間ヘモグロビン尿症や全身型重症筋無力症などの希少・超希少疾患治療薬を開発する米アレクシオン・ファーマシューティカルズの買収に390億ドル(約4兆1600億円)を投じており、手元資金を確保する必要もあったようだ。

文:M&A Online編集部