朝日新聞が5月1日から月ぎめ購読料を引き上げる。値上げはほぼ2年ぶり。前回の値上げ局面では読売新聞が先行し、朝日新聞、毎日新聞が追随するまでに2年半のタイムラグがあった。それが今回は朝日新聞が先んじる。一方、読売新聞は早々に値上げ凍結を宣言した。
大手3紙の値上げをめぐっては毎度、虚々実々の攻防が繰り広げられるのが常だが、その昔、業界トップ逆転の契機となったこともある。
朝日新聞は朝夕刊セット版の購読料(税込み)を4400円から4900円に値上げする。新聞用紙、インク代など原材料の高騰に加え、エネルギー価格上昇や人手不足を背景に輸送・配達経費が膨らんでいるのが理由。
購読料の引き上げは2021年7月以来となるが、「コスト削減を続けていますが、報道の質を維持し、新聞を安定発行するため、ご負担をお願いせざるを得なくなりました」と読者に理解を求めている。大手3紙では購読料が現在4400円で同じの読売新聞と500円、4300円の毎日新聞とは600円の開きが出る。
都内のある朝日販売店の所長は「発行本社もそうだが、販売店の疲弊も深刻だ」としたうえで、「購読料を据え置いたところで、読者離れはもはや止まらない。価格転嫁はやむを得ない」とため息交じりに話す。
今回の値上げで注目されるのは4900円という価格設定。実は、4900円は日本経済新聞の購読料(朝夕刊セット版)と同じなのだ。朝日のみならず、読売、毎日も、経済ニュースを主とする日経とは戦後一貫して1割程度の価格差があったが、初めて朝日と日経の購読料が並ぶ。
日経は2017年7月に4900円に価格改定して6年近くとなるが、今のところ、新たな値上げの動きは表面化していない。日経が次の値上げに踏み切らない限り、朝日と日経の価格差がない前代未聞の状況が続くことになる。
大手3紙のうち、日経の読者と最もかぶることが多いとされるのが朝日。購読料が同じになって、日経に読者が流れる可能性も考えられる。
「本紙は値上げしません」。こんな見出しの記事が読売朝刊1面を飾ったのは3月25日。朝日の値上げを見越して、先手を打ったのは明らか。朝日が5月からの値上げを知らせる社告を掲載したのはほぼ10日後の4月5日の朝刊だった。
読売は記事で、「物価高騰が家計を圧迫する中で、読者の皆さまに正確な情報を伝え、信頼に応える新聞の使命を全うしていくため、少なくとも向こう1年間、値上げしないことを決定しました」と購読料据え置きを宣言した。
前回の値上げ局面では日経が2017年7月に全国紙の先陣を切った。“3大紙”では読売がトップバッターを務め、2019年1月に値上げした。朝日、毎日は2年半後の2021年7月に追随したが、その際、値上げ幅について対応が分かれた。朝日は読売と同額としたが、毎日は100円安く設定し、3紙の横並びが崩れるエポックがあった。残る産経新聞も同年8月に続いた。
この時の値上げは各紙とも消費増税による価格改定を除き、およそ四半世紀ぶり。インターネットの台頭などによる新聞離れが加速する中、長年の経営努力が限界に達したことが背中を押した。
購読料をめぐっては過去、さまざまなドラマが繰り広げられてきた。部数トップの座が朝日から読売に移る引き金となる出来事があったのは50年近く前のことだ。
読売は1976年3月25日朝刊1面に「本紙、むこう1年間購読料を据え置き」という社告を掲載した。当時、73年の第一次石油危機後のインフレに日本中が苦しんでいた。
「読売新聞140年史」はこう記す。「他社に先駆けて宣言した購読料据え置きは幅広い国民の支持を得た。75年の659万部から76年には705万部まで伸びた。同年12月には朝日を抜き、全国トップに躍り出た。77年1月に朝日に巻き返されたが、2月に再びトップを確保し、以降、1位の座は揺るぎないものとなった」。
読売は1977年2月に再び、「本紙、さらに当分の間購読料を据え置き」とする社告を打った。読売の購読料は78年9月まで据え置かれ、しびれを切らした形の朝日が先行して同年3月、毎日は同年6月に値上げした。
日本ABC協会の「新聞発行社レポート」によると、2022年7~12月平均の販売部数は読売663万部(前年同期比5.8%減)、朝日397万部(同13.1%減)、毎日185万部(同6.2%減)、日経168万部(同8.6%減)、産経99万部(同8.4%減)。朝日は400万部、産経は100万部をそれぞれ下回った。トップの読売はコロナ前の2019年に800万部を超えていたが、140万部減らしている。
朝日は今回の値上げに合わせ、5月1日をもって愛知、岐阜、三重の3県で夕刊発行を休止する。毎日も愛知など同じ3県での夕刊を4月から休止したばかり。また、ブロック紙では西日本新聞が5月から購読料(朝夕刊セット版)を500円引き上げて4900円にする。
朝日に触発されて今後、競合各紙がどう動くのか。新聞業界に値上げのゴングが鳴ったのは間違いない。
◎大手・ブロック紙の購読料をめぐる最近の動き(購読料は朝夕刊セット、※産経東京本社管内は朝刊単独。税込み)
文:M&A Online