買いの「アサヒ」VS売りの「キリン」戦略の違いが鮮明に 勝負の行方は

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ビール業界首位のアサヒグループホールディングス(アサヒ)<2502>は7月に、約1兆2000億円を投じてオ-ストラリアのビール大手、カールトン・アンド・ユナイテッド・ブルワリーズ(CUB)を買収することを決めた。 

同社は2019年1月にも英国の飲料メーカー、Fuller, Smith & Turner P.L.C.のビール・サイダー事業を約374億円で取得することで合意しており、企業買収に積極的だ。 

東証の適時開示情報を基に経営権の異動を伴うM&A案件(グループ内再編を除く)について、M&A Online編集部が集計したところ、アサヒは2008年以降の12年間で22件のM&Aを実施しており、このうち18件が買収案件(売却は4件)で、買収金額は約2兆8480億円に達した。 

買収金額 キリンはアサヒの8分の1

一方、ビール業界2位のキリンホールディングス(キリン)<2503>は2008年以降の12年間のM&A件数は10件で、このうち買収は4件で、売却の6件を下回った。買収金額は約3517億円で、アサヒの8分の1ほどにとどまる。 

キリンが行った直近のM&Aは、2017年にブラジルでビール・清涼飲料の製造・販売を手がけるブラジルキリン社の全株式を、ブラジルでビール事業を展開するBavaria社に約785億円で譲渡した案件。ブラジルキリン社は2年連続で営業赤字に陥っていた。 

2016年にもやはりブラジルでビールや清涼飲料を製造している子会社のマカク・ベビダスの全株式をブラジルのビールメーカーであるアンベブ社に約146億円で売却した。 

また、適時開示はしていないものの、2019年8月6日に発表した2019年12月期の第2四半期決算で、オーストラリアの子会社ライオン社の飲料事業のチーズ事業を、2019年4月にカナダのSaputo Dairy Australiaに約224億円で譲渡する契約の締結に合意したことを公表。さらにチーズ事業以外のライオンの飲料事業についても 譲渡の交渉を継続しているという。同期間のライオンの飲料事業は赤字だった。 

アサヒが3年連続首位の座に

こうした戦略の違いによる業績への影響などもあり、キリンは2017年12月期にビール業界売上高トップの座をアサヒに譲り渡した。 

2018年12月期もアサヒが首位の座を守り、2019年12月期の見込みでも、売上高の差は若干縮まるもののアサヒが3年連続の首位となる。さらに営業利益となると、2019年12月期の見込みはアサヒが前年度比1.8%増の2155億円と増益となるのに対し、キリンはライオンの飲料事業売却に関する営業費用を計上するなどの結果、前年度比51.6%減の960億円と大幅な減益に陥る。 

この時点では企業買収に積極的なアサヒに軍配が上がりそうだ。2020年12月期は約1兆2000億円を投じるオ-ストラリアのビール大手、カールトン・アンド・ユナイテッド・ブルワリーズの買収効果が表れてくるため、差は一段と大きくなることが予想される。 

ただ、アサヒに不安がないわけではない。約1兆2000円もの投資によって、有利子負債が増え、D/Eレシオや自己資本比率などの企業財務の健全性を示す指標の悪化が見込まれているからだ。

人口減少に伴い、日本のビール市場の縮小が見込まれる中、海外に活路を見出し、積極的なM&Aに打って出るアサヒと、海外の不採算事業を切り離し、収益基盤の強化に取り組むキリン。このままアサヒ優位のまま格差は拡大していくのか。それともキリンの反撃はあるのか。勝負の行方はまだまだ泡のように定まってはいないといってよさそうだ。

【アサヒグループホールディングスの業績推移】※2019年12月期は見込み

  2016年12月期 2017年12月期 2018年12月期 2019年12月期
売上収益 1兆7069億円 2兆849億円 2兆1203億円 2兆1205億円
営業利益 1369億円 1832億円 2118億円 2155億円


【キリンホールディングスの業績推移】※2019年12月期は見込み

  2016年12月期 2017年12月期 2018年12月期 2019年12月期
売上収益 1兆8539億円 1兆8637億円 1兆9305億円 1兆9640億円
営業利益 1966億円 2110億円 1983億円 960億円

文:M&A Online編集部