朝日新聞と出前館、飲食宅配代行の業務提携を打ち切りへ

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朝日新聞社(本社、東京・築地)

朝日新聞社と出前館は、宅配代行事業に関する業務提携を2020年6月に解消することになった。「ASA」の名称で知られる朝日新聞販売店の配達ネットワークを活用し、飲食店の出前を代行する協業を進めてきたが、提携から3年を機に契約終了を決めた。両社の契約終了後は、出前館との取引を希望するASAが個別に契約し、宅配代行を継続する。購読部数の減少が続く中、鳴り物入りで登場した「コラボ」事業だったが、目論見が外れたようだ。

「第3の収入源を探せ」

「第3の収入源を探せ」。こんな掛け声をとともに、発行本社の大手新聞各社が系統に属する販売店の経営に目を向け始めたのは2010年以降。販売店の経営は長年、新聞購読料と折り込み(チラシ)を両輪としてきた。ところが、スマホの普及などに伴う新聞離れで、本業の儲けが急速に細り、販売店経営を下支えする第3の収入源の模索が始まったのだ。

日本新聞協会が毎年10月時点でまとめる発行部数調査によれば、2018年は3990万部と前年の4212万部から220万部を超える落ち込みとなった。2009年(5035万部)までは5000万部をキープしていたが、この10年ほどで1000万部以上の部数が失われた。この数を3大紙にあてはめれば、発行部数トップの読売新聞と3位の毎日新聞を合わせた部数にほぼ相当する。

部数減に歯止めがかからない中、2016年12月にタッグを組んだのが発行部数2位の朝日新聞と日本最大級の宅配ポータルサイト「出前館」を運営する出前館(11月に、夢の街創造委員会から社名変更)。

ASAは出前館から注文情報を受けると、配達員が近隣の飲食店から商品(丼物や定食類、弁当など)を受け取り、自宅に届けるのが宅配代行の内容。朝刊や夕刊の配達がない空いた時間帯を活用して副収入につなげるもので、ASAは一定の手数料を得る。出前館としては配達を担うデリバリー拠点の獲得を狙いとした。

朝日、出前館の株式5%を取得

業務提携に合わせ、朝日新聞は出前館の発行済み株式の5%強を約15億円で取得し、資本参加に踏み込む入れ込み方だった。

2017年3月には協業第1号モデルとして、神奈川県相模原市のASAが宅配代行をスタート。テレビ番組でも大きく取り上げられるなど注目された。提携当時、ASAは全国で2000店を超えていた。しかし、宅配代行に手を上げたところはほんの一握りだったとされる。

実際、都内に複数のASAを経営するある有力所長は「土台、無理がある話。うちではやるつもりはなかった」と突き放す。出前のニーズが多い地区に限られるうえ、「恒常的な人手不足の中で、注文が入るかどうか分からないのに配達員を割けない」。販売店の配達員の多くはパートやバイトが主体で、朝・夕刊の配達だけの勤務が多い。正社員であっても最近はアジアを中心に外国人が目立つ。

新聞配達と出前との根本的な違い

新聞の配達業務は決められた客先を巡回する、いわばルート業務。配達の順番などが書かれた順路帳に従って新聞を戸別配達している。これに対し、出前は届け先がそのたびに異なる。「ひと口に配達といっても根本的に違う」(前出のASA所長)というわけだ。

朝日新聞と出前館は12月12日に提携解消について発表した。朝日は「一定の成果を上げた」としたうえで、3年間にASAとともに培ってきた食品宅配代行のノウハウを生かし、引き続き、様々な宅配ビジネスを開発したいとしている。一方、出前館は「業務提携を再評価した結果」としている。提携解消に伴い、朝日は出前館への出資を引き揚げると見られる。

販売店の第3の収入源をめぐっては試行錯誤が繰り返されている。朝日陣営では出前館との提携に先駆け、都内中心部の一部ASAでオフィスに野菜を届ける新サービスに取り組んだことがあるが、その後、尻すぼみになった。静岡県では毎日新聞系の販売店が大がかりに牛乳配達に乗り出し、成功を収めた例もあるが、ほんの一部に過ぎない。

本質的な議論が待ったなし

足元では、販売店の自主廃業が年を追って増えている。どの新聞社も自前の販売店の経営安定化に向けて決定打が見いだせておらず、同一系統内で近隣販売店の集約による大規模化などでしのいでいるのが実情。系統の違いを超えた販売店の再編・統合は古くて新しい課題だが、本質的な論議が待ったなしとなっている。

文:M&A Online編集部