少しわきにそれるが、ユニゾ案件はコーポレートガバナンスを考えるうえでも非常に示唆の多い案件だ。簡単に触れてみたい。
仮にブラックストーンが、TOBでターゲットであるユニゾを非公開化することに成功したとしよう。そのあとに彼らがやることは明快だ。買収目的会社とターゲット企業のユニゾを合併させる。
そして、買収目的会社で調達した買収資金の一部を、有利子負債としてターゲットのユニゾに付け替えるのだ。いわゆるLBO(leveraged Buy Out)である。
仮に現在のTOB価格である5000円を前提とした場合、100%の株式を買い取って子会社化するには、およそ1700億円の買収資金が必要だ。しかし、ユニゾには膨大な不動産含み益(公表資料で2000億円以上)があり、かつ既存の有利子負債残高はあまり多くない。
これを鑑みると、LBOをうまく駆使すれば、買収資金の6割近く(レバレッジ比率=LTVを60%と仮定)を合併後の新ユニゾに有利子負債として付け替えることができる可能性がある。
もし、1700億円(100%株式価値ベース)の会社を700億円(同)以下で買うことができたら、儲からないはずがない。言ってみればユニゾ案件はウニ(割安)の上に、いくら(不動産含み益)が乗った「ウニいくら丼」だ。
さらに条件によっては、そこにキャビア(さらなるハイレバレッジの追求)まで乗る可能性がある「美味なる案件」なのだ。
なぜこのようなスキーム(LBO)が可能なのか。これは言うまでもなく完全に合法・適法なスキームだ。TOBにより議決権の3分の2を獲得すれば、スクイーズアウト(少数株主排除)スキームを活用してターゲットを100%子会社化できる。
そうなれば、買収目的会社とターゲットを合併させることに反対できる者は誰もいない。そして、合併したあとは、ブラックストーンが投じた買収資金の多く(合併新会社が負担するLBOローン)を、新ユニゾの従業員たちがせっせと働いて返してくれるのだ。
こうしたスキームは、市場で流通している株式1株に議決権が1つ付与されているからこそ可能なものである。仮にユニゾの経営陣や、あるいは従業員持ち株会などが、1株に10個の議決権を付与されたクラスB普通株式を持って、議決権の3分の1超を確保していたらどうだろう。もしそうだったなら、100%子会社化は成立しない。
(この項つづく)
文:西澤 龍(イグナイトキャピタルパートナーズ 代表取締役)
IGNiTE CAPITAL PARTNERS株式会社 (イグナイトキャピタルパートナーズ株式会社)代表取締役/パートナー
投資ファンド運営会社において、不動産投資ファンド運営業務等を経て、GMDコーポレートファイナンス(現KPMG FAS)に参画。 M&Aアドバイザリー業務に従事。その後、JAFCO事業投資本部にて、マネジメントバイアウト(MBO)投資業務に従事。投資案件発掘活動、買収・売却や、投資先の株式公開支援に携わる。そののち、IBMビジネスコンサルティングサービス(IBCS 現在IBMに統合)に参画し、事業ポートフォリオ戦略立案、ベンチャー設立支援等、コーポレートファイナンス領域を中心にプロジェクトに参画。2013年にIGNiTE設立。ファイナンシャルアドバイザリー業務に加え、自己資金によるベンチャー投資を推進。
横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業(マクロ経済政策、国際経済論)
公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員 CMA®、日本ファイナンス学会会員
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