TSIホールディングス<3608>は「ナノ・ユニバース」や「ナチュラルビューティベーシック」、「マーガレットハウエル」、「パーリーゲイツ」などのブランドを展開する大手アパレル企業。中間価格帯の衣料が主力で、高級ファッションと「ユニクロ」や「ZARA」などのファストファッションによるアパレル市場の「二極分化」の影響を最も受けている。同社が低迷する市場で「生き残るカギ」と位置づけているのがM&Aだ。
東京スタイルとサンエー・インターナショナルのアパレル大手2社が共同株式移転により、持ち株会社の「TSIホールディングス」を設立したのは2011年6月。2008年のリーマン・ショックに伴う消費落ち込みから回復しないまま、同年3月に発生した東日本大震災の影響でアパレル市場はどん底に陥っていた。
持ち株会社を設立した両社も例外ではなかった。TSIホールディングスの最初のミッションは「リストラ」だった。2012年9月から2013年2月にかけて、東京スタイルの「ラヴドゥローズ&コー」の国内事業や「マイドル」「ビスティー」を廃止。低収益・不採算の297店を閉鎖し、店舗数を1031軒にまで減らした。
さらには国内4工場のうち半数の2工場を清算し、2012年春に稼働したばかりだったベトナム・フエ工場も開設から1年を経たずして売却を決めた。早期希望退職者も募り、黒字化を急いだ。
2013年秋にはサンエー・インターナショナルの6ブランドを廃止し、約70店舗を閉店した。これにより「負の部分の清算を終えた」(三宅正彦会長兼社長=当時)はずだった。確かに2015年2月期連結決算で、ようやく営業損益が9億2400万円の黒字に転換したものの、売上高営業利益率は0.5%と低いまま。
2015年5月にはサンエー・インターナショナルの創業一族である三宅会長がヘッドハントした、米エクソンモービルの系列企業や仏ロレアルなどを渡り歩いた「プロ経営者」の齋藤匡司氏がTSIホールディングス社長に就任。「3年後の2018年2月期に、2015年2月期比で営業利益を約15倍の140億円へ、営業利益率を約14倍の7%へ引き上げる」(齋藤社長=当時)とぶち上げる。
その「起爆剤」と位置づけたのがM&Aだ。2016年3月に都市型ファッションビルを中心にフレンチオーセンティック(昔ながらのフランス風)のアパレルセレクトショップ「アンシェヌマン・ミニョン」など14の直営店を運営するアナディスとシェ・アナンを完全子会社化した。
同6月にはイスラエルの死海のミネラルやシードオイルを使用したオーガニック・自然派化粧品の輸出入ならびに卸・販売を手がけ、ファッションビルなどを中心に20店舗を展開するLaline JAPAN(ラリン ジャパン)の株式70%を取得し、子会社化している。
オーガニック・自然派化粧品のカテゴリーは今後も成長が期待でき、天候・景気に左右されにくいため、売上の安定化にも役立つ。さらにはLaline JAPANのブランド力や価格競争力に対する有力ディベロッパーからの評価も高い。 TSIホールディングスの店舗開発力を活用することにより、積極的な新規出店で成長を加速させることを狙った。
同10月には有料職業紹介事業と労働者派遣事業を展開するフォーラルを完全子会社化。非アパレル事業の展開により、経営の安定化を図っている。
そして2017年12月には、プロスケーターのキース・ハフナゲル氏が設立したストリートファッションブランド 「ハフ(HUF)」の企画販売を手がける米HUF Holdings, LLCの持分を90%取得し、子会社化した。取得価格は70億円と、同社最大のM&Aに。
HUFは今後も成長の見込まれるストリートファッション市場のうち、米国、欧州を中心に30カ国でグローバルに展開しているブランド。日本ではTSIホールディングスの子会社・ジャックが国内販売権を取得し、2015年から販売代理店として営業している。それまでの協業実績も上々で、TSIグループの事業ノウハウを積極的に投入すれば、国内はもとよりアジアを中心とした海外で成長が見込めると判断した。
TSIホールディングスはHUF Holdings, LLCの買収により、HUFの年間販売額を買収前の4億円から5年後の2022年には30億円まで引き上げる野心的な計画を掲げている。「スケートボードは東京五輪で正式種目となり、今後競技人口も増えていくだろう」(齋藤社長=当時)と、鼻息も荒い。
中国市場でも展開する計画で、現地大手アパレル企業との合弁交渉の乗り出した。海外市場でもHUFの年間販売額を買収前の約51億円から2022年には100億円に倍増させるという。国内外でHUFブランドが成長し、計画を達成できれば、70億円をかけたM&Aも「安い買い物」だったといえるだろう。
一方で、不採算事業については引き続き、切り離しを進めている。2016年9月にサンエー・インターナショナルが運営する「ヴィヴィアン タム」の独占ライセンス契約と同事業の8店舗、商品在庫資産を婦人服メーカーのマツオインターナショナルに譲渡した。
それでも業績回復の足取りは重い。2018年2月期決算は連結売上高1554億円(前期比2.3%減)、営業利益21億円(同14.6%減)、売上高営業利益率は1.3%に止まった。一時的な経費である10億円がなければ前期実績を上回ったというが、それでも営業利益は31億円で売上高営業利益率は1.9%。斎藤前社長が公約した「営業利益140億円、営業利益率7%」には、遠く及ばない。
斎藤前社長は2017年2月期にTSIホールディングス発足後の最高益を記録するなどの成果は残したが、2018年5月に退任。「ファッションは難しく、ストレスが大きい」と苦労を語っている。プロ経営者をもってしても、経営のかじ取りが難しいのがアパレル業界なのだ。
代わって同社の社長に就任したのは、コンサルタント会社出身で高級衣料・雑貨店を運営するバーニーズジャパン社長を務めた上田谷真一氏。社外取締役としてTSIホールディングスの経営にも関わってきた。「アパレルやファッションで実績のある人に(経営を)託す方が良いと社内で一致した」(斎藤前社長)という。3年ぶりにアパレル出身の社長が就任したことになる。
上田谷社長もM&Aを成長のカギとみている。「大手ブランドだけでなく、小規模でも成長の可能性のあるブランドを買収する」(上田谷社長)方針で、マーガレットハウエルのような価格競争に陥らない「プレミアムプライス」のブランド買収を検討しているという。
目指す方向は「脱・中間価格帯」だ。二極分化が進むアパレル業界で、最も価格競争が厳しいのが中間価格帯。顧客はバーゲンでの購入を狙い、プロパー(正価)販売の比率、いわゆる「プロパー消化率」がアパレルの利益率を大きく左右する。
プロパー消化率を引き上げる最良の方策が、ブランド力を高めること。そのために最も手っ取り早い方法が、ブランド力の高い会社を買収することなのだ。ファッション業界ではZOZO<3092>が運営するZOZOTOWNなどのEC(電子商取引=ネット通販)の普及でリアル店舗の売上は減少している上に、メルカリ<4385>が提供するフリマアプリなどでの個人間の古着取引も盛んになってきた。
こうした状況下で生き残るためには、高級衣料にシフトするしかない。バーニーズで高級衣料の販売を手がけてきた上田谷社長の腕の見せどころだろう。
TSIホールディングス傘下の企業 | |
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株式会社東京スタイル | 婦人服等の企画、製造、販売 |
株式会社サンエー・インターナショナル | 衣料品等の企画、製造、販売 |
株式会社サンエー・ビーディー | 衣料品等の企画、製造、販売 |
株式会社TSIグルーヴアンドスポーツ | 衣料品等の企画、製造、販売 |
株式会社ナノ・ユニバース | 衣料品等の企画、製造、販売 |
株式会社アングローバル | 衣料品等の企画、製造、販売 |
アナディス株式会社 | 衣料品等の企画、製造、販売 |
株式会社WAVE International | 衣料品等の企画、製造、販売 |
株式会社スピックインターナショナル | 衣料品等の企画、製造、販売 |
株式会社ローズバッド | 衣料品等の企画、製造、販売 |
株式会社アルページュ | 婦人服等の企画、製造、販売 |
株式会社ジャック | 衣料品等の企画、仕入、販売 |
株式会社アイソラ― | 衣料品等の輸入、卸、小売 |
UNIT&GUEST株式会社 | 衣料品の販売 |
株式会社スタージョイナス | 衣料品等の販売及び輸出入業 |
株式会社TSI・プロダクション・ネットワーク | 生産管理及び物流管理 |
株式会社TSIソーイング | 婦人服の縫製加工 |
株式会社TSI EC ストラテジー | 衣料品の通信販売、電子商取引 |
キャロウェイアパレル株式会社 | 衣料品等の企画、製造、販売 |
TSIホールディングス前身会社の沿革 | ||
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東京スタイル | サンエー・インターナショナル | |
1949 | 3月 東京都千代田区神田東松下町25番地において、婦人既製服製造卸業を目的として、資本金100万円にて東京縫製株式会社(1950年2月株式会社東京スタイルに商号変更)を設立 | 8月大阪市東区(現在中央区)本町三丁目において、資本金200万円にて三永株式会社(1988年9月株式会社サンエー・インターナショナルに商号変更)を設立 |
1975 | 12月 東京証券取引所市場第二部に上場 | |
1976 | 9月 株式会社トスカ(現・株式会社トスカバノック)を設立 | |
1977 | 8月 東京スタイル 東京証券取引所市場第一部に指定替え | |
2001 | 3月 株式会社日本バノック(現・株式会社トスカバノック)を子会社化 | |
2002 | 1月 米ニューヨークにSANEI INTERNATIONAL USA LLCを設立 | |
2003 | 5月 株式会社ナノ・ユニバースを子会社化 | 9月 サンエー・インターナショナル 東京証券取引所市場第二部へ株式上場 |
9月 香港に販売子会社C.S.F.LIMITED(現・TSI Asia Ltd.)を設立 | ||
9月 UNIT&GUEST株式会社を設立 | ||
2004 | 2月 株式会社ジャックを子会社化 | 9月 株式会社アングローバルを子会社化 |
2005 | 8月 サンエー・インターナショナル 東京証券取引所市場第一部に指定替え | |
2008 | 4月 株式会社スピックインターナショナルを子会社化 | |
2010 | 11月 北京子苞米時装有限公司を子会社化 | 5月 生産物流管理子会社の株式会社サンエー・プロダクション・ネットワーク(現・株式会社TSI・プロダクション・ネットワーク)を設立 |
TSIホールディングスの沿革 | |
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2011 | 6月 株式会社東京スタイルと株式会社サンエー・インターナショナルの共同株式移転の方法による共同持株会社として株式会社TSIホールディングスを設立 |
8月 株式会社エレファント、ローズバッドを子会社化 | |
9月 株式会社アルページュを子会社化 | |
12月 株式会社WAVE Internationalを子会社化 | |
2014 | 3月 株式会社東京スタイルと株式会社サンエー・インターナショナルを株式会社東京スタイル、株式会社サンエー・インターナショナル、株式会社サンエー・ビーディー、株式会社TSIグルーヴアンドスポーツの4社に分割するとともに、東京スタイルを株式会社東京スタイル資産管理、サンエー・インターナショナルを株式会社サンエー・インターナショナル資産管理に商号変更 |
3月 株式会社TSI ECストラテジーを設立 | |
6月 株式会社TSIホールディングス本店所在地を東京都港区南青山五丁目1号3番に変更 | |
9月 株式会社 D.A.B.PASTRYを設立 | |
9月 株式会社ジャックが株式会社スタージョイナスを子会社化 | |
9月 株式会社アングローバルがダイスアンドダイス社からDice&Diceとl’isolaの両事業を譲受 | |
2016 | 3月 株式会社アナディスと有限会社シェ・アナンを完全子会社化 |
6月 Laline JAPAN 株式会社を子会社化 | |
7月 TSIグルーヴアンドスポーツがキャロウェイゴルフ株式会社と合弁によりキャロウェイアパレル株式会社を設立 | |
10月 有料職業紹介事業と労働者派遣事業を展開する株式会社フォーラルを完全子会社化 | |
11月 株式会社アイソラーを設立 | |
2017 | 1月 Urth Cafe Japan株式会社を設立 |
9月 株式会社フォーラルを株式会社エス・グルーヴと社名変更の上、販売子会社として再編 | |
12月 HUF Holdings, LLCを子会化 |
文:M&A Online編集部
この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。