【ティーガイア】携帯ショップ最大手が「規模拡大」に走った成算

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ティーガイア<3738>は住友商事<8053>グループ傘下で、国内最大手の携帯ショップを展開する携帯電話販売代理店だ。同社が誕生したのもM&Aがきっかけ。2008年10月に三井物産<8031>子会社のテレパークと、住友商事・三菱商事<8058>の合弁会社エム・エス・コミュニケーションズが対等合併して発足した。

商社系携帯販売会社の合併で誕生

2008年といえば、ソフトバンク<9434>が日本で初めての「iPhone」となる「同3G」を発売した年。「フューチャーフォン(ガラケー)」全盛だった国内携帯電話市場に、ようやく「スマートフォン(スマホ)」が登場した時期に当たる。

ガラケーではNTTドコモ<9437>やau(KDDI<9433>)、ソフトバンクの3大キャリア(携帯通信事業者)が、それぞれのモバイル・インターネットのプラットフォーム(サービス基盤)を握り、通信料金に加えてプラットフォーム上のコンテンツやサービスでの課金手数料で莫大(ばくだい)な利益をあげていた。

3大キャリアは資金力をものを言わせ、シェア拡大のための販売奨励金を携帯電話販売代理店に大量注入した。それを原資とする「0円端末」で、販売代理店は活況を呈することになる。そうした状況の中で、住友・三菱・三井の旧財閥グループの枠を超えた携帯電話販売代理店の「大再編」が起こり、新会社のティーガイアが立ち上がったのである。

ティーガイアは設立から3年後の2011年10月に最初のM&Aを決断した。不動産事業が本業のマエムラ(宮崎市)から、携帯電話販売代理店事業を19億1000万円で取得したのである。マエムラが同事業を会社分割してTG宮崎(同)を設立し、その全株式を取得した。「規模による成長持続」を図ったのだ。

「スマホ時代」到来で携帯電話販売に激震

ところがその後、携帯電話市場でスマホのシェアが拡大して状況は一変する。3大キャリアはモバイル・インターネットのプラットフォームを米アップルと米グーグルに奪われ、販売奨励金を湯水のように出せなくなった。

さらに総務省が販売奨励金で端末代金を補填(ほてん)する「0円ケータイ」販売を問題視するようになり、スマホ化による端末価格の上昇と相まって携帯電話販売代理店の「冬の時代」が始まる。

そこでティーガイアがM&Aのターゲットに選んだのは携帯電話販売店ではなく、全く畑違いの事業だった。非携帯電話販売サービスの強化を図ったのである。

すでに携帯電話ビジネスの「稼ぎ頭」はキャリアや端末販売会社から、プラットフォーマーと端末上でコンテンツやサービスを提供する事業者へ変わっていた。プラットフォーマーは世界でアップルとグーグルの2社しか存在せず、生き残るとしたらコンテンツやサービスを提供するしか道はない。

2014年3月に住友商事の子会社で、ネット通販会社向けのシステム負荷軽減支援クラウドサービスを手がける日本ワムネット(東京都中央区)の株式63.5%を取得し、連結子会社化。2017年2月には同社株を追加取得して、持ち株比率を97.5%まで引き上げている。

さらにティーガイアは、消費者向けのサービス開拓に乗り出す。2017年10月にSCSK<9719>からプリペイドカードの「QUOカード」を発行するクオカード(東京都中央区)の全株式を取得し、子会社化すると発表した。

クオカードの年間売上高は33億円、純資産は110億円だったが、取得価額(アドバイザリー費用などを含む)は225億円。100億円を超える「のれん」を評価するほど期待をかけた買収だった。

ティーガイアは決済サービス事業を携帯電話販売事業に次ぐ中核事業と位置づけ、クオカードの取得により決済事業に力を入れることにした。当時、ギフト用プリペイドカードとして人気があったクオカードをデジタル決済と組み合わせ、スマホで利用可能な「デジタル版QUOカード」を開発。これが現在の「QUOカードPay」である。

ICTソリューションでM&Aを加速

しかし、「QUOカードPay」はコンビニエンスストアで利用できるのはローソン系のみ。ドラッグストアやディスカウントストア、家電量販店でも使えるものの、どの業種も数社から十数社程度と少ない。モバイル決済ビジネスは新規参入が相次ぎ、ティーガイアのモバイル決済事業は停滞することになる。

そこで、ティーガイアは新たな「成長の柱」を見つけるべく、新たなM&Aに乗り出す。法人顧客向けにICT機器の調達から導入、保守、運用支援、廃棄までの一連のライフサイクルを管理・サポートするICTソリューション事業を強化することにしたのである。こうした事業には運用上のサポートや緊急時のトラブル対策が欠かせない。その要となるのがヘルプデスク。

2019年3月、ティーガイアはコールセンターサービスを手がけるPCテクノロジー(東京都台東区)に追加出資し、完全子会社化すると発表した。同社とは2017年に業務提携し、併せて株式の40%を取得済み。連携を強化するため、残る60%を追加取得した。PCテクノロジーの完全子会社化により、ICTソリューション事業の競争力強化を図ったのだ。

2019年7月にはソフトウエア開発のポピュラーソフト(東京都渋谷区)の過半の株式を取得して子会社化すると発表した(取得割合は非公表)。クラウドサービスの提供や各種ソリューション開発の強化のため、自社グループ内でのソフト開発が必要と判断した。子会社化したポピュラーソフトには、金融システムといった大規模プロジェクトからパッケージ製品までソフト開発全般で実績がある。

2020年3月にはネットワークシステムのコンサルティング業務を手がけるインフィニティコミュニケーション(東京都千代田区)の全株式を取得して、完全子会社化した。ネットワーク・エンジニアリング事業の強化が狙い。

ティーガイアが法人向けに提供しているスマホやタブレットなどの「モバイル機器の販売・調達」と、光アクセスサービスを利用した「ネットワーク構築」という二つの事業をつなぎ、法人顧客のスマートインフラ全般に対応できる「ネットワーク・エンジニアリング事業」を立ち上げるのが狙いだ。

業界を驚かせた富士通系販売代理店の大型買収

そして2020年8月、ティーガイアは携帯電話販売業界を驚かすM&Aを発表する。富士通<6702>の100%子会社である富士通パーソナルズ(東京都港区)の携帯電話販売事業を買収するというのだ。富士通が対象事業を継承する新会社を全額出資で2020年9月に設立。ティーガイアはこの新会社の全株式を286億円で取得する。

富士通パーソナルズはNTTドコモの一次代理店として、全国に110店舗以上の「ドコモショップ」を展開する。かつて携帯電話を開発・生産していた大手家電メーカーは、端末の販売代理店を子会社として設立していた。富士通パーソナルズは、その最後の「生き残り」だ。

スマホ時代の到来で、「日の丸ケータイ」はスマホへの移行を図ったものの、アップルの「iPhone」や韓国・中国製のアンドロイド端末との競争に破れ、次々と撤退。キャリアによる販売奨励金の見直しや国の規制などで、携帯電話販売は「おいしいビジネス」ではなくなってきた。

これに伴い、日立製作所<6501>系の日立モバイルとパナソニック<6752>系のパナソニックテレコムが伊藤忠商事<8001>系のアイ・ティー・シーネットワーク(現・コネクシオ)に、NEC<6701>系のNECモバイリング(現・MXモバイリング)が丸紅<8002>に、三菱電機<6503>系のダイヤモンドテレコムが兼松<8020>子会社の兼松コミュニケーションズに、それぞれ買収されている。

富士通も2018年夏ごろから富士通パーソナルズの売却を模索しており、どこが買収するのかが注目されていた。富士通は入札を実施し、ティーガイアが競り勝った。ティーガイアとしてはただでさえ厳しい携帯電話販売代理店事業で、シェアトップから陥落すれば業績に深刻な影響を及ぼすと判断したようだ。

だが、同社の2020年3月期における全社の売上高営業利益率は2.9%と低い。この上、部門別の利益率が低い携帯電話販売代理店事業を新たに抱え込むリスクはないのか。富士通パーソナルズの純資産は30億3000万円で、「のれん代」は250億円を超える。しかも、同社の売上高営業利益率は2.62%と、「買い手」であるティーガイアの既存販売代理店事業部門の2.98%よりも低いのだ。

ティーガイア株の24.1%を保有し、第2位の株主である光通信<9435>は、主力事業だった携帯電話販売から電力卸売や光回線、個人向けミネラルウォーターサーバーなどへ多角化して増収増益を続けている。

これに対し、ティーガイアは業界トップに立つ携帯電話販売代理店事業で今回、大型買収を決断した。利益率が低く、将来性に疑問符もつく携帯電話販売代理店事業だが、スケールメリットをどう引き出し、持続的成長につなげるのか、次の一手が注目される。

部門別業績 (単位:億円)
事業部門 販売代理店(モバイル)事業 ソリューション事業 決済・その他事業 合計
売上高 3,909 301 530 4,740
営業利益 116.6 28.1 -7.5 137.2
売上高営業利益率 2.98% 9.34% -1.42% 2.89%

ティーガイアのM&A年表

ティーガイアの主なM&A
発表日 取引総額 内容
2011年10月 19億1000万円 不動産事業のマエムラから携帯電話販売代理店事業を取得
2014年3月 非公表
日本ワムネットの発行済株式の63.5%を取得し連結子会社化
2017年10月 225億円 SCSK傘下のクオカードを完全子会社化
2019年3月 非公表 コールセンターサービスのPC テクノロジーを完全子会社化
2019年7月 非公表 ソフト開発のポピュラーソフトを子会社化
2020年3月 非公表 ネットワークコンサル業務のインフィニティコミュニケーションを子会社化
2020年8月 287億円 富士通パーソナルズの携帯電話販売事業を286億円で買収