【塩野義製薬】M&Aでワクチンビジネスに参入 5年で全社売上高を1.5倍に

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塩野義製薬<4507>はワクチンビジネスに参入する。2019年12月にTOB株式公開買い付け)で子会社化したUMNファーマ(秋田市)が保有する昆虫細胞などを用いた、たんぱく発現技術を活用した遺伝子組み換えたんぱくワクチンで実現を目指す。 

すでに公的機関やパートナー企業などと連携して、新型コロナウイルス感染症向けワクチンの開発に取り組んでおり、年内にも臨床試験に入りたい考えだ。

同社が2020年6月に発表した2025年3月期を最終年とする5カ年の中期経営計画では、ワクチンビジネスへの参入のほか、米国でのM&Aなどを計画しており、2025年3月期の売上高は2020年3月期比約1.5倍の5000億円を目標に掲げる。

今後の同社の成長にM&Aが重要な役割を果たすことになりそうだ。 

ワクチン生産の立ち上げ準備にも着手 

塩野義製薬は、子会社化したUMNファーマと2017年にヒト用感染症予防ワクチンなどの共同開発に向けて資本、業務提携しており、TOB時点で31.08%の株式を所有していた。 

同社を子会社化することで関係をより親密にし、ワクチンビジネス参入に必要な創薬基盤を獲得する予定だったが、新型コロナウイルス感染症の拡大によってアクセルを強く踏み込む形となった。 

現在、同社ではワクチンとなる、たんぱく抗原候補の製造方法の検討や分析法の設定などに取り組んでおり、共同研究先である国立感染症研究所では抗原の候補やワクチンの効果を補強する物質の候補についての試験を行っている。 

同社東京支店が入る東京・丸の内のビル

また、開発と並行して1000万人規模の早期提供を実現するため、遺伝子組み換えたんぱくワクチンの製造実績を持つアピ(岐阜市)などと共同で国に補助金申請を行うなど、生産の立ち上げ準備にも着手した。 

同社では新型コロナウイルスの治療薬についても、北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターと共同研究を進めており、2020年度内の臨床試験開始を目指して薬剤候補物質の選抜に向けた高次探索試験の準備や、その後の非臨床試験、臨床試験を見据えた製造方法の検討などに取り組んでいる。 

さらに2020年6月には新型コロナウイルスの抗体検出キットを研究用試薬として発売するなど、新型コロナウイルス関連事業を精力的に展開中だ。 

米国ではM&Aで成長 

塩野義製薬は、前身となる薬種問屋である塩野義三郎商店が1878年に大阪・道修町で誕生したのが始まり。1886年に取扱品を洋薬に転換し、1909年には自家新薬第1号となる制酸剤アンタチヂンの製造、販売に乗り出した。 

1943年に塩野義製薬に社名を変更し、1949年には東京、大阪両証券取引所に株式を上場した。1950年に発売した鎮痛薬セデスや、1953年に発売した総合ビタミン剤ポポンSは、誰もが知るヒット商品となった。 

1963年には動物薬品部と植物薬品部を設置したほか、臨床検査室の業務を始めるなど多角化を目指したが、いずれも2001年から2002年にかけ事業を譲渡した。 

主なM&Aとしては1992年にイーライリリー社からカプセル事業を買収(2005年売却)したのを皮切りに、2008年に米国の製薬会社Sciele Pharma, Inc.(現Shionogi Inc.)を、2011年に中国の製薬会社C&O Pharmaceutical Technology (Holdings) Limitdを、2018年に健康食品の通販会社・宝ヘルスケアをそれぞれ買収した。 

その後は2019年のUMNファーマに次いで、2020年5月に医薬品開発を手がける米国のTetra Therapeutics(ミシガン州)の全株式を取得した。 

Tetraは脆弱X症候群、アルツハイマー型認知症、外傷性脳損傷などの治療薬を開発するバイオテクノロジー関連の研究開発型企業で、塩野義製薬は2018年に認知機能改善薬候補物質BPN14770のライセンス契約と出資契約をTetraと締結し、関係を強化していた。 

BPN14770の第Ⅱ相の臨床試験でアルツハイマー型認知症などに対する効果が認められたことから完全子会社化に踏み切った。 

中期経営計画では重要地域と位置付ける米国で、早期に事業規模を拡大する戦略を立てており、今後、TetraのようなM&Aの実施や、新しいビジネスモデルの導入、病院や専門医事業の確立などに取り組む。 

加えて同様に重要地域に位置付ける中国でも中国平和保険グループとの協業によるビジネス基盤の構築や中国を軸にしたアジア展開なども推進する。 

こうした取り組みによって、海外売上高比率を2020年3月期の18.5%から2025年3月期には一気に50%以上に高める計画だ。

塩野義製薬の沿革と主なM&A
1878 初代塩野義三郎が大阪道修町で薬種問屋塩野義三郎商店を創業、和漢薬を販売
1886 取扱品を洋薬に転換
1909 自家新薬第1号となる制酸剤アンタチヂンを製造、販売
1910 大阪市福島区に塩野製薬所を建設
1919 塩野義三郎商店と塩野製薬所を合併、塩野義商店に組織変更
1943 塩野義製薬に社名を変更
1949 東京、大阪両証券取引所に株式を上場
1950 鎮痛薬セデスを発売
1953 総合ビタミン剤ポポンSを発売
1963 動物薬品部を設置(2002年譲渡)、植物薬品部を設置(2001年譲渡)、臨床検査室の業務開始(2002年譲渡)
1978 創業100周年
1992 イーライリリー社からカプセル事業を買収(2005年売却)
1993 大阪市道修町に新本社ビルを建設
2008 米国の製薬会社Sciele Pharma, Inc.(現Shionogi Inc.)を買収
2011 中国の製薬会社C&O Pharmaceutical Technology (Holdings) Limitdを買収
2016 シオノギヘルスケアを設立
2018 シオノギファーマを設立
2018 健康食品の通販会社・宝ヘルスケアを買収
2019 バイオ医薬品メーカーのUMNファーマを完全子会社化
2020 米国の医薬品開発会社Tetra Therapeuticsを買収

10年後の姿を決めるM&A

中期経営計画の初年度となる2021年3月期(国際会計基準)は2期連続の減収減益となる見込み。新型コロナウイルスの影響は不透明なため業績予想には盛り込んでおらず、通常の事業活動の結果として、売上高は前年度比3.0%減の3235億円を見込む。 

感染症薬などは増収となるもののロイヤルティー収入の減少や円高による売り上げの目減りなどが要因で、利益も減収の影響に加え販売費や研究開発費の増加、株式評価益の減少などにより2ケタの減益となる。 

営業利益は同15.6%減の1103億円、税引き前利益は同14.0%減の1363億円、当期利益は同15.2%減の1036億円にとどまる見込み。 

この減収減益予想は中期経営計画に盛り込んでおり、2年後の2023年3月期に売上高4000億円、営業利益1200億円を経たうえで、最終年の2025年3月期に売上高5000億円とともに営業利益1500億円につなげる計画だ。 

同社では中期経営計画と同時に2030年Visionも策定しており、現在の中期経営計画終了後の次の中期経営計画の戦略や数字目標などを公表している。 

それによると現中期経営計画は新しいビジネスモデルを具現化する期間で、次期中期経営計画は新しいビジネスモデルによる成長期間と位置づけている。 

複数の新しいビジネスモデルにより、高利益率と経営基盤の安定を両立するのが目標で、最終年の2031年3月期に売上高6000億円、営業利益2000億円を目指す。 

ビジネスモデルを具現化する期間である現中期経営計画の中で、反転するきかっけとなるのは新型コロナウイルスのワクチンだろうか。それとも未知のM&Aだろうか。これら取り組みが10年後の塩野義製薬の姿を決定づけることになることを踏まえると、その重要性が浮かび上がってくる。

【塩野義製薬の業績推移】単位:億円、日本基準

  2017年3月期 2018年3月期 2019年3月期 2020年3月期
売上高 3388.9 3446.67 3637.21 3349.58
営業利益 1081.78 1152.19 1385.37 1252.31
経常利益 1230.31 1386.92 1665.75 1517.51
当期利益 838.79 1088.66 1327.59 1212.95

文:M&A Online編集部