島津製作所<7701>が、3年ぶりにM&Aに乗り出した。同社は2022年7月に、日本水産<1332>の上場子会社である日水製薬をTOB(株式公開買い付け)で完全子会社化する。両社は2015年に臨床検査事業に関して業務提携していたが、子会社化することで同事業の一層の拡大を目指すことにした。
島津は2018年3月期から2020年3月期までの前中期経営計画の中で、海外販路強化のためのM&A を積極化する方針を打ち出していた。
実際にこの方針に沿って2017年にフランスの試薬製造会社Alsachim SAS(ALC)を買収し、2018年にはターボ分子ポンプの販売やメンテナンスなどのサービスを手がけるドイツのinfraserv Vakuumservice GmbH(IVG)を完全子会社化。さらに2019年には医用画像診断機器の販売を手がける米国のCore Medical Imaging, Inc.(CMI)を買収した。
その後に策定した、今の中期経営計画(2021年3月期-2023年3月期)では、M&Aによる事業強化の方針を変更し、スタートアップとの連携に舵を切っていたが、実際はM&Aが実現することとなった。
コロナ禍で厳しい経済状況が続く中、今の中期経営計画で掲げている売上高4000億円以上、営業利益460億円以上、営業利益率11.5%以上はいずれもクリアできる見込みで、2023年4月からスタートする次期中期経営経計画は、一段と意欲的な内容になりそうだ。
日水製薬の買収はまずは、日本水産が保有する日水製薬株(54.06%)を除く45.94%の株式をTOBで取得したあと、日本水産が保有する全株式を、日水製薬が自社株買いを行う手順で実施する。45.94%分の買付代金は最大約176億円、自社株買いの費用は約201億円に達する見込みだ。
日水製薬は1935年に日産水産研究所としてスタートし、クジラの肝臓から増血栄養剤を、動物胆汁から胃腸薬などを製造していた。1962年に現社名に変更し、臨床診断薬や、食品、医薬品製造用の試薬などを中心に医薬品事業に乗り出した。
1990年に東京証券取引所市場第二部に上場し、2006年に同一部に昇格した(2022年4月に東証プライムに移行)。
2022年3月期の売上高は166億5700万円(前年度比39.1%増)、営業利益15億6400万円(同94.4%増)、経常利益15億9300万円(同66.6%増)、当期利益11億4600万円(同74.7%増)といたって好調だ。
400億円近い費用を投じて実施する3年ぶりのM&Aの効果は、今の中期経営計画の最終年度である2023年3月期の業績をさらに上振れさせることになることは間違いない。
では前中期経営計画中に実施した3件のM&Aはどのような内容なのか。2017年に買収したフランスのALCは、安定同位体試薬の合成や製造を手がけている企業。島津は自社の液体クロマトグラフ質量分析計とALCの試薬キットをセット販売しており、ALCの買収によって新たな試薬キットの開発を進め、機器と試薬のセット販売で質量分析事業を拡大する作戦だ。
2018年に買収したドイツのIVGは半導体製造装置向けの超高真空環境を作り出すターボ分子ポンプを取り扱う企業。島津のターボ分子ポンプのメンテナンスなどを請け負ってきており、子会社化によって、欧州地域でのターボ分子ポンプの販売、サービス体制を一段と強化するのが狙いだ。
2019年に買収したCMIは島津の医用画像診断機器の販売代理店で、買収によって直販力を高めることにした。島津は2020年4月にCMIを吸収合併し、医用画像診断機器の販売とサービスを手がけるShimadzu Medical Systems USAのノースウエスト支店(ワシントン州)として、活動を始めた。
このほかにも同中期経営計画中に小規模なM&Aとして、中国でクロマトグラフ用の消耗品を販売する企業を子会社化したほか、韓国で医薬やライフサイエンス、大学などを中心に事業を展開する販売会社を買収した。
こうしたM&Aを踏まえ、現在の中期経営計画では、成長分野での事業拡大を狙いにスタートアップとの連携強化を打ち出していた。他社や大学などが持つ技術やアイデアなどを取り入れ、革新的なビジネスモデルを創り出すオープンイノベーション戦略の一環で、スタートアップのほかにも研究機関や大企業との連携などもある。
その一つがと2021年に実施した塩野義製薬<4507>との業務提携。新型コロナウイルス感染症対策の一つとして、下水中のウイルスの自動検出や、感染状況、変異株の発生動向などの検知が可能となる下水モニタリングシステムの構築を目指している。
コロナ関連では2020年に、新型コロナウイルス検出試薬キットや、全自動リアルタイムPCR装置の販売に乗り出すなど、取り組みを強化してきた経緯がある。
こうした活動の結果、2023年3月期は売上高4550億円(前年度比6.3%増)、営業利益680億円(同6.6%増)、経常利益680億円(同3.7%増)、当期利益490億円(同3.6%増)と増収増益を見込んでおり、中期経営計画の目標を大きく上回ることになりそうだ。
島津の社名の由来は1500年代後半にまでさかのぼる。創業者である初代島津源蔵の祖先である井上惣兵衛尉茂一が、居住地の播州(兵庫県南西部)で、領地に立ち寄った薩摩の島津義弘に、 領地の検分などで尽力したことに対する感謝の印として、島津の姓と家紋を贈られたという。
創業は1875年。島津源蔵が京都で教育用理化学器械の製造に乗り出したのがスタートだ。1897年に蓄電池の製造を始めたほか、1936年には航空機器の製造に着手するなど業容を拡大していった。
1952年に日本初の光電式分光光度計を開発したのに続き、1956年には日本初のガスクロマトグラフを開発するなど、存在感を高めていった。2002年に同社社員の田中耕一さんがノーベル化学賞を受賞し、その技術力の高さが際立った。
業績は好調だ。2020年3月期にコロナ禍の影響で減収減益を余儀なくされたが、落ち込み幅は1.5~6.1%と軽微だった。この後は回復基調に入っており、2023年3月期には3期連続の増収増益を達成できる見込みだ。
2024年3月期から2026年3月期までの次期中期経営計画では、どのような数値や目標を掲げるのか。企業買収やスタートアップとの連携、研究機関や企業などが持つ技術の活用など予想される取り組みは少なくない。
年 | 島津製作所の沿革と主なM&A |
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1875 | 初代島津源蔵が 京都木屋町二条南で創業、 教育用理化学器械製造を開始 |
1877 | 日本で初めて有人軽気球の飛揚に成功 |
1896 | X線写真の撮影に成功 |
1897 | 蓄電池の製造を開始 |
1917 | 蓄電池部を別会社化 |
1936 | 航空機器の製造を開始 |
1952 | 日本初の光電式分光光度計を開発 |
1956 | 日本初のガスクロマトグラフを開発 |
1961 | 世界初の遠隔操作式X線テレビジョン装置を開発 |
1999 | 世界最高速の遺伝子解析装置を開発 |
2002 | 田中耕一氏がノーベル化学賞を受賞 |
2008 | 三菱重工業からターボ分子ポンプ事業を譲受 |
2017 | フランスのAlsachim SAS社を買収 |
2018 | ドイツのinfraserv Vakuumservice GmbHを買収 |
2019 | 米国のCore Medical Imaging, Inc.を買収 |
2020 | 新型コロナウイルス検出試薬キットを日本国内で発売 |
2020 | 全自動リアルタイムPCR装置を日本国内で発売 |
2022 | 日水製薬を子会社化(7月の予定) |
文:M&A Online編集部