【識学】買収したプロバスケチームが黒字に 投資も活発化

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写真はイメージです

独自の組織運営理論「識学」でコンサルティング事業を展開する識学<7049>が、2020年に傘下に収めたプロバスケットボールチーム「福島ファイヤーボンズ」の運営事業スポーツエンタテインメント部門に黒字化のめどが立ってきた。

2021年12月30日に発表した2022年2月期第3四半期決算では、四半期で最大となる6000万円の赤字を計上したが、事業は計画通りに進んでおり第4四半期には黒字化できるという。実現すれば買収後初の黒字となる。

2019年に設立したファンド(識学1号投資事業有限責任組合)部門では、投資先であるアイドマ・ホールディングス<7373>が、ジオコード<7357>に続いて2件目のIPO(新規株式公開)を実現した。同部門も赤字の状況だが、IPOのほかにもM&Aを視野に入れるなど、前向きな姿勢を見せている。

主力のコンサル事業は順調に推移しており、全社の2022年2月期は前年度比50%を超える増収と2.9倍の営業増益を見込む。本業に支えられ、スポーツや投資などの新規事業は今後ますます活発化しそうだ。

勝つための組織づくりを実行

スポーツエンタテインメントは「福島ファイヤーボンズ」を運営する福島スポーツエンタテインメント(福島県郡山市)の子会社化によって立ち上がった部門。

福島ファイヤーボンズは2020年6月期末までに債務超過を解消できなければ、試合の成績にかかわらず、プロバスケットボールリーグ「Bリーグ」のクラブライセンスを失う窮地にあった。

当時「識学」を用いた、勝つための組織づくりによって、福島スポーツエンタテインメントを成長させることができると判断した。黒字化はその成果が徐々にあらわれてきたことを示すものだ。

行政からの受託事業が新たな収益源に

スポーツエンタテインメント部門の2022年2月期第3四半期の状況を見ると、スポンサー獲得に向けた営業活動や、営業人員の採用、新たな収益基盤である企業版ふるさと納税の拡充に向けた地方公共団体との連携強化を進めた結果、スポンサーからの受注額が、前年同期から66.7%も増加した。

ただ、損益はチーム強化に向けた投資などが膨らみ、営業赤字から脱却することはできなかった。

それでも地元の郡山市からプロスポーツの魅力発信や、スポーツ指導者の育成、ホームゲームに子供を招待するなどの事業を受託することで、新たな収益源が確保できたこともあり、第4四半期では黒字転換できると判断したわけだ。

【スポーツエンタテインメント事業】

ファンド組成後1年半で2社が上場

投資の分野では、10%未満の出資にとどめ、IPOやM&Aによって利益を得るためのベンチャーキャピタルファンドと、議決権の33.4%以上を獲得し経営に深くかかわることで利益を得るハンズオン支援ファンドの二つのファンドを運営している。

ベンチャーキャピタルファンドが先行したこともあり、これまでに2件のIPOが実現した。一つは、2020年11月に東京証券取引所JASDAQスタンダード市場に上場したジオコード。

同社はWeb広告や、ネットでの検索結果で特定のWebサイトが上位に表示されるように調整するSEO(検索エンジン最適化)対策事業などを手がけており、増収増益基調にある。

識学ではこのIPOについて、同社のコンサル手法が上場に向けた組織運営と親和性があることを証明する一つ実績であると胸を張る。

第二号のIPOは2021年6月に東京証券取引所マザーズ市場に上場したアイドマ・ホールディングス。

同社は中小企業向けに営業戦略の立案や実行、検証、改善提案などを行う営業支援や、営業 DX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル技術による仕事の変革) ツールの開発や活用支援を手がけており、こちらも増収増益基調にある。

ファンドを立ち上げてからわずか1年半でIPOが2件になったことから、識学のコンサル手法が有効であると強調する。

もう一つのハンズオン支援ファンドでも、2020年10月に営業支援事業を手がけるSurpass(東京都品川区)の株式19.5%を取得し、持ち分法適用関連会社化した。

同社は大企業の顧客に対し、再現性のある営業活動の仕組みの構築を支援しており、識学が組織改善に取り組むことで、Surpassの成長を加速させるとともに、識学がこれまで経験のなかった従業員200人以上の大企業向けのビジネスを開拓する計画だ。

M&A事業を強化

識学は、スポーツや投資のほかにも数多くの分野で連携や新事業への参入実績がある。同社は202年2月4日にM&Aプラットフォームの開発、運営を手がけるDecillion Capital(東京都千代田区)と業務提携した。

Decillion Capitalは、2020年に監査法人や投資銀行、M&Aアドバイザリー会社、PE(プライベートエクイティ-)ファンドなどでM&Aの経験のあるメンバーが立ち上げたベンチャー企業で、今回の提携で、両社のノウハウとビジネス基盤を活用し、それぞれのビジネスを拡大するとともにM&A領域での新商品、新サービスの共同開発などに取り組むという。

識学は2021年11月にM&A分野でフィナンシャルアドバイザーFA)業務を始めたばかりで、Decillion Capitalとの提携はこの延長線上にある。

これに先立つ2019年に、M&A顧問サービス(現 経営者のためのM&Aトレーニング)を開始し、経営者がM&Aの実施について判断できるようにするための支援を行ってきた。このサービスを受けた企業からフィナンシャルアドバイザー業務を求める声が高まってきたこともあり、同分野に参入を決めたという。

2020年8月にはシステム開発、運用子会社のシキラボ(東京都品川区)による株式交換を通じて、モバイルアプリ、ゲーム開発のMAGES.Lab(東京都新宿区)を子会社化した。SaaS(サービスとしてのソフトウエア)型サービスやシステムの受託開発を進めるための人材を確保するのが狙いだ。

識学の沿革と主なM&Aなど
2015 識学を設立
2017 評価制度構築事業(マネジメントコンサルティングサービス)を開始
2017 マネジメントコンサルティングサービスをスポーツ分野で開始
2017 識学クラウド組織診断事業(プラットフォームサービス)を開始
2019 東京証券取引所マザーズ市場に上場
2019 M&A顧問サービス(現 経営者のためのM&Aトレーニング)を開始
2019 ファンド(識学1号投資事業有限責任組合)を設立
2020 プロバスケットボールチーム「福島ファイヤーボンズ」を運営する福島スポーツエンタテインメントを子会社化
2020 モバイルアプリゲーム開発のMAGES.Labを子会社化
2020 営業支援事業を手がけるSurpassを持分法適用関連会社化
2020 投資先のジオコードが東京証券取引所JASDAQスタンダード市場に上場
2021 投資先のアイドマ・ホールディングスが東京証券取引所マザーズ市場に上場
2021 不動産事業のハウスドゥと業務提携
2021 フィナンシャルアドバイザーFA)業務を開始
2022 M&Aプラットフォームの開発、運営のDecillion Capitalと業務提携

2022年2月期の営業利益は2.91倍に

こうした積極的な活動もあって、業績は好調に推移している。2022年2月期は売上高37億9800万円(前年度比51.6%増)、営業利益4億円(同2.91倍)、経常利益3億5300万円(同77.4%増)、当期利益1億5300万円(前年度は4100万円の赤字)の見込みだ。

さらに、2年後の2024年2月期には、売上高63億円(2021年2月期比2.51倍)、営業利益15億6000万円(同11.39倍)という高い目標を掲げる。

同社では事業領域拡大に伴う収益基盤の確立により、数字が上振れする可能性があるとしており、どこまで伸びるのか、関心が集まりそうだ。

【識学の業績推移】単位:億円、2022年2月期は予想

文:M&A Online編集部