不動産業を手がけるサムティ<3244>が、コロナ後の需要の回復を見込みホテル事業の拡大に乗り出した。
2021年3月に、世界的ホテルチェーンのマリオット・インターナショナルが運営するホテルブランド・アロフト大阪堂島(大阪市)の信託受益権保有・運営のアール・アンド・ケイ(東京都千代田区)を子会社化したほか、2021年中に世界的なホテルチェーンのシャングリ・ラグループが取り組むホテル開発プロジェクトであるシャングリ・ラ京都二条城(仮称、京都市)のShangri-La Kyoto Nijojo特定目的会社(東京都千代田区)を子会社化する。
同社は2018年に公表した中期経営計画「サムティ強靭化計画」を、2021年1月に見直し、新たな中期経営計画「サムティ強靭化計画(アフターコロナ版)」を策定。この中で、コロナ後は、観光需要が戻ると想定し、ホテル事業の強化を打ち出していた。
同計画では併せて、安定した収益が見込める賃貸マンションの開発やASEAN諸国を中心に海外での事業拡大にも取り組む。2025年11月期には2020年11月期の2倍強に当たる2200億円の売り上げと、同じく2020年11月期の2倍強に当たる350億円の営業利益を見込む。この強気の計画の背景には何があるのか。
サムティは強靭化計画の中でコロナで分かったこととして、マンション、ホテル、オフィスの賃貸物件の収益性について触れ、景気変動の影響を最も受けにくい安定した資産としてマンションを位置づけ、不動産価格、賃料ともに上昇トレンドが続くと分析した。
さらにホテルについては、日本政府が観光立国政策を堅持し、コロナ収束後は需要が戻ると見ており、オフィスについては在宅勤務が困難な企業が多く、地方都市を中心にオフィス需要は底堅いと判断した。また低金利政策によって、国内不動産は魅力的な投資対象との見方が当分続く、としている。
この分析の結果を反映したのがアフターコロナ版として再スタートした強靭化計画なのだ。
強靭化計画のアフターコロナ版では四つの基本方針を掲げた。一つはマンションなどを開発し原則3年間保有することで賃貸収入を増やすというもので、これまで営業利益の15%ほどしか占めていなかった賃貸収入を2025年11月期には50%にまで高める計画だ。
金額だと現在の26億円が2025年11月期には175億円とおよそ7倍に膨らむ計算になる。その一方、現在、営業利益の85%を占めている開発利益は35%まで低下する。金額では147億円が約122億円に減少する見込みだ。
二つ目は投資家から集めた資金でホテルを購入し、その賃貸収入や売買益を投資家に分配するホテルREIT(不動産投資信託)を設立するというもので、同社が関連する既存ホテルの収益力を強めるとともに、新たな投資についても継続して実施するとしている。
2021年8月にはホテルや旅館の再生開発に強みを持つ不動産会社のウェルス・マネジメントと資本業務提携(サムティがウェルス・マネジメント株の32.02%を取得)し、ホテルREIT設立に向けた連携を始めた。
三つ目は地方の中核都市で積極的な投資を行うというもので、関東圏や関西圏などの14都道府県で賃貸マンションなどの開発を進める。
最後の四つ目は海外での事業を拡大し、将来の経営の柱に育てるというもので、ベトナム最大手の不動産デベロッパーVINHOMES JOINT STOCK COMPANYと共同で分譲住宅事業を始めたのを機に、ベトナムでの事業を拡大するほかASEAN諸国で分譲住宅事業への参入を模索していく。
同社では、この方針に沿って2021年11月期から2025年11月期までの5年間に総額約7500億円を投資する方針だ。投資家向けのワンルームマンションなどの開発に3000億円、ホテルやオフィスの開発に1200億円、海外事業に800億円といった具合で、見直し前の強靭化計画で見込んでいた2019年11月期から2021年11月期までの3年間での投資額3000億円を大きく上回る積極的な内容となっている。
これによって2020年11月期に4000億円弱だったグループ資産は、2025年11月期には1兆円を超えるところまで増加する見込みだ。
では、足元の業績はどうか。同社は6月に2021年11月期の業績予想を上方修正した。8月にウェルス・マネジメント株式の32%ほどを取得したことから「負ののれん」が発生し、6億円を営業外収益に計上するためで、経常利益、当期利益がいずれも6億円上振れする。
この結果、売上高は880億~1200億円、営業利益は100億~118億円、経常利益は122億~136億円、当期利益は119億~129億円となる見込み。
新型コロナウイルス感染症の影響を予測することが困難なことなどから、幅を持たせた見通しとなっており、売上高は前年度と比べると最も低い見込みでは13.0%の減収となり、逆に高い見込みでは18.7%の増収となる。
利益も同様で、営業利益は同32.0%~42.0%の減益、経常利益は同10.8%~20.0%の減益、当期利益は12.1%~21.5%の増益となる。
2025年11月期に、2020年11月比約2倍の350億円の営業利益を目標に掲げる同社だが、初年度は30%を超える減益スタートとなる。どの時点で成長軌道に乗ることができるのだろうか。
【サムティの業績推移】単位:億円、2021年11月期は予想、2025年11月期は計画
2019年11月期 | 2020年11月期 | 2021年11月期 | 2025年11月期 | |
売上高 | 855.52 | 1011.2 | 880-1200 | 2200 |
営業利益 | 154.17 | 173.55 | 100-118 | 350 |
経常利益 | 131.93 | 152.47 | 122-136 | 非公表 |
当期利益 | 97.4 | 106.15 | 119-129 | 非公表 |
同社は1982年に大阪市内で不動産の売買や賃貸などの事業を始めたのが始まりで、2005年に現在のサムティに社名を変更し、2007年には大阪証券取引所ヘラクレスに上場した。
2012年に不動産のアセットマネジメントを行う燦アセットマネージメントを子会社化したあと、2020年にベトナム最大手の不動産デベロッパーVINHOMES JOINT STOCK COMPANY傘下の住宅分譲事業会社S-VINを子会社化、翌2021年にアロフト大阪堂島の信託受益権保有・運営のアール・アンド・ケイを子会社化し、さらにシャングリ・ラ京都二条城のShangri-La Kyoto Nijojo特定目的会社を子会社化する予定だ。
昨年から今年にかけてM&Aを積極化させていることが分かる。成長軌道に乗るカギはM&Aが握ることになるかも知れない。
年 | サムティの沿革 |
---|---|
1982 | 大阪市内でサムティ開発を設立。不動産の売買・賃貸・管理業を開始 |
1983 | 分譲マンションの販売受託を開始 |
1984 | 投資用マンションの一棟販売を開始 |
1991 | ファミリー向け分譲マンションの販売を開始 |
2001 | 投資用分譲マンション サムティシリーズの販売を開始 |
2005 | 不動産ファンド向け賃貸マンションS-RESIDENCEシリーズの開始 |
2005 | サムティに社名を変更 |
2006 | ビジネスホテルを保有・運営するサン・トーアの株式を取得 |
2007 | 大阪証券取引所 ヘラクレスに上場 |
2012 | 不動産のアセットマネジメントを行う燦アセットマネージメントを子会社化 |
2013 | 東京証券取引所JASDAQ(スタンダード)市場に上場 |
2015 | 東京証券取引所市場第一部に市場変更 |
2018 | 中期経営計画サムティ強靭化計画を策定 |
2019 | 大和証券グループ本社と資本業務提携 |
2020 | ベトナム最大手の不動産デベロッパーVINHOMES JOINT STOCK COMPANYと共同で分譲住宅事業を開始 |
2020 | VINHOMES JOINT STOCK COMPANY傘下の住宅分譲事業会社S-VINを子会社化 |
2021 | 中期経営計画サムティ強靭化計画(アフターコロナ版)を策定 |
2021 | アロフト大阪堂島の信託受益権保有・運営のアール・アンド・ケイを子会社化 |
2021 | 不動産会社ウェルス・マネジメントと資本業務提携 |
2021 | 高級ホテルのシャングリ・ラ京都二条城の特別目的会社を子会社化(予定) |
文:M&A Online編集部