【ロート製薬】2030年にありたい姿に向けM&Aを推進

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写真はイメージです

目薬最大手のロート製薬<4527>が、およそ1年半ぶりにM&Aに乗り出した。同社は2021年8月末までに、痔の治療薬「ボラギノール」を展開する天藤製薬(大阪府豊中市)の株式67.19%を取得し、子会社化する。

2020年3月に医療用目薬事業への参入を目的に、医療用点眼薬の製造・販売を手がける日本点眼薬研究所(名古屋市)を子会社化したのに続くもので、今回は成長ビジョン「ロートグループ総合経営ビジョン2030」に掲げているOTC(一般用医薬品)領域の事業拡大が狙いだ。

同ビジョンではOTC領域のほかに「スキンケア」「機能性食品」「医療用眼科用薬」「再生医療」「開発製造受託」の事業領域の目標を定めており、今後はこれら領域でのM&Aの可能性もありそうだ。

ボラギノールを一段上のステージに

ロート製薬が子会社化する天藤製薬は江戸時代後期の創業で、1921年にボラギノールを発売し、この100年間、製造販売を続けてきた。ロート製薬の杉本雅史社長は「長い伝統を持ち、顧客からの確かな信用に支えられた天藤製薬の痔疾用剤事業を引き継ぐことに大きな社会的意義を感じる」とのコメントを発表。

これに対し天藤製薬の大槻良三社長は「チャレンジ精神の高い企業グループによってボラギノールがさらに喜ばれるブランドに成長することを期待する」と応じており、両社足並みをそろえて事業拡大に取り組む姿勢を示している。

さらに天藤製薬株式の30%を武田薬品工業<4502>が保有しており、今後はロート製薬、武田薬品、天藤製薬の3社が協力して、ボラギノールを一段上のステージに押し上げることになる。

ロート製薬によると、天藤製薬の2021年3月の売上高は58億6000万円。東京商工リサーチの調べでは2020年3月期の売上高は59億5000万円、当期利益は3億9500万円だった。3社連合は、これら数字をどこまで伸ばすことができるだろうか。

日本のリーディングカンパニーに

ロート製薬は2019年2月に創業120年を迎えたのを機に、2030年にありたい姿を示す「ロートグループ総合経営ビジョン2030」を制定した。合わせてその後の10年間で、注力する事業領域を明確にし、各領域で目指す姿として「事業領域ビジョン2030」を定めた。

事業領域ビジョン2030の一つであるOTC領域では「日本におけるOTC医薬品のリーディングカンパニーを目指す」としており、この目的実現のための取り組みの一つが天藤製薬の子会社化だったわけだ。

【ロート製薬の事業領域ビジョン2030】

OTC医薬品
(一般用医薬品)
日本におけるOTC医薬品のリーディングカンパニーを目指す
スキンケア 肌本来の機能に働きかけ、健やかさを再生するスキンケアを創造する
機能性食品 エビデンスと信用に基づく食品事業を第三の柱に育てる
医療用眼科用薬 アイケアリーディングカンパニーとして医療用眼科領域を開拓し、早期の収益化を実現する
再生医療 革新的なライフサイエンス技術を事業化する
開発製造受託 独自開発力を付加した開発製造受託へ進化させる

このほかに機能性食品では「エビデンスと信用に基づく食品事業を第三の柱に育てる」、医療用眼科用薬では「アイケアリーディングカンパニーとして医療用眼科領域を開拓し、早期の収益化を実現する」、再生医療では「革新的なライフサイエンス技術を事業化する」と具体的な目標を定めた。

スキンケアでは「肌本来の機能に働きかけ、健やかさを再生するスキンケアを創造する」、開発製造受託では「独自開発力を付加した開発製造受託へ進化させる」といったビジョンも示した。

さらに、これら事業を健康、未病、軽度疾患、病気の4段階に当てはめ、スキンケアや機能性食品は健康の位置に、開発製造受託や再生医療などは病気の位置に配置し、健康から病気まで幅広く関与していく姿を示した。

2030年までの間にそれぞれのマスが拡充されることになる。

【ロート製薬の事業】

利益が過去最高を更新

ロート製薬は1899年に大阪で信天堂山田安民薬房を創業し、胃腸薬「胃活」を発売したのが始まり。1909年には点眼薬「ロート目薬」発売した。当時の眼科医界の権威であった井上豊太郎博士が処方し、商品名は井上博士の恩師であるロートムンド博士にちなんで命名したという。

1961年に大阪証券取引市場第二部に上場し、翌年に胃腸薬「パンシロン」を発売した。1975年に米メンソレータム社から商標専用使用権を取得し、1988年には米メンソレータム社を買収し、経営権を取得した。

2002年にエムジーファーマを買収し、翌年に森下仁丹と業務・資本提携を締結。2007年には目黒化工(現・クオリテックファーマ)を買収し、2015年には摩耶堂製薬を子会社化、2020年に日本点眼薬研究所を買収し、経営権を取得、同年にカネカと涙道カテーテル事業で事業提携に合意した。

ロート製薬の沿革と主なM&A
1899 大阪で信天堂山田安民薬房を創業。胃腸薬「胃活」発売
1909 点眼薬「ロート目薬」発売
1931 点眼薬「ロート目薬」を新容器「滴下式両口点眼瓶」で発売
1949 ロート製薬を設立
1954 胃腸薬「シロン」を発売
1961 大阪証券取引市場第二部に上場
1962 胃腸薬「パンシロン」を発売
1962 東京証券取引市場第二部に上場
1964
東京・大阪証券取引市場第一部に指定
1975
米メンソレータム社から商標専用使用権を取得
1988
米メンソレータム社を買収し、経営権を取得
1999
創業100周年
1999
健康食品「フレックスパワー」を発売
1999
コンタクトレンズ市場に進出
2002
エムジーファーマを買収
2003
森下仁丹と業務・資本提携
2007
目黒化工(現・クオリテックファーマ)を買収し、経営権を取得
2015
摩耶堂製薬の株式を取得し、子会社化
2020
日本点眼薬研究所を買収し、経営権を取得
2020
カネカと涙道カテーテル事業で事業提携に合意
2021
天藤製薬の株式を取得し、子会社化(8月の予定)

2020年に傘下に入った日本点眼薬研究所は医療用眼科点眼薬の製造・販売を主体に事業を展開している企業で、防腐剤無添加点眼薬のための「PFデラミ容器」などを開発している。

これら技術とロート製薬が持つ一般用点眼薬の強みを合わせることで、国内外の眼科領域での事業拡大を進めてきた。

2021年3月期は新型コロナウイルスの影響で減収を余儀なくされたが、日本点眼薬研究所が寄与し、売上高は1812億8700万円と、前年度比3.7%減に踏みとどまった。

利益の方は売り上げ減に加え、研究開発費の増加により、営業利益が同0.4%減の229億9000万円の微減益となったものの、経常利益は受取配当金の増加などにより同5.2%増の239億1000万円、当期利益は同8.6%増の167億4300万円と、いずれも過去最高を更新した。

2022年3月期は新型コロナウイルスの影響が残るものの、天藤製薬の子会社化の効果などもあり、売上高は同0.4%増の1820億円を見込む。

営業利益は同0.5%増の231億円、経常利益は横ばいの239億円、当期利益は同2.1%増の171億円と堅調に推移する見込みだ。

ロート製薬は「NEVER SAY NEVER」のスローガンを掲げて、困難を乗り越え挑戦し続けることを宣言している。M&Aの出番は少なくはなさそうだ。

【ロート製薬の業績推移】単位:億円、2022年3月期は予想

2020年3月期 2021年3月期 2022年3月期
売上高 1883.27 1812.87 1820
営業利益 230.85 229.9 231
経常利益 227.35 239.1 239
当期利益 154.1 167.43 171

文:M&A Online編集部