【パン・パシフィック・ インターナショナルHD】成長のカギを握るのは?

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東京・上野の店舗

総合ディスカウント店ドン・キホーテを展開するパン・パシフィック・ インターナショナルホールディングス(PPIH)<7532>が、新たな経営の柱の構築に乗り出した。

同社は2021年4月に、米国カリフォルニア州の高級スーパーマーケットチェーン「Gelson's」の持ち株会社GRCY Holdings, Inc.を子会社化した。

大黒柱であるドン・キホーテなどのディスカウントストア事業、第2の柱であるユニーなどの総合スーパー事業に続き、既存の海外事業とこの高級スーパー事業を合わせた海外事業を第3の柱に育てる計画という。

第2の柱であるユニーは2019年に子会社化した企業であり、M&Aが同社の成長に重要な役割を果たしていることがよく分かる。

同社は2025年6月期を最終年度とする中期経営計画を策定しており、その中で継続的な業態創造を戦略の一つとして掲げている。第3の柱に続く次の柱の構築でもM&Aの出番は少なくなさそうだ。

海外事業が成長を牽引

Gelson'sブランドは創業70年の老舗スーパーで、南カリフォルニアエリアに27店舗を展開している。当時、同地域は人口増加が続いており、高品質な商品を求める消費者層が多いこともあり、新規出店や既存店舗の集客増による継続的な発展が見込めることから買収を決めた。

PPIHが供給するジャパンブランドの高品質商材を品ぞろえすることで、消費者の支持が広がることに加え、PPIHの北米事業で、仕入れや資材調達などでシナジーが見込めることもプラス要因となった。

Gelson'sの2020年12月期の売上高は8億7200万ドル。当時の為替レートでは、売上高は約917億円だが、現為替レートである1ドル140円では約1220億円になる。計算上では、海外事業が大きく伸びていることになる。

当時、PPIHでは海外売上高が2020年6月期に1151億円だったのが、Gelson's の買収で2000億円規模に増え、連結売上高の10%程度となるとしていた。

また、2020年2月に公表した中長期経営計画「Passion 2030」では、2030年6月期の売上高は国内で2兆円、海外で1兆円の合計3兆円、営業利益2000億円を目指しているとしていた。

その「Passion 2030」は、コロナ禍の影響を考慮し2022年8月に見直し、「Visionary2025/2030」に改訂した。新中長期経営計画では2030年の目標は営業利益の2000億円は残したものの、売上高の3兆円は、経営戦略の転換を推し進めるためとの理由で目標から除外した。

とはいえ海外事業を第3の柱に育てるとの方針に変更はなく、小売店や物販飲食店の出店を継続するとともに、利益率の改善などにも力を入れていく計画だ。コロナによって大きな環境変化に見舞われたが、再び着実な取り組みを展開するステージに入ったといえる。

3年後に2兆円目指す

その海外事業の成長の目標は、2025年6月期を最終年度とする中期経営計画に盛り込んだ。2025年6月期は売上高2兆円、営業利益1200億円の数値目標を掲げている。2022年6月期と比べると売上高は9.2%の増収、営業利益は35.2%の増益となる。

このうち海外事業を見ると、売上高は3700億円で、2022年6月期比38.4%の増収となる。国内の売上高の伸び率が同4.2%のため、海外事業が成長を牽引することになる。構成比は18.5%で、第3の柱といっても問題なさそうなレベルまで育つ見込みだ。

一方、営業利益は、さらにPPIHの成長を牽引することになる。2025年の営業利益は270億円の見込みで、伸び率は同2.49倍になる。構成比も22.5%と全体の4分の1近くを占める計算だ。

この数字の裏付けとなるのが出店計画だ。同社では北米を中心とするアジア以外の地域では北米(8店)、ハワイ(2店)、グアム(1店)などに出店し、店舗数を2022年6月期65店から、2025年6月期には78店に増やす計画だ。

アジアでも、タイ(8店)、シンガポール、マレーシア(各7店)、香港(6店)、台湾(5店)、などで34店を出店し、2022年6月期の30店舗から2025年6月期には倍増に64店に拡充する。出店するのは既存のディスカウント店に加え、物販飲食業態である「鮮選寿司」にも注力する計画だ。

では足元の業績はどうか。2022年6月期の売上高は1兆8312億8000万円(前年度比7.2%増)、営業利益886億8800万円(同9.2%増)と増収営業増益だった。円安の進行や、原材料費の高騰など厳しい状況にあったが、積極的な出店で成長を維持できた。

2023年6月期も、同様の取り組みを展開することで、売上高は1兆8900億円(前年度比3.2%増)、営業利益940億円(同6.0%増)の増収営業増益の見通し。計画通りにいけば、残り2年で売上高1100億円、営業利益で260億円の上積みを目指すことになる。

【パン・パシフィック・ インターナショナルホールディングスの業績推移】単位:億円、2023年6月期は予想

M&Aで事業領域を拡大

PPIHは、1978年に東京・西荻窪で産声を上げた。1989年にドン・キホーテ1号店を開店、1995年に社名をドン・キホーテに変更した。

2006年に米国ハワイ州のDon Quijote (USA) Co., Ltd.を子会社化したのを皮切りにM&Aを活発化。2007年に総合スーパーの長崎屋を子会社化し、2013年には北米、ハワイ州での店舗運営を目的に、MARUKAI CORPORATIONを子会社化した。

直近では2022年8月に、27.02%を保有するカネ美食品に対しTOB(株式公開買い付け)を実施し、ファミリーマート<8028>が保有する11.83%を取得した。

2017年にユニー・ファミリーマートホールディングス(現・ファミリーマート)と資本、業務提携し、ファミリーマートグループの一員となった後、2019年にはスーパーのユニーを子会社化し、事業領域を拡げた。

2019年に現社名のパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスに変更し、海外事業の拡充に乗り出した。事業領域の拡大を続ける同社が、海外の次に何を柱に据えるのか。今後の展開にもM&Aは欠かせそうにない。

パン・パシフィック・ インターナショナルホールディングスの沿革と主なM&A
1978 東京・西荻窪に18坪の雑貨店「泥棒市場」を開業
1980 ジャスト(現パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)を東京都杉並区に設立
1989 東京都府中市に「ドン・キホーテ」1号店となる府中店を開設
1995 商号をドン・キホーテに変更
1996 株式店頭登録
1998 東京証券取引所市場第二部に上場
2000 東京証券取引所市場第一部に上場
2006 米国ハワイ州のDon Quijote (USA) Co., Ltd.を子会社化
2007 DIY事業を営むドイト株式会社を子会社化
2007 総合スーパー事業を営む長崎屋を子会社化
2009 プライベートブランド「情熱価格」の販売を開始
2013 北米、ハワイ州での店舗運営を目的に、MARUKAI CORPORATIONを子会社化
2013 商号をドンキホーテホールディングス(現パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)に変更
2014 自社発行型電子マネー「majica(マジカ)」サービスを開始
2017 ユニー・ファミリーマートホールディングスと資本・業務提携
2017 ハワイで24店舗のスーパーマーケットを展開する、QSI,Inc. を子会社化
2019 ユニー株式を60%追加取得し、完全子会社化
2019 商号をパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスに変更
2019 ドイトのホームセンター事業とリフォーム事業を譲渡
2020 ユニー子会社でミニスーパー運営の99イチバを譲渡
2021 米国カリフォルニア州でスーパーを運営するGRCY Holdings, Inc. を子会社化
2021 金融事業展開を目的にパン・パシフィック・インターナショナルフィナンシャルサービスを設立

文:M&A Online編集部