【パン・パシフィックHD 】「虎穴に入り虎子を得た」抜群のM&Aセンス

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ディスカウントストア業界ナンバーワンの「ドン・キホーテ」(池袋駅西口店)

パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(以下、パン・パシフィック)<7532>は、「ドン・キホーテ」をはじめ大型ディスカウントストアやスーパーなどを傘下に持つ流通サービス業の持ち株会社だ。

M&Aで業界ナンバーワンに

同社の起源は1978年10月に創業者の安田隆夫最高顧問が西荻窪に開いた、店舗面積60平方メートル足らずの雑貨店「泥棒市場」にさかのぼる。泥棒市場は主に在庫処分品を格安で販売する、いわゆる「バッタ屋」だった。

この格安販売が後の「ドン・キホーテ」につながる。安田最高顧問が夜中に商品陳列をしていたところ営業中と勘違いして買い物客が立ち寄ったことが、ドン・キホーテの深夜営業のルーツ。さらには商品を積み上げ「どこにどの商品があるか分からない」という「圧縮陳列」も、泥棒市場の狭い店舗に商品を並べる苦肉の策から出たアイデアだ。

安売りの「勝利の方程式」を身につけた安田最高顧問は「消費者に良い品をより安く販売する」を旗印に、平成時代が幕を開けたばかりの1989年3月にドン・キホーテ1号店の府中店(東京都府中市)をオープンした。

その後の「快進撃」は、よく知られている。現在は国内ディスカウントストア業界の最大手であり、市場シェアは半分近い。もはや同業種でドン・キホーテを脅かす者は存在しないと言っていいだろう。

その原動力となったのが「M&A」だ。同社が大型M&Aに乗り出したのは2007年のこと。この年に取引総額が140億円を超える案件を二つ実現した。一つはホームセンターのドイト、もう一つはスーパーマーケットの長崎屋だ。同社が最初に取り組んだ2件のM&Aは、明暗がくっきり分かれることになる。

「ドンキ転換」が大型M&Aの成否分ける

2007年の年明け早々に買収したのが、1972年12月創業でホームセンターの草分け的な存在であるドイトだ。しかし、同業他社との競合激化と、店舗面積の大型化に乗り遅れたこともあって業績は低迷。2007年1月にドン・キホーテ(現・パン・パシフィック)が、148億5100万円で全株式を取得して完全子会社化した。

ドン・キホーテは当初から「ホームセンター事業に進出するわけではない」と明言。ドイトの1店舗当たりの平均売場面積が1店舗あたり約4000平方メートルと、ドン・キホーテ(約1100平方メートル)の約4倍になることから、一部店舗で大型店「MEGAドン・キホーテ」などに転換するなどシナジー(相乗)効果を期待した。

不採算店舗の整理などで、ドイトの収益性は改善。買収前の2006年に20億円だった同社の純資産も、2017年6月期には194億円と10倍近くになった。が、同期以降は減益が続き、ドン・キホーテとのシナジー効果も見込めないため、2020年2月にホームセンターを展開するコーナン商事<7516>へ68億2000万円で譲渡した。買収額よりも80億円以上安い価格だった。

2007年10月には会社更生法による再生を終えたばかりの総合スーパーチェーンの長崎屋を、同社の再生スポンサーだったキョウデングループから約140億円で買収する。2008年4月に「長崎屋柏店」を「ドン・キホーテ柏駅前店」に業態転換したのを皮切りに、同6月には「長崎屋溝の口店」を「ドン・キホーテ溝ノ口駅前店」に転換するなどドン・キホーテ化を進め、一気に店舗網を拡大した。

MEGAドン・キホーテ四街道店(同社ホームページより)

長崎屋の大型店は、当時ドン・キホーテが展開し始めたばかりの大型店「MEGAドン・キホーテ」にリニューアル。出店準備の期間が長い大型店を一気呵成に展開する原動力になった。2008年6月にその1号店として「長崎屋四街道店」をリニューアルした「MEGAドン・キホーテ ラパーク四街道店」は年間売上高が長崎屋時代の約3倍となったという。

他の大型店でも売上高が約5〜6倍に達する店舗が出るなど、MEGAドン・キホーテへの業態転換は大成功を収める。一方、ドイトではドン・キホーテへの転換はそれほど進まなかった。ディスカウントストア業態への転換ができたかどうかが、M&Aの明暗を分けたと言えそうだ。

ファミマの「虎穴」に入りユニーを得る

そして長崎屋買収に続く大きな転機を迎えた。2019年1月に実施した総合スーパーチェーン・ユニーの完全子会社化だ。取引総額は282億円と、現在のパン・パシフィック時代を含めて過去最大のM&Aとなった。

2017年8月にユニー・ファミリーマートホールディングス(ユニー・ファミマHD、現・ファミリーマート<8028>)と資本業務提携したドンキホーテホールディングス(ドンキHD)は、総合スーパー事業立て直しを目的にユニー株式の40%を引き受けていた。

この提携を受け、2018年2月にはユニーの「アピタ」「ピアゴ」の既存6店舗について、ドンキとのダブルネームによる共同店舗として改装。その結果、対象店舗の売り上げが倍増するなど連携強化に期待が持てる成果が上がっていた。こうしたことから、ユニー・ファミマHDは経営資源をコンビニ事業に集中するため、残る60%の株式もドンキHDに譲渡する方向に動いたという。

ドンキHDはユニーを子会社化したことで東海エリアを中心に店舗数が飛躍的に伸び、2019年12月6日には出店数が700店舗に達した。「2020年6月期に500店舗体制」としていた中期目標を、ユニーの完全子会社化で前倒しで達成する。

ユニーの店舗を業種転換したMEGAドン・キホーテUNY(同社ホームページより)

一方、ユニー株と引き換えにドンキHDはユニー・ファミマHDの傘下に入ることになった。他社の傘下という「虎穴」に入ることで、ユニーという「虎子」を得たのだ。ドンキHDによるユニーの完全子会社の発表と併せて、ユニー・ファミマHDは2018年10月、持ち分法適用会社化を目的にドンキHDに対してTOB株式公開買い付け)を実施する。

ユニー・ファミマHDは新設した特別目的会社を通じて、最大20.17%のドンキHD株式(3210万8700株)取得を目指した。買付価格はTOB公表前日の終値に対し9.09%のプレミアムを加えた1株6600円で、買付予定金額2119億1742万円という超大型案件だ。ドンキHDもTOBに賛同を表明した。ところが、このTOBは難航する。

ユニー・ファミマHDは同12月20日、ドンキHDに対するTOBを一時見送ると発表。ドンキHDの株価が買付価格を上回ったため、ほとんど応募がなかったのだ。ユニー・ファミマHDがドンキHDによるユニー完全子会社化の「のびしろ」を見誤った結果といえよう。

伊藤忠との関係は?

その後、ユニー・ファミマHDは市場でドンキHD株の買い付けに乗り出したが、2020年10月時点でも持ち株比率は約10%と目標の半分程度にとどまっている。そうこうするうちにファミリーマートが親会社である伊藤忠商事<8001>からのTOBを受け、上場廃止となる見込みだ。

「万年3位」と揶揄されるファミリーマートのコンビニエンスストア事業立て直しを最優先する伊藤忠商事が、ディスカウントストア事業のパン・パシフィックとの関係強化にどこまで力を入れるかは不透明だ。

伊藤忠商事はパン・パシフィックの持ち分法適用会社化を中止するかもしれない。そうなればパン・パシフィックはユニーを手に入れながらも、他社の傘下に入らず完全に独立を維持するという「最高の結末」を迎えることになる。

パン・パシフィックの主なM&A

開示日 取引総額 内  容
2007年1月 148億5100万円 経営不振に陥っていたホームセンターのドイトを子会社化
2007年10月 約140億円 経営再建を完了したスーパーマーケットチェーンの長崎屋を子会社化
2008年8月 23億円 経営不振に陥っていたハローフーヅからディスカウントストア事業のビックワンを子会社化
2011年1月 17億円 経営不振に陥っていた債権買取サービスのフィデック(現・アクリーティブ)を子会社化
2013年3月 16億9000万円 経営不振に陥っていた不動産業のジアース(現・日本アセットマーケティング)を子会社化
2013年9月 非公表 食品輸出入業のマルカイコーポレーションから米国子会社を取得
2017年1月 113億円 アクリーティブ(旧・フィデック)を公開買付け(TOB)で芙蓉総合リース<8424>へ譲渡
2017年9月 非公表 米ハワイの食品スーパー運営会社QSIを買収
2019年1月 282億円 総合スーパーチェーンのユニーを完全子会社化
2020年2月 68億2000万円 ドイトをコーナン商事へ譲渡
2020年4月 12億6000万円 子会社のユニー傘下で孫会社のミニスーパー「miniピアゴ」運営の99イチバを、G-7ホールディングス<7508>へ譲渡

この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています

文:M&A Online編集部