【オーケー】関東ローカルスーパーが関西連合に「待った」をかけた切実な理由

alt

またも「ふりだし」に戻った。共に関西を地盤とする食品スーパーの関西スーパーマーケット<9919>と大手百貨店エイチ・ツー・オー リテイリング(H2O)<8242>の経営統合に、関東でディスカウントスーパーを展開するオーケー(横浜市)が再度「待った」をかけたのだ。それにしてもオーケーは、なぜ強引に割って入ってまで関西進出を目指すのか?

関西スーパーとH2Oの経営統合「差し止め」の仮処分

2021年11月22日、神戸地裁はオーケーが申し立てていた関西スーパーマーケットの臨時株主総会での同社とH2Oとの経営統合案の承認を差し止める仮処分を認めた。これによりオーケーが、再び関西スーパーに対して1株あたり2250円でTOB(株式公開買い付け)による買収を再提案する見通しだ。

そもそもの始まりは関西スーパーが8月31日に、H2O子会社のイズミヤなどと株式交換で統合した上で、H2Oの子会社になると発表したこと。その3日後に関西スーパー株の7.69%を持つオーケーが、「当社も6月に上場来最高値と同じ1株2250円でのTOBを提案していた」と「待った」をかけた。

これに対して関西スーパーは「企業文化も相容れず、食品スーパーとディスカウントスーパーとでは品揃えも違う。物流や仕入れなどでのシナジー(相乗)効果が見込めない」と、オーケーの提案を拒否。関西スーパーは9月24日に「H2Oグループとの経営統合で、最高3128円の株価が予想される」との文書を公表するなど、オーケーのTOBに揺さぶりをかけた。

かつてはM&Aで東北へ進出

関西スーパーは10月29日の臨時株主総会で、H2Oとの経営統合を決議する。ところが関西スーパーが棄権とみなされる白票を「賛成票」として集計したことが判明。これを除くと賛成率は65.71%と議決に必要な3分の2に届かない。オーケーは、そこを突いたのである。関西スーパーは、この仮処分を不服として異議申し立てをする見通しだ。

まさに「泥沼」の敵対的TOBの様相を呈しているが、関西スーパー側の主張にも一理ある。「薄利多売」の食品スーパーの場合、流通や仕入れのコスト削減が最も重要な課題になる。だから食品スーパーのほとんどは、一定のエリア内に集中出店する「ドミナント戦略」をとる。関西スーパーが関西資本のH2Oグループと経営統合するのも「もっともな話」なのだ。

一方、オーケーは東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県に133店舗(開店予定を含む)を展開している。食品スーパーとは取扱商品が異なるディスカウントスーパーであることに目をつぶっても、関西進出はドミナント戦略としては正しくない。事実、同社は1971年11月に仙台市の東京スーパーマーケットを買収して東北に進出した。一時は同市内に3店舗を展開したが、2020年5月に最後まで残った「オーケー 一番町店」を閉店。東北から撤退した。

宮城県には子会社のコンビニエンスストア「パンプキン」も進出したが、1994年9月に16店舗中7店をセブン-イレブン・ジャパンに譲渡、残る9店を閉鎖して完全撤退している。いずれもドミナント戦略の失敗だった。店舗密度が薄く、十分な利益を出せなかったのだ。

「買収の失敗」を成長に活かす

ではなぜオーケーは、またもドミナント戦略のセオリーを無視したTOBをしようとするのか?実は東北での失敗が、関西スーパーへのTOBを断行するきっかけになったのである。東北進出の失敗は、ドミナントを築けなかったことにある。ただ「ドミナント戦略で集中出店」と言っても、そう簡単にはいかない。「カネにものを言わせればなんとなかる」ほど甘くはないのだ。

例えば松山市に本社を置くスーパーマーケットのフジ<8278>は、親会社で広島市に本社を置く十和(現・アスティ)が地元展開を目論んだが、先行するスーパーのイズミ<8273>の出店が進んでいたため、1967年に1号店を松山市にオープンした。その後は四国地方でドミナントを確立。中国地方への進出は1980年代以降のことである。

フジは親会社のある広島県でなく、愛媛県からドミナント展開を始めた=写真は松山市のフジ本町店(フジホームページより)

地道に出店を続ける「正攻法」では、ドミナントの確立までに時間がかかりすぎるのだ。もたもたしている間に地元チェーンとの競争は激化し、ただでさえ利幅が薄い上に値引き合戦を仕掛けられて赤字が積み上がることになる。コンビニなどの異業種への進出も同じことだ。

つまり他の地域でのドミナント確立や、異業種への参入で最も重要な要素は「時間」なのである。短時間のうちに関西地方でドミナントを確立し、食品スーパーへの参入を成功させるのには、すでにドミナントを完成させている地域の大手企業を買収するTOBが最適なのだ。オーケーの狙いも、そこにある。

生き残るためのTOB

オーケーは「カネが余っているから、買収でもしてみようか」という浮ついた考えで関西スーパーにTOBを仕掛けているわけではない。TOBに走らざるを得ない事情があるのだ。

オーケーは年間売上高約5076億円と、国内ディスカウント業界では第2位。だが、業界トップで「ドン・キホーテ」を展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス<7532>は同約1兆7086億円(ディスカウント事業は同約1兆1835億円)と大きく差がついている。店舗数も国内で583店舗と、オーケーの4倍以上だ。

業界3位のトライアルホールディングス(福岡市)は同約4251億円だが、店舗数は261店舗とオーケーの約2倍で、しかも全国展開している。ただ、その分だけドミナント効果が薄い。トライアルの営業利益は約68億円と、オーケーの4分の1以下だ。

関東でのドミナントを確立し、利益率も高いオーケー(同社ホームページより)

オーケーが関西スーパーへのTOBで狙うのは、売上高の増加と関西地方での自社ドミナントの確立だ。関西スーパーの売上高は約1309億円、65店舗を展開している。しかも、ドン・キホーテやトライアルのような全国展開ではなく、大阪府、兵庫県、奈良県に集中しているのも利益面で有利といえる。

オーケーのライバルは同業者だけではない。食品スーパーや大型スーパー、ドラッグストア、ホームセンターなどの業態が近づき、しかもどの業界も再編が進んでいる。強力なドミナント基盤と規模拡大を果たさない限り、「どこから矢が飛んでくるか分からない」市場で生き残るのは難しくなってきた。オーケーにとって、関西スーパーへのTOBは「死活問題」なのだ。

オーケーの沿革

出 来 事
1958年 6月 (株)岡永商店の小売部門として創業。
1967年 9月 (株)岡永商店より分離、オーケー(株)を設立。資本金7000万円。
1971年 10月 (株)東京スーパーマーケットを吸収合併。 資本金1億7400万円。
1972年 9月 資本金を2億5000万円に増資。
1975年 5月 世界初の無人スーパーを通産省と共同で開発し、実験営業。
1982年 1月 資本金を3億円に増資。
1986年 4月 経営の抜本的な改革に着手。 基本方針『高品質・お買徳』に『Everyday Low Price』を加える。
1987年 10月 フランスのカルフールと共同して日本市場のマーケットリサーチを実施。
1989年 4月 消費税施行。食料品については、本体価格×3/103(3%相当額)の割引を実施。消費者の実質的な負担をゼロにする。
4月 買い物袋の有料化を実施。
1996年 3月 『年率30%成長に挑戦』を経営目標に掲げ公表。
1997年 2月 資本金を8億円に増資。
4月 消費税率が5%に。 食料品の本体価格×3/103(3%相当額)の割引を継続。
1999年 9月 『総経費率15%』、『経常利益率5%』、『借入無しで年率30%成長達成』に目標を改め、長期計画を作成。
2001年 11月 『高品質・Everday Low Price』徹底のため、特売チラシ廃止・商品情報発行。
2002年 4月 売上予算は、全店・全部門一律前年110%の設定を開始。
9月 予約方式自動発注システム実験開始。
2003年 3月 経常総経費率15.86%『目標15%』、前年16.47%、前々年16.77%。
8月 資本金を9億4500万円に増資。(第三者割当による時価発行増資)
10月 予約方式自動発注システム本格稼働開始(日配食品部門関東地区全店)。
2004年 1月 長期計画見直し。 2010年3月期『借入無しで年率20%以上の成長を継続して実現する』。 売上高は2000億円以上とし、経常総経費率は15%台、経常利益率は4%台を維持。 第1段階達成の上で、『借入無しで年率30%成長を達成する』に挑戦。
4月 消費税の総額表示実施、本体価格と税込価格(銭まで表示)併記の独自方式で対応し、顧客の信頼が高まる。
10月 生鮮部門の抜本的な強化策が次第に定着、売上の伸びが顕著になる。
12月 グローサリー自動発注全店稼働。
2005年 8月 2005年8月20日現在の株主に対し1株を2株に分割。
2006年 9月 2006年9月21日現在の株主に対し1株を2株に分割。
11月 オーケークラブ発足。食料品については、本体価格×3/103(3%相当額)の割引は 会員のみの特典とし、会員数約80万人。
2007年 3月 自動棚割開始。一般食品・菓子・飲料が対象。
7月 30日付で2007種類株227,400株を、2,500円/1株で発行、株主数は2,274名増加。 資本金は12億2925万円に。
8月 青果発注システム稼働。
2008年 2月 新リース会計基準の施行に伴い、2008年2月開店の本厚木店以降、開店の際にリースで取得していた設備什器約3億円について、従来のリース調達を取りやめ、現金払いとする。
3月 オーケークラブの会員数が約120万人に。
9月 22日付で2008種類株515,600株を、3,074.80円/1株で発行、株主数は 2,601名増加、 資本金は 20億2193万円に。
2009年 9月 30日付で2009種類株479,800株を、3,530.20円/1株で発行、株主数は 2,287名増加、 資本金は 28億6882万円に。
2011年 3月 オーケークラブの会員数が約238万人に。
2012年 9月 電力の効率を最大に高める仕組みのBAMDSバンダス4D/COAシステムの導入が完了、外気温等の変化に対し、冷ケース内を適温に保つよう消費電力を自動的に管理、温度データは時間ごとに記録している。
2013年 6月 オーケーの海外戦略の拠点という位置づけで、当社100%出資で《OK Smart Market Pte.Ltd.》をシンガポールに設立、資本金 S$ 1,250,001。 同社100%出資子会社、《OK Information Technology Pte.Ltd.》も設立、資本金 S$ 375,001。 同様に、《OK Smart Trading Pte.Ltd.》も設立、資本金 S$ 375,001。
2014年 2月 店長の出張コストや時間のロス削減を目的として、テレビ会議システムを導入。 本社・店舗間の迅速な意思決定、社員教育の効率化等を図る。
3月 オーケークラブの会員数が約318万人に。
2015年 10月 神奈川県寒川町に3万坪の土地を取得、大型物流センターおよび生鮮PCの建設計画を公表。 新給与システムの導入を開始。
12月 中断していた『借入無しで年率30%成長の達成』に仕組みを創り直して、再び挑戦することを公表。
2016年 3月 5年計画を公表。物流センター2ヵ所建設、新店80~100店、年商6,000億円を目標に掲げる。 オーケークラブの会員数が約381万人に。
9月 横浜 みなとみらいに 本社を移転。
2017年 2月 オーケーみなとみらいビルに、初のフードコートとなる「オーケー食堂『旬』」「焼肉『和』みなとみらい店」を開店。
3月 オーケークラブの会員数が約419万人に。
4月 少子高齢化の進行を踏まえ、経営目標の成長率を20%成長に改める。
6月 『お友達宅配』を実験的に開始。
2019年 9月 寒川(神奈川)・ 流山(千葉)、11月 川口(埼玉)の3物流C.が稼働開始。
2020年 3月 オーケークラブの会員数が約544万人に。
2021年 9月 関西スーパーマーケットへのTOBを発表。

この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。

文:M&A Online編集部