【ニッコンホールディングス】M&Aで物流業界の「課題」を解決

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ニッコンホールディングス(HD)<9072>は完成車輸送では国内首位。主要顧客はホンダ<7267>で、部品運搬なども手がける。好調な自動車生産を受けて、業績は安定成長を続けている。一方でドライバー不足や燃料費の高騰など、運輸業界を取り巻く環境は厳しさを増す。同社は2017年4月に始まった中期経営計画での最重要項目として「 M&A(提携・買収)」を掲げ、抜本的な構造改革に臨む。

自動車メーカーとの強いつながり

同社は1953年に「日本梱包運搬社」として設立。1950年代の終わりには、大型車による運送や運送・保管・梱包の一貫体制の確立、東京都・埼玉県・神奈川県を区域とする一般貨物自動車運送事業の免許を取得するなど、運送業としての基礎を固めた。

1960年代に入ると三芳営業所(埼玉県入間郡三芳町)で営業倉庫の認可を受け、倉庫業に参入する。併せて子会社の設立にも着手。名古屋梱包運搬社(現・メイコン)、日本陸送、日本運輸などを相次いで設立したほか、自社の車輌整備部門を武蔵野ディーゼル興業(現・セフテック)に分社化。子会社展開で業容を拡大するとともに、社名を「日本梱包運輸倉庫」に変更した。

完成車輸送ではトップ企業(日本梱包運輸倉庫ホームページより)

1970年代に東京証券取引所市場第2部への上場を果たす。子会社では新たに自動車耐久テスト・陸送を目的としたオートテクニックと、開発車両の実走・検査・測定・データ収集・分析・解析を手がけるテクニックサービスをそれぞれ設立。物流以外のサービスに参入することで、自動車メーカーとの関係を強化する。本業での物流で東倉庫を買収するなど、本格的なM&Aにも乗り出す。

1980年代には子会社のオートテクニックジャパンを設立し、二輪・四輪・汎用製品の研究開発及び品質保証サポート業にまで踏み込む。こうした自動車ビジネスの「川上」への参入で、ホンダとの関係はより強固になっていく。同業の日本梱包運輸を買収し、M&Aによるトラック運輸での規模拡大も進んだ。

同業の買収と持ち株会社制への移行

1980年代で特筆すべきは海外進出だ。米現地法人NKPを設立したのを皮切りに、1990年代に入るとタイ現地法人のANI・NKTや中国現地法人南京日梱(現・日梱物流(中国)有限公司)、富田日梱を設立。2000年代にはフィリピン、インドネシアなどに現地法人を設立している。2010年代に入っても海外進出の勢いは衰えず、ブラジルやメキシコ、インド、マレーシアなどでも子会社を設立している。

1990年代には東京証券取引所市場第一部に指定替えを果たし、大手運輸会社の一角を占めた。それと時を同じくして、M&Aが再び本格化する。2004年にいすゞ自動車<7202>系で自動車部品包装・梱包業務を手がけるアイパックの株式35%を取得して関連会社に。2006年に三菱自動車<7211>系の自動車陸送を手がける菱自運輸を連結子会社化している。

新聞輸送大手の中越テックも買収(同社ホームページより)

2010年に新聞輸送大手の中越テックを買収。2013年に神奈川県西部地区を拠点として物流事業を手がけていた信栄倉庫を100%子会社とし、後に吸収合併する。2014年には中部を拠点とする運送会社のイトー急行を子会社化した。

子会社の増加に伴い、迅速で効率的なグループ運営をするため、2015年に持ち株会社体制へ移行。それに伴い社名をそれまでの日本梱包運輸倉庫から「ニッコンホールディングス」へ変更した。

持ち株会社体制の下、2017年に新中期経営計画「第11次中期経営計画(Challenge11)」がスタートする。同計画では「ニッコンホールディングスグループ全社の力を結集させ、無限の知恵と工夫により競争力を高め、お客様が求める高付加価値なサービスを提供するグループ経営基盤を強化し、新たなステージへ挑戦する」方針だ。最終年度の2020年3月期に「売上高 2,250億円、営業利益 200億円、営業利益率 8.88%、ROE(自己資本利益率)8.0%」の達成を目指す。

「怒涛のM&Aラッシュ」が始まるか

第11次中期経営計画(Challenge11)
  売上高
(億円)
営業利益
(億円)
営業利益率 ROE
2020年3月期目標 2,250 200 8.88% 8.0%
2018年3月期実績 1,878 190 10.12% 8.2%
成長率(営業利益率とROEはポイント差) 19.8% 5.3% -1.24% -0.2%

第11次中期経営計画は直近の2018年3月期実績と比較して、売上高で19.8%増、営業利益で5.3%増という野心的な中期計画だ。一方で営業利益率と株式投資の評価指標になるROEはマイナスとなっている。これは売上増を最優先とし、利益率や投資効率は後からついてくるベンチャー型の経営戦略といえる。

同計画でM&Aが「新規エリア進出」や「グローバルネットワーク強化」「得意事業の拡大」「事業体制の最適化」などよりも優先度が高いことからも、買収によるグループ規模の拡大を狙っていることがうかがえる。そうなれば2019年3月期、2020年3月期は「怒涛のM&Aラッシュ」になることは想像に難くない。

事実、同計画のスタート以降、2件のM&Aが決まっている。2017年9月にニッコンHDの連結子会社で中核企業の日本梱包運輸倉庫が、倉庫業などを展開する坂東産業の全株式を譲り受け、吸収合併した。吸収合併消滅会社である坂東産業は解散している。

坂東産業は東京都江東区を事業拠点とし、首都圏を中心に事業展開していた。そのため首都圏湾岸エリアに土地を所有している。その社有地をニッコングループの首都圏への輸配送拠点や国際物流拠点として活用し、事業基盤の強化と拡大を図るのが合併の狙いだった。

2018年12月には運送業を手がける松久運輸と松久総合の全株式を取得し、完全子会社化している。松久運輸は1978年に、松久総合は1990年にそれぞれ設立された岐阜県を地盤とする運送業者。ニッコンHDは両社をグループに取り込むことで、より広範囲で効率的な物流サービスの提供を目指すという。

情報システム、引越、不動産仲介の買収にも注目

第11次中期経営計画スタート後のM&Aは、本業である倉庫や運送関連の企業だった。今後も規模拡大のため、同業の買収が続くと予想される。その一方で、運輸業界はドライバー不足や燃料費の高騰リスクなどから、成長が鈍化する可能性も否定できない。

ニッコンHDは早くから物流の効率化に取り組んできた。1950年代に二段積載車両、1980年代に三段積載フルトレーラーや日本初となる車軸伸縮式トレーラー、モーダルシフトに対応したJR仕様の2段床昇降式専用コンテナなどを開発。2014年には次世代環境型新規格21mフルトレーラーの運行を始めている。

「第19回物流環境大賞 日本物流記者会賞」を受賞する
日本梱包運輸倉庫の大岡誠司社長=写真右(同社ホームページより)

こうした先進的な取り組みが評価され、2015年に日本物流団体連合会の「第16回物流環境大賞」受賞。2018年7月にも船舶によるモーダルシフトと 21mフルトレーラーによる乗継運行を組み合わせた斬新な取り組みが評価され、「第19回物流環境大賞 日本物流記者会賞」を受賞している。こうした効率化の努力もあり、逆風下の輸送業界にあっても成長を続けることができたといえよう。

とはいえ、これからのドライバー不足や燃料費高騰リスクは、物流効率化の努力だけで乗り切ることは難しいだろう。ニッコンHDもそこは十分に認識しているようで、引っ越しや情報システムなどの新分野にも注力している。

ニッコンHDは企業内情報管理部門を分離・独立し、情報システムを手がけるニッコン情報システムを2016年4月に設立。グループのシステム企画・開発を担うとともに、外販も視野に入れている。新たな引越事業会社のニッコンムービングは、2016年4月に事業を開始した。

2018年6月には不動産仲介の築地リアルエステートを設立。当面はニッコンHDグループの不動産仲介業務に当たるが、将来は外販へも展開していくという。今後はこれらの子会社を核に、それぞれの事業でM&Aを実施して新たな経営の柱を育てる可能性もある。本業の輸送・倉庫以外にも、情報システムや引越、不動産仲介での買収にも注目したい。

関連年表

ニッコンホールディングスの沿革
1953年 株式会社日本梱包運搬社として設立。
1955年 本社を現在地に移転。
1961年 株式を店頭公開。
1965年 株式額面変更のため同名の休眠会社に吸収合併
1968年 商号を日本梱包運輸倉庫株式会社に変更。
1970年 東京証券取引所2部に上場。
1997年 東京証券取引所1部に指定換え。
2014年 フルトレーラー車を導入。
2015年  持株会社に移行し「ニッコンホールディングス株式会社」に商号変更し、新たに事業会社となる「日本梱包運輸倉庫株式会社」を設立。

文:M&A Online編集部

この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。