【小僧寿し】コロナ禍で長期低迷から脱し黒字回復したM&A戦略

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持ち帰り(テイクアウト)ずしチェーンの小僧寿し<9973>に復活の兆しが見えてきた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大で外食産業は史上最悪ともいえる「氷河期」を迎えているが、同社はそれを尻目に2020年12月期に5期ぶりの黒字転換を果たしている。そこには「幸運」ともいえるM&Aの成果があった。

一時は2000店舗の巨大チェーンに

小僧寿しの創業は1964年、前身となる「スーパー寿司・鮨桝」を開業したのが始まりだ。その2年前の1962年に創業者の山木益次氏が父親からすし店の支店を任されたものの売り上げが伸びず、店を改装してすし弁当の仕出しに業態転換したが、これもうまくいかなかった。

そこでテイクアウト販売を思いつき業態転換したところ、たちまち売り切れるほどの人気店になった。「これはいける」と、4年後の1968年に同社成長のカギとなるフランチャイズ(FC)方式を導入。あっという間に出店数が増え、翌1969年には100店舗に達した。

これに手応えを感じた同社は、FCチェーンの全国展開に乗り出す。1972年2月に大阪市に、すしの製造・販売の指導をする「小僧寿し本部」を設立。その後は1977年6月に加盟店1000店舗、1981年4月には同2000店舗を達成するなど、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長した。

1991年には小僧寿しチェーンの売上高が1000億円を超える。しかし、1990年代に店舗で飲食する回転ずし業態の多店舗展開が本格的に始まると、徐々に顧客を奪われた。とりわけ、かっぱ寿司、スシロー、くら寿司、はま寿司の4大回転ずしチェーン間で繰り広げられる激しい競争の余波で業績は低迷する。

安くて美味しいテイクアウトずしで全国展開に成功した(同社ホームページより)

2006年5月にはすかいらーく<3197>TOB株式公開買い付け)により約66億円で小僧寿し株の51.62%を取得し、子会社化する。小僧寿しはすかいらーく傘下で経営の立て直しを図ることになった。

すかいらーく主導の再建は失敗

ところが経営再建は難航する。すかいらーくによる買収は、当時約322億円あった売上高を連結計上することで、自社の売上規模を拡大するのが狙い。そのため、子会社である小僧寿しの経営に深くメスを入れることができなかった。

小僧寿しを買収したすかいらーく創業者の横川竟社長(当時)が2008年8月に経営不振で解任され、M&A戦略が見直されたのも響いた。

その結果、小僧寿しの業績はさらに低迷し、すかいらーくにとっても重荷になっていく。すかいらーくは保有していた52.57%の小僧寿し株を、2012年3月に資産管理会社のイコールパートナーズ(東京都品川区)へ約9億5000万円で譲渡する。

こうして小僧寿しは、イコールパートナーズの子会社になった。同社主導の小僧寿し再建は「集中と選択」。それはM&A戦略からも見て取れる。小僧寿しが力を入れているのは、主力の「持ち帰りずし事業」と「デリバリー事業」だ。

2012年7月に持ち帰りずし「茶月」の関東地区での直営店・フランチャイズ関連事業を取得すると発表。2016年5月には、その「茶月」を運営する阪神茶月(大阪府寝屋川市)の株式67.8%を取得し、子会社化すると発表した。

一方、デリバリー事業では2013年2月には北海道や東北地方を中心にすしデリバリー事業を展開する札幌海鮮丸(札幌市)の保有株式を同社の松原淳二社長に譲渡すると発表したが、これは同社の地域性や業態の特殊性によるもの。

2018年4月にはデリバリー代行サービスのデリズ(福岡市)の全株式を株式交換により取得し、完全子会社化した。デリズは2002年設立で、専門料理店のメニューを掲載したメニューカタログの発刊やウェブサイトの運営、それに伴う店舗の運営を手がけている。

子会社のデリズはすしだけでなく、さまざまな料理を宅配する(デリズホームページより)

デリズの買収は失敗とみられていた。同社は4億円以上の債務超過状態となっており、買収から半年後には、のれん代の全額減損で7億9000万円を計上する。ところがコロナ禍でデリバリー需要が高まると、デリズの売り上げが好調に推移して小僧寿しの業績を底支えした。「災い転じて福となす」の状況になったのだ。

デリバリー会社の買収で「九死に一生」

デリバリー事業の成功が、コロナ禍で小僧寿しが生き残った理由だ。M&Aだけでなく、2018年には出前館と提携するなどデリバリーシフトを進めていた。もちろんこれは感染症対策を想定していたわけではない。顧客が来店してすしを購入するテイクアウト需要が長期的に伸び悩んでいたからだ。

小僧寿しのデリバリーシフトが、コロナ禍で外食や外出の自粛を迫られた消費者の生活パターンにピタリとはまった。小僧寿しが自社の弱点を補完するために取り組んだ事業が、偶然にもコロナ禍という特殊な環境に最適だったのだ。

とはいえ、主力のすしテイクアウト事業を切り捨てるわけにはいかない。2021年3月には食品スーパーを経営する、だいまる(宇都宮市)の全株式を取得して子会社化することを決めた。「小僧寿し」や「茶月」のテイクアウトずし店での飲料、食品などの品揃えを拡充するのが狙い。同時にデリズのデリバリー事業への商品供給も視野に入れている。

「ポストコロナ」を見すえて、需要の復活が見込める外食事業にも手を伸ばしている。2021年6月にアスラポート(東京都中央区)から居酒屋業態の「とり鉄」「とりでん」のFC事業を3億8100万円で取得すると発表した。

ポストコロナを考えれば、居酒屋業態は「買い」か?(とり鉄ホームページより)

コロナ禍が終息した後の食品・外食産業がどうなるのかは不透明だ。気兼ねなく外食ができるようになれば、デリバリーの需要が激減するかもしれない。

一方で今は最悪の状況にある居酒屋も、乱立していた店舗がコロナによる顧客離れで淘汰され、生き残った店舗がポストコロナでは大きな収益をあげる可能性もある。そう考えればコロナ禍の今は、居酒屋FCを「底値」で買収できるチャンスなのかもしれない。

小僧寿しが、コロナ後の市場について、あらゆる可能性を想定していることがうかがえる。ただ、2018年12月期にデリズの「のれん減損」で10億5700万円という巨額の債務超過に陥り、第三者を割当先とする新株予約権の発行などで約11億円を調達して2019年12月に債務超過を解消したばかり。同社としては、もう大きな失敗はできない。

問題は主力のすしテイクアウト事業だ。このままデリバリーで補完を続けるのか、あるいは外食などの新しい業態へのシフトを模索するのか。思い切ってテイクアウト事業を縮小する選択はあるのか。これからのM&Aで小僧寿しの「生き残り戦略」が明らかになるだろう。

小僧寿しの主なM&A一覧(2009年以降)

公表日 内 容
2009年2月27日 【事業売却】カラオケ・ネットカフェ事業のムーンを相鉄流通サービスへ譲渡
2012年2月14日 【被TOB】資産管理会社のイコールパートナーズ、小僧寿し本部(現・小僧寿し)をTOBで子会社化
2012年7月27日 【テイクアウト強化】持ち帰りずし「茶月」運営の春陽堂から関東の直営店・フランチャイズ関連事業を取得
2013年2月14日 【デリバリー事業売却】宅配ずし事業の札幌海鮮丸を経営陣に売却
2013年8月6日 【回転ずし事業売却】食品輸入販売の三誠食品へ回転ずし事業を譲渡
2014年4月18日 【テイクアウト強化/海外】英国の持ち帰りずし店運営のMAI TRADING COMPANYを子会社化
2016年5月26日 【テイクアウト強化】持ち帰りずしの「茶月」とレストラン運営のスパイシークリエイトを取得
2016年6月13日 【事業多角化・介護】介護福祉事業のけあらぶを子会社化、合弁事業の立ち上げ
2018年4月23日 【デリバリー事業強化】出前代行サービスのデリズを完全子会社化
2019年12月27日 【介護事業売却】「サ高住」事業子会社の介護サポートサービスを東洋商事に譲渡
2021年3月23日 【事業多角化・食品小売り】宇都宮市で食品スーパー経営のだいまるを子会社化
2021年6月14日 【事業多角化・外食】アスラポートから「とり鉄」「とりでん」のFC事業を取得

この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。

文:M&A Online編集部