【JVCケンウッド】巧みなM&Aで長期低迷からの浮上を目指す

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2008年に日本ビクターとケンウッドが統合して誕生して以来、波乱万丈の経営が続いてきたJVCケンウッド<6632>。国産オーディオビジュアル(AV)機器メーカーとして成長してきた両社だが、経営統合以降は業績が低迷。2020年3月期の売上高は約2913億円と、経営統合時の約8200億円に比べ3分の1近くまで縮小している。巻き返しのカギはM&Aだ。

日本ビクター救済のための経営統合

両社の経営統合は日本ビクターが親会社だった松下電器(現パナソニック<6752>)グループから離脱したのがきっかけだった。2008年3月期連結決算で4期連続となる約475億円の最終赤字を計上し、業績不振から抜け出せなかった日本ビクターの支援を松下が断念する。

音響機器市場の低迷で経営危機に陥ったビクター(同社ホームページより)

進退窮(きわ)まった日本ビクターに救いの手を差し伸べたのがケンウッド。2007年8月に日本ビクターが第三者割当増資を実施し、ケンウッドが200億円、国内ファンドのスパークス・グループが150億円の合計350億円を引き受けた。

その結果、日本ビクター株の保有比率は松下が52.4%から36.8%に低下して、連結子会社から持ち分法適用関連会社に。一方、第三者割当増資を引き受けたケンウッドは17.0%、スパークスは12.8%となった。

第三者割当増資で調達した資金で日本ビクターは液晶テレビの生産中止や生産拠点の統廃合、人員削減といった経営構造改革を進める。2008年10月に日本ビクターとケンウッドの株式移転により、持ち株会社のJVC・ケンウッド・ホールディングスを設立。同社の下で日本ビクターとケンウッドが経営統合した。

2011年10月に同持ち株会社が傘下の日本ビクターとケンウッド、それに両社合弁のJ&Kカーエレクトロニクスを吸収合併して事業会社となったのが現在のJVCケンウッドである。

当期赤字を受けて「選択と集中」のM&Aへ

その翌年、2012年12月に発表したM&Aは、オートモーティブ(自動車)事業の拡大を狙ったものだった。 東京特殊電線<5807>の医療用画像表示機器などを手掛ける情報機器事業(売上高57億6000万円)と、同社子会社でディスプレー製造で培った基板設計・加工技術を応用した自動車用基板加工などの製造請負(EMS)事業を展開する東特長岡(新潟県長岡市)の全株式を7億5900万円で譲り受けたのだ。

2013年9月中間連結決算で51億1300万円の当期赤字に転落したのを受けて、2014年1月には「選択と集中」のための売買が交錯する。JVCケンウッドの100%連結子会社で携帯電話販売代理業務を手掛けるケンウッド・ジオビット(売上高136億円)の全株式を、約32億円で家電量販店のノジマ<7419>へ譲渡すると発表した。

携帯電話販売事業はハード面での差別化が困難になっており、販売店舗での提案力・販売力といったソフト面での優劣が今後の市場競争を左右している。JVCケンウッドは携帯電話販売事業から撤退してコア事業への集中を一段と進め、業績の回復を急ぐことにした。

その一方で同月には、業務用無線システムの開発会社である米EF Johnson Technologies,Inc(EFJT、連結売上高51億6000万円)を約66億1000万円で完全子会社化すると発表した。この買収により、同社が手掛けていない米デジタル無線規格の「APCO-P25規格」に対応したマルチバンド端末やインフラシステムを手に入れる。同規格のデジタル無線をトータルシステムとして提供することが可能になったのだ。

ケンウッドブランドで展開する無線機事業で、EFJTグループの主要顧客である米連邦政府や州政府機関などへの販路拡大に期待した。加えて同規格の業務用デジタル無線システムはアジアや中南米の新興国への普及が予想されることから、世界規模での事業展開も狙っている。

ケンウッドブランドで生産する無線機でもM&Aを展開(同社ホームページより)

2014年5月にはJVCケンウッドの米販売子会社JVC Americas Corp.傘下でCD/DVDディスク製造・販売を手掛けるJVC America, Inc.(売上高51億5000万円)を、同業のCD/DVD/ブルーレイディスク製造・販売のカナダCinram Group Inc.に売却すると発表した。

世界的にインターネット回線が高速大容量化し、音楽や映像コンテンツのダウンロードやストリーミングが普及したことにより、CDやDVDなどのソフトパッケージ市場が縮小している流れに対応したものだ。

M&Aは自動車関連事業に注力

この頃になると、JVCケンウッドの買収戦略は自動車関連事業に絞り込まれてくる。2015年1月に欧州の主要自動車メーカー向けに車載用スピーカーやアンプ、アンテナなどの車載オーディオ関連部品を供給する伊ASK Industries S.p.A.(連結売上高216億円)の全株式を2510万ユーロ(36億7000万円=当時)で取得すると発表した。

ASKを子会社化することで自動車向けの純正部品事業を拡大するとともに、同社が持つ主要欧州車メーカーとの強固なパートナーシップや販路を獲得。それまで手薄だった欧州車メーカーに対して、JVCケンウッドのカーナビゲーションやカーオーディオ、車載用CD/DVD機器などの提案機会が増えると期待した。

翌2016年12月には非自動車関連事業売却の一環として、電子機器製造子会社のジー・プリンテック(GPI、東京都港区)の株式60%を、あおぞら銀行などが出資するAZ-Star 1号投資事業有限責任組合(東京都千代田区)に売却すると発表。併せてJVCケンウッドのカードプリンター事業(事業売上高40億8000万円)も切り出し、GPIに吸収分割した。

自動車関連事業であっても、直ちに収益に結びつきそうにない事業は売却している。2019年9月にADAS(先進運転支援)システムの開発を手がける100%子会社ZMP(東京都文京区)の全株式を譲渡した。

JVCケンウッドは2013年12月にZMPを子会社化したが、親会社が得意とするカーエレクトロニクス製品に先進運転支援技術を組み込むには時期尚早と判断し、売却を決めている。譲渡先と譲渡価格は非公開だ。

自動車関連事業の柱の一つとなっているカーナビ(同社ホームページより)

巧みな売買でM&Aによる成長を目指す

直近も非自動車関連事業を手掛ける子会社の売却があった。2021年4月1日、JVCケンウッドは通信指令・管理システム機器などの開発、生産を手がける米Zetron,Inc.の全株式を、豪通信関連サービス企業のCodan Limitedに約49億8000万円で譲渡すると発表した。

JVCケンウッドは2007年に約80億円でZetronを買収し、自社の無線端末と同社の官公庁や空港で無線回線を効率的に運用できるシステムを組み合わせてトータルシステムとして提供してきた。しかし、こうした通信システムの更新需要は浮き沈みが激しく平準化できない上に、2020年からはコロナ禍の影響で空港の設備投資が激減するなど厳しい状況が続いていたため売却に踏み切ったという。

2020年3月期のJVCケンウッドの売上構成は、オートモーティブ分野が51.4%と半分以上を占めた。悲惨な事故死を引き起こし社会問題になった「あおり運転」の多発でドライブレコーダーの出荷台数が2017年度から3年間で約1.8倍も増え、国内シェアではトップクラスに。JVCケンウッドの主力事業である自動車関連事業のM&Aは、これからも続くだろう。

販売が好調なドライブレコーダー(同社ホームページより)

一時は業績の大ブレーキとなったコロナ禍でも「追い風」があった。外出自粛に伴う「巣ごもり需要」で2020年春以降、ステレオ機器の出荷台数が2~3倍に増えたという。

JVCケンウッドの前身となるトリオは、山水電気やパイオニアと並ぶ音響機器の「御三家」だった。しかし、山水は2014年に経営破綻し、パイオニアも2015年に音響事業から撤退している。残存者利益で成長が見込めれば、音楽関連機器事業での買収も考えられそうだ。

2021年3月期第3四半期決算の営業利益は前年同期比5.3倍の約54億1000万円と急回復し、同第4四半期も好調を持続する見通しだ。業績の回復を受けて、JVCケンウッドが2022年3月期にもM&Aを積極的に仕掛ける可能性が高い。

その時々の事業ポートフォリオに合わせて、「売り」と「買い」を巧みに使い分けてきたJVCケンウッド。これから同社が何を目指し、どこへ進んで行くのかは、これからのM&A戦略を見ていけば確実に分かるだろう。

M&A年表

公表日 内 容 取引価格
2012年12月14日 東京特殊電線から医療用画像表示機器などの液晶ディスプレー事業を譲受 7億5900万円
2014年1月31日 業務用無線システム開発を手掛ける米EF Johnson Technologies,Incを子会社化 66億1300万円
2014年1月31日 携帯電話販売事業子会社ケンウッド・ジオビットの全株式をノジマへ売却 32億円
2014年5月14日 連結子会社のCD/DVDディスクを手掛けるJVC America, Inc.をカナダCinram Group Inc.へ売却 非公表
2015年1月30日 イタリアのカーエレクトロニクス関連製品の製造・販売を手掛けるASK Industries S.p.A.を子会社化 36億7800万円
2016年12月22日 電子機器製造のジー・プリンテックを、あおぞら銀行などが出資するAZ-Star 1号投資事業有限責任組合(東京都千代田区)へ売却 非公表
2019年9月6日 先進運転支援システム開発子会社のZMPを売却。売却先は非公開 非公表
2021年4月1日 通信指令・管理システム開発の米子会社Zetronを、豪Codanへ売却 49億8100万円

この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。

文:M&A Online編集部