【イチネン】コロナ禍の中、着実に進むM&A戦略

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自動車リースはイチネンホールディングスの主力事業(写真はイメージです)

イチネンホールディングス<9619>が、コロナ禍をものともせず、着実にM&A戦略を実行している。

同社は2021年10月1日にガラス加工製品メーカーの新光硝子工業(富山県砺波市)の全株式を取得し、子会社化した。イチネンが持つケミカル事業や機械工具販売事業、合成樹脂事業での製造ノウハウと、新光硝子の技術を融合し、新たな事業分野に進出するのが狙いだ。

この5年間のM&Aを見ると、2017年に機械、工具販売のゴンドー(福岡県久留米市)を子会社化したのに続き、2018年には自動梱包機製造の昌弘機工(大阪府四条畷市)と、自動車部品製造のトヨシマ(大阪府池田市)を子会社化した。

2019年には自動車部品付属品販売のアクセス(大阪市)の事業を、2020年には遊技機器部品製造の浅間製作所(名古屋市)の事業をそれぞれ取得し、今回の新光硝子工業の子会社化につなげた。

企業成長の中心にM&A

同社は1930年に大阪市内で石炭販売業を営む黒田重太郎商店を創業したのが始まりで、1969年に自動車リース業、自動車整備業、損害保険代理業を開始し、1980年に自動車メンテナンス受託業を始めた。

2000年に自動車リース事業の規模拡大を目的に、野村オートリースとアルファオートリースグル-プに取り込んだのを皮切りに、次々とM&Aを実施し事業領域と事業規模を拡大してきた。

現在は「自動車リース関連事業」を中心に「ケミカル事業」「パーキング事業」「機械工具販売事業」「合成樹脂事業」の5事業を展開しており、事業規模の拡大などを目的にM&Aを積極的に行っている。

コロナ禍の中でも、この方針に変更はなく、今後も企業成長の中心にM&Aを据えていくものと見られる。

イチネンホールディングスの沿革と主なM&A
1930 大阪市内で黒田重太郎商店(石炭販売業)を創業
1963 黒田商事(現イチネンホールディングス)を設立
1969 社名をイチネン(現イチネンホールディングス)に変更
1969 自動車リース業、自動車整備業、損害保険代理業を開始
1980 自動車メンテナンス受託業を開始
1994 大阪証券取引所市場第二部に上場
2000 自動車リース事業の規模拡大を目的に野村オートリースをグル-プ会社化
2000 自動車リース事業の規模拡大を目的にアルファオートリースをグループ会社化
2001 セレクトをグループ会社化
2002 パーキング事業を開始
2003 東京証券取引所市場第二部に上場
2005 大阪証券取引所市場第一部に上場
2005 東京証券取引所市場第一部に上場
2005 IKLをグループ会社化
2006 ケミカル事業の拡大を目的にタイホー工業をグループ会社化
2010 イチネンとユアサオートリースがイチネンを存続会社として合併
2010 ITLの全株式を取得し、グループ会社化
2010 イチネンとITLがイチネンを存続会社として合併
2011 イチネンパーキングとリアルドパーキングがイチネンパーキングを存続会社として合併
2012 前田機工の全株式を取得し、グループ会社化。機械工具販売事業に参入
2012 ジコーの全株式を取得し、グループ会社化。合成樹脂事業に参入。
2013 タスコジャパンの全株式を取得し、グループ会社化。空調工具、計測機器卸売業に参入
2014 機械工具販売事業強化のため、ミツトモ製作所の全株式を取得し、グループ会社化
2015 機械工具販売事業強化のため、共栄の全株式を取得し、グループ会社化
2015 自動車総合サービス事業強化のため、東電リースの全株式を取得し、グループ会社化
2016 イチネン農園、イチネン高知日高村農園を設立し、農業に参入
2016 野村オートリースとアルファオートリースが野村オートリースを存続会社として合併
2017 機械工具販売事業強化のため、ゴンドーの全株式を取得し、グループ会社化
2017 イチネン前田と共栄がイチネン前田を存続会社として合併
2018 昌弘機工の全株式を取得し、グループ会社化
2018 トヨシマの全株式を取得し、グループ会社化
2019 イチネンとイチネンBPプラネットがイチネンを存続会社として合併
2019 アクセスの事業を取得し、グループ会社化
2020 浅間製作所の事業を取得し、グループ会社化
2021 新光硝子工業の全株式を取得し、グループ会社化

農業を将来の事業の柱に

直近のM&Aを見てみると、2020年に浅間製作所から譲り受けた遊技機器用部品の製造、販売事業は、浅間製作所が持つ遊技機メーカーとの多様な取引関係や高度な品質管理のノウハウを活用することで、合成樹脂事業の規模拡大と競争力強化が実現でき、遊技機部品の製造を手がける子会社のイチネンジコー(東京都港区)との相乗効果が見込めるという。

また2019年にアクセスから取得した自動車部品付属品卸売事業は、イチネンが展開する機械工具販売事業との親和性が高く、仕入、販売の両面で高い相乗効果が見込めるという。

さらに2018年に傘下に収めた、フォークリフト用フォークや自動車部品の製造を手がけるトヨシマとは、イチネンの機械工具販売事業との相乗効果が見込まれるほか、トヨシマのフォークアーム製造事業はニッチ市場で市場占有率が高く、将来の収益拡大につながるという。いずれの案件もグループ内での相乗効果が見込めるものばかりで、M&Aの戦略は明確だ。

同社は将来の事業の柱として農業にスポットを当てている。2016年にイチネン農園(大阪市)とイチネン高知日高村農園(高知県日高村)を設立し、農業事業に参入した。

農畜産物の生産をはじめ、農畜産物を原材料とする食料品の製造や農業生産に必要な資材の製造などを事業目標に掲げており、農業を通じて雇用を促進させ、地域コミュニティーと連携し、地域の活性化を目指すという。

この方針に沿って、両農園ともミニトマト「アイコ」の生産に力を入れているが、2021年3月期はイチネン農園の当期損失は1979万円、イチネン高知日高村農園の当期損失は1億2954万円に達しており、利益の出る状況には至っていない。

事業の拡大、採算性の向上などの面で、今後は農業の分野でのM&Aの可能性もありそうだ。

2022年3月期も増収見込み

イチネンの業績はM&A戦略同様、コロナ禍の影響は見当たらない。同社の2021年3月期は売上高が前年度比14.1%増の1126億1800万円となり、2期連続で2ケタ増収を達成し、1000億円の大台に乗せた。

利益も営業利益が同9.3%増の75億1600万円、経常利益が同8.1%増の75億1300万円で、こちらも2期連続で2ケタに迫る増益を実現した。

当期利益は同31.9%減の30億1500万円に留まったが、これは自動車リース関連事業で基幹システムの開発中止などに伴い、固定資産除売却損を24億8300万円計上した結果で、本業そのものの影響は小さい。

2022年3月期については伸び悩むものの、売上高は同3.9%増の1170億円と増収基調を維持する。利益は営業、経常ともに70億円で、同7%弱の減益予想。当期利益は前年度の固定資産除売却損がなくなるため、同46.9%増の44億3000万円と大幅な増益に転じる見込みだ。

10月1日に子会社化した新光硝子工業の2021年3月期は売上高9億2580万円、営業利益1278万円、経常利益6121万円、当期利益3626万円だった。2022年3月期の業績見込みは明らかにしていないが、イチネンの2022年3月期にプラスされることになる。

同社では業績に与える影響は軽微としているが、新たな事業分野への進出を、新光硝子工業子会社化の狙いにしており、この進捗によっても影響度は変わってくる。

数多くのM&Aをこなしてきた同社の業績は、M&A抜きには語ることはできない。

【イチネンホールディングスの業績推移】単位:億円、2022年3月期は予想

2019年3月期 2020年3月期 2021年3月期 2022年3月期
売上高 877.73 987.15 1126.18 1170
営業利益 62.72 68.77 75.16 70
経常利益 63.46 69.48 75.13 70
当期利益 51.27 44.26 30.15 44.3

文:M&A Online編集部