【ヒノキヤグループ】M&Aの「魔術」で下請け工務店が一部上場

alt
同社ニュースリリースより

2018年4月、桧家ホールディングスが「ヒノキヤグループ」<1413>に社名変更した。これに先立つ同年3月、同社は東証一部に上場している。創業からわずか30年で押しも押されもせぬ注文住宅会社となったヒノキヤグループ。急成長の原動力となったのはM&Aだった。

M&Aをテコに「最高品質と最低価格」を実現

創業当時からの経営理念は「最高品質と最低価格で社会に貢献」。これは大手住宅会社の下請け工務店を経営してきた創業者の黒須新治郎会長が「自らが元請けになれば、大手住宅会社と変わらない品質で 2割から3割安く住宅を提供できる」と考えたのがきっかけという。

しかし、自社だけの展開では限界がある。営業地域を拡大し、建材調達コストを引き下げるには、自社の成長とM&Aの二つの方法がある。スピードを重視するなら後者のM&Aだ。ヒノキヤグループは創業から8年後の1996年に東栄ハウジングを買収したのを皮切りに、同業者を次々と買収して事業を拡大した(年表参照)。

2009年5月からはFC(フランチャイズ・チェーン)事業をスタート。FCとして参加した工務店がヒノキヤグループの経営理念に共感して合流するケースもある。2018年4月6日に全株式を取得して完全子会社化する、注文住宅の請負や建売分譲住宅の販売などを手がけるハウジーホームズ(静岡市)も、その一例だ。

ヒノキヤグループではM&Aを成長戦略と位置づけ、積極的に事業領域を拡大してきた。ハウジーホームズを取り込むことにより、東海地区で注文住宅事業を本格展開する際に、同社と施工ネットワークや不動産情報を共有して事業拡大を加速できると判断した。M&Aにより、注文住宅建築でヒノキヤグループが「最高品質と最低価格で社会に貢献」するエリアは着実に広がっている。

全館空調を従来の半額に

低価格の考え方は住宅本体の建設に留まらない。例えば2016年12月に発売した全館空調システム「Z空調」。全館空調は個別空調では温度差が生じる廊下、玄関、トイレなども含めた家屋全体を一定の温度に保つ。

家屋内の温度差で体調不良を引き起こすヒートショックや、冷え性、睡眠障害などの防止に役立ち、とりわけ高齢者向けの住宅設備として注目されている。大手住宅メーカーではすでに提供されているが、施工コストや電気代などのランニングコストがネックになって、あまり普及していない。

そこでヒノキヤグループは従来は200万円以上かかっていた全館空調を、約半額の111万円(税込)で提供する「Z空調」を開発した。低価格の秘密はエアコンの設置台数を最低限に抑えたことにある。2階建て45坪程度までの住宅であれば、天井ビルトイン式エアコンを各階に1台、合計2台を設置するだけで済む。

高気密・高断熱施工と24時間換気によって、少ないエアコン台数で全館空調が可能になった。エアコンの台数が少ないため、施工コストと同時に電気代も抑えることができる。電気代は部屋ごとの個別空調の場合は1日9時間稼働して月平均5813円程度なのに対し、Z空調は全館1日24時間稼働でも同5185円と安い。

「Z空調」を実現できたのは、1台のエアコンでカタログ性能の2~3倍の広さまで冷暖房を行き渡らせることが可能なほど断熱性の高い「アクアフォーム」があればこそ。アクアフォームは現場発泡硬質ウレタンでは国内シェアトップの建材という。

断熱性能が高いのはもちろんだが、現場で発泡させることにより家屋の形状にぴったりと密着するため、気密性の高い施工ができる。断熱性と機密性のダブル効果で最小台数のエアコンによる24時間全館空調を実現したのである。

Z空調の仕組み
低価格の全館空調システム「Z空調」(同社ホームページより)

M&Aで実現した「Z空調」

実はこのアクアフォームを生産している日本アクア<1429>も、ヒノキヤグループが2009年2月に買収した企業だ。日本アクアとのM&Aがあればこそ、「Z空調」という優れた差別化ツールが誕生したと言えるだろう。とはいえ、日本アクアはヒノキヤグループのみならず、広く全国の住宅メーカーや工務店にアクアフォームを供給している建材メーカーだ。日本アクアに対するヒノキヤグループの出資比率は54.99%だが、同グループへの販売比率は全売上高の6%程度に止まっている。

アクアフォームをグループの壁を越えて拡販するには、独立性の担保が必要だ。そこで日本アクアは2013年12月に東証マザーズに上場、2018年3月にはヒノキヤグループと同時に東京証券取引所第1部での親子上場を果たした。ヒノキヤグループによる、このあたりの「手綱さばき」も絶妙といえる。

2018年1月には桧家住宅、桧家住宅北関東、桧家住宅東京、桧家住宅上信越、桧家住宅東北の連結子会社5社を合併した。桧家住宅東京を存続会社として他の4社を吸収合併し、社名を「桧家住宅」に変更した。合併した5社は、いずれもグループの主力である木造注文住宅事業をそれぞれの地域で展開していた。ヒノキヤグループでは基幹事業を統合。これにより営業政策の統一や経営資源の集約・再配置などで事業効率を向上し、「最高品質と最低価格で社会に貢献」を実現する。

さらにはリフォーム事業にも切り込む。2018年3月に、子会社の桧家リフォーミングが定額リフォーム商品「LDKリフォーム」を発売したのだ。8畳のダイニングキッチン工事なら80万円、14畳でキッチンの位置を変えない工事では100万円、20畳でキッチンを対面型に変更すると120万円など、床面積ごとにパッケージ化しているのが特徴だ。共に競争が激しい住宅設備交換事業者と全面リフォーム事業者の中間に当たるニッチ市場を狙うことで、不毛な価格競争に陥らない適正価格でのリフォーム事業を展開するのが狙いだ。

定額制リフォームのショールーム
定額制リフォームでニッチ市場を狙う(桧家リフォーミングのホームページより)

ハードと運営の相乗効果で「住宅冬の時代」に立ち向かう

ヒノキヤグループには、もっと大きな夢がある。建築というハードとオペレーション(施設運営)というソフトの両面を担うことにより、競争力のある提案で相乗効果を創出する「ワンストップソリューションカンパニー」の実現だ。そのため介護・保育事業にも新たに参入した。2016年4月に初開設した超軽費シニアホーム「桧家リビング久喜」(埼玉県久喜市)がそれ。施設の特長は経営理念の「最高品質と最低価格で社会に貢献」に則った月額8万7000円からという、特別養護老人ホーム(特養)並みの圧倒的な低料金だ。

桧家リビング久喜
超軽費シニアホーム第1号の「桧家リビング久喜」(同社ニュースリリースより)

「特養はどの地域でも入居の順番待ちがあり、希望してもなかなか入居できないのが現状だ。国もコストのかかる特養は作らずに、民間の有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅、在宅での介護を推進している」(近藤昭ヒノキヤグループ社長)ことから、介護事業に大きなビジネスチャンスを見い出した。同社は当面、久喜市周辺の半径5キロ内に五つの桧家リビングを展開する計画で、低コストの介護事業を展開していく。

桧家ホームで提供する介護事業もまたM&Aで実現した。2013年10月に32.5%の資本参加をしたリビングケア(横浜市西区)が神奈川県を中心に運営している、低料金のサービス付き高齢者住宅「唯の家」と「唯の郷」が事業モデル。ヒノキヤグループが目を着けたのは、リビングケアの運営する施設。いずれも木造2階建てで、部屋数は10~15室程度と規模が小さい。

わざわざ木造にしているのは建築費を低く抑えて入居者の経済的負担を抑えるため。きめ細やかな介護サービスを提供するためのスタッフの人数や動線を考えると、「2階建て10~15室」の規模が最適というのがリビングケアの持つノウハウから分かった。この規模の木造施設はヒノキヤグループが最も得意とするところ。ヒノキヤグループのハードと、リビングケアのオペレーションを組み合わせれば、大きな相乗効果を期待できると同社への出資を決めた。

少子高齢化や人口減少、平均所得の低迷など、住宅産業を取り巻く環境は劇的に変化している。そのような環境の中でも「常にお客様目線で物事を考え、経営理念に沿った事業を行い、多様化するお客様のニーズにしっかりと対応できる体制をつくる」と、近藤社長はワンストップソリューションカンパニーに向けた意気込みを語る。住宅メーカーの枠組みを超えたヒノキヤグループの今後の事業展開とM&Aに注目したい。

ヒノキヤグループの業績

(同社ホームページより)

関連年表

ヒノキヤグループのM&Aと主な沿革
出 来 事 形 態
1988 10月 前身となる東日本ニューハウスを設立 設立
1996 9月 東栄ハウジングの全株式を取得 買収
2000 5月 東栄ハウジングをユートピアホームへ商号変更  
2002 7月 桧家ハウステックを設立 設立
  12月 ユートピアホームを桧家住宅東関東へ商号変更  
2003 1月 東日本ニューハウスを桧家住宅へ商号変更  
  1月 会社分割によりユートピアホームを設立 会社分割
  2月 桧家住宅東関東を桧家住宅つくば(現・桧家住宅北関東)へ商号変更  
2004 1月 会社分割により桧家住宅ちば(現・桧家住宅東京)を設立 会社分割
2006 7月 桧家ハウステックを桧家住宅さいたまへ商号変更  
2007 11月 名古屋証券取引所市場第2部に上場 上場
2008 1月 桧家住宅さいたまを桧家住宅リフォーミングへ商号変更  
  2月 会社分割により桧家住宅とちぎ(現・桧家住宅北関東)を設立 会社分割
  2月 石塚建設工業(現・桧家不動産)及び住宅建設(同)の全株式を取得 買収
  4月 ユートピアホームを吸収合併 合併
  10月 久喜駅前の大規模商業ビル「サリア」を取得  
2009 2月 日本アクアの株式を取得 買収
  5月 FC(フランチャイズ・チェーン)事業を開始  
  7月 ランデックス(現・桧家不動産)の株式を取得 買収
  8月 本社事務所を埼玉県久喜市に移転  
  11月 クッキープラザ(久喜駅桧家ビル)オープン  
  11月 住宅リフォーミングを桧家リフォーミングへ商号変更  
  11月 桧家住宅不動産を桧家不動産へ商号変更  
2010 3月 本社を埼玉県久喜市に移転  
2011 2月 桧家住宅さいたまを設立 設立
  7月 会社分割により注文住宅事業を桧家住宅さいたま(現・桧家住宅)に承継し、商号を桧家ホールディングスに変更。持株会社制へ移行 会社分割
  8月 桧家住宅上信越を設立 設立
  11月 池田住販(現・桧家不動産)の株式を取得 買収
  12月 三栄ハウス(現・桧家住宅東京)の株式を取得 買収
  12月 桧家住宅建設を桧家不動産東京へ、桧家不動産を桧家不動産埼玉へ、それぞれ商号変更  
2012 7月 桧家住宅東北が営業開始  
2013 1月 不動産部門3社経営統合 経営統合
  10月 リビングケアの株式を取得(32.5%) 買収
  12月 日本アクアが東証マザーズに上場 上場
2014 1月 ライフサポートの株式を取得(52.6%)し、連結子会社化 買収
  2月 北都ハウス工業(現・パパまるハウス)の全株式を取得 買収
  5月 本社を東京都千代田区に移転  
  11月 フュージョン資産マネジメントを設立 設立
2015 1月 桧家住宅東関東が桧家住宅北関東を吸収合併し、商号を桧家住宅北関東に変更 合併
  1月 桧家住宅南関東が桧家住宅三栄を吸収合併し、商号を桧家住宅東京に変更 合併
  1月 桧家不動産が桧家ランデックスを吸収合併 合併
  1月 北都ハウス工業が商号をパパまるハウスに変更  
  9月 Hinokiya Vietnam Co., Ltd.を設立 設立
2016 1月 不動産流通システムの株式を取得(33.9%) 買収
  3月 レスコハウスの全株式を取得 買収
2017 3月 東京証券取引所市場第2部に上場 上場
  4月 PURE SOLUTIONS(孫会社)の全株式を取得 買収
2018 1月 桧家ブランドを展開する5社を合併し、商号を桧家住宅とする 合併
  3月 桧家ホールディングスおよび日本アクアが東京証券取引所市場第1部に上場 上場
  4月 桧家ホールディングスをヒノキヤグループに商号変更  
  4月 ハウジーホームズの全株式を取得 買収

文:M&A Online編集部

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、または各種報道などをもとに、専門家の見解によってまとめたものです。