【ギグワークス】5年ぶりのM&A 仮想空間での店舗運営に注力

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トライアルのオンライン物産展(同社ニュースリリースより)

単発や短期などの多様な働き方を希望する人と、企業の求人需要とを、インターネットを活用して結び付ける事業を手がけるギグワークス<2375>が、5年ぶりにM&Aに踏み切る。

2022年7月1日に、通販事業を展開する悠遊生活(横浜市)の全株式を取得し子会社化するととともに、悠遊生活を通じてアウトソーシング大手のトランスコスモス<9715>が通販事業を会社分割して設立する新会社・日本直販(大阪市)の全株式を取得し子会社化する。

同社(1977年設立)は、株式を公開した翌年の2004年以降、主なものだけでも20件近いM&Aを実施し、営業代行や販売支援、IT機器の導入、設置、交換、保守支援、システム・エンジニアリング開発受託などの分野に人材を斡旋する形で業容を拡大してきた。この間の仕事斡旋総件数は700万件を超える。

これに今回のM&Aによって、新たに通販事業が加わることになる。小売業である通販事業と、働き手と企業を結び付ける人材斡旋事業には一見、相乗効果が見込めなさそうだが、そこには当然ながらしっかりとした狙いがある。ギグワークスは何を目指しているのか。

購入商品の設置や組み立てサービスを提供

子会社化する悠遊生活は、健康、美容用品、生活雑貨、レジャー、趣味用品、浄水器、カメラ、望遠鏡、時計、電子製品、ファッション、食品などを幅広く取り扱っており、その品目はおよそ2000に達する。

悠遊生活は2022年1月に、通販事業のイメンス(横浜市)から分社して設立された企業で、2022年3月期(3カ月決算)は、売上高2億2500万円、営業利益640万円だった。

一方、日本直販は1976年にスタートした老舗の通販ブランドで、店舗では販売していない斬新な商品を、テレビを通じて販売することで知名度が高まった。

運営元の総通が2012年に経営破綻したのに伴い、トランスコスモスが日本直販事業を取得。2022年3月期の売上高は49億9000万円、営業損益は1億3600万円の赤字だった。

両社の子会社化後は、カタログや広告宣伝、仕入れの共通化などによるコスト削減に取り組むとともに、500万人を超える両社の顧客に向けて、購入商品の設置や組み立て、利用方法の説明などの、ギグワークスが得意とするサービスを提供する。また、両社の顧客であるシニア世代に働く場を提供するといった取り組みも予定しているという。だが狙いはこれだけではない。

アバターが仮想空間でショッピング

ギグワークスは2022年2月14日に、子会社のギグワークスアドバリュー(東京都港区)を通じて、顧客とコミュニケーションをとることができる体験型オンライン店舗の運営を始めた。

コロナ禍の中、外出制限によりEC(電子商取引)サイトでの買物需要は増えているが、実店舗で培った顧客との信頼関係を保つことが難しくなっているほか、顧客も販売員との会話やアドバイスなどを楽しむことができず、購入意欲が削がれているという。

そこで、打ち出したのが体験型オンライン店舗。従来のECサイトでは、商品を見ることしかできなかったが、同店舗では、実店舗のように見るだけではなく、説明を聞き、販売員と会話をしたうで商品の購入を決めることができる。

2021年12月には、オンライン上の仮想空間に四つの店舗を開設し、来場者が自分のアバター(自分の分身)を動かして、気になる商品を見たり、その場にいるスタッフの顔を見ながら会話ができる仕組みのトライアルを行った。

同社によるとスタッフの顔を見て話しができることで購買意欲が高まり、来場者のうち約30%の人が商品を購入したという。

来場者へのアンケートでも「顔を見ながら購入でき安心感があった」「スタッフと話ができて、いろいろ質問もできたのでおもしろかった」などの意見があり、同社ではこうした評価を踏まえたうえで、さらに改善を加え、通販事業者と連携を深めていく計画だ。

今回のギグワークスによる通販会社の買収は、この体験型オンライン店舗の事業拡大に大きな影響を及ぼしそうだ。同社では買収の狙いに体験型オンライン店舗との連携については触れていないが、まずはグループ会社でこのオンライン店舗で成果を残すことが、他の通販会社への格好のPR材料になるのは間違いない。株式を取得する7月以降の動きに注目が集まりそうだ。

ギグワークスの沿革と主なM&A
1977 ザポイントスタジオ(現ギグワークス)を設立
1996 スリープロ事業部設立
1999 スリープロに社名を変更
2003 東証マザーズに上場
2004 コアグルーヴを子会社化
2004 JPSSを子会社化
2005 シーエステクノロジーを子会社化
2006 会社分割により持株会社化し、スリープログループに社名を変更
2006 ホーム・コンピューティング・ネットワークを子会社化
2006 ナレッジ・フィールド・サービスを完全子会社化
2008 メリトを子会社化
2008 コラソンを子会社化
2009 スリープロが、キャリアインパルスの株式取得(孫会社化)
2009 ウィザードを完全子会社化
2009 日本アシストを完全子会社化
2010 アシスタンストラベルジャパンを完全子会社化
2010 アビバを子会社化
2011 アビバを売却
2015 東証第二部へ市場変更
2015 WELLCOM ISを完全子会社化
2015 アセットデザインを完全子会社化
2016 JBMクリエイトを完全子会社化
2016 ヒューマンウェアを完全子会社化
2017 オー・エイ・エスを完全子会社化
2019 ギグワークスに社名を変更
2022 通販事業の悠遊生活を子会社化(7月の予定)
2022 悠遊生活が通販会社の日本通販を子会社化(7月の予定)

2022年10月期は上振れも

ギグワークスはITに精通した働き手と企業を結び付けるオンデマンドエコノミー事業と、子会社のアセットデザインを中心に展開しているシェアリングエコノミー事業を展開している。

オンデマンドエコノミー事業では、働き手と、仕事を発注する企業の間で、仕事の受発注を直接、成立させることができるプラットフォームサービス「GiGWorks Basic」を運用しており、働き手はこれを利用することによって、ライフスタイルや人生のステージに合わせて、時短勤務やショートタイムでの副業、フリーランスやテレワークなどが可能になる。

シェアリングエコノミー事業は、主に起業家や個人事業主を対象に、シェアオフィスを提供している。首都圏を中心に84拠点(2021年10月末)を展開しており、提携先の施設を含めると740拠点以上あり、利用会員数は6300会員(同)、一時利用会員は1300会員(同)に達している。

両事業ともに規模が拡大したため、2021年10月期決算では前年同期比7.1%の増収となったものの、シェアリング事業で新規会員数の伸びが当初予想よりも鈍化したほか、解約会員が想定を上回ったため、営業利益は同9.8%減、経常利益は同6.7%減、当期利益は同33.9%減と、増収減益となった。

2022年10月期は、ワークスタイル変革や、新型コロナウイルス感染症対策に伴うテレワークへの取り組み、デリバリー需要の拡大などを背景に、コールセンターやシステム受託開発が好調に推移するとともに、シェアリングエコノミー事業でも、在宅勤務やテレワーク勤務の普及に伴い、会員数の増加ペースが回復する見込みという。

このため同期は売上高240億円(前年度比13.4%増)、営業利益10億円(同10.6%増)、経常利益10億円(同6.6%増)、当期利益6億円(同38.1%増)の増収増益見通しだ。

7月以降はこの見通しに通販事業の売り上げが加わり、体験型オンライン店舗の進展も相まって業績の上振れが予想される。ギグワークスの2022年10月期は、どのあたりに着地することになるのだろうか。

文:M&A Online編集部