【フマキラー】コロナ禍の中、好業績を背景に9年ぶりのM&A

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フマキラーの殺虫剤は蚊などの害虫から人々を守る(写真はイメージです)

殺虫剤3位のフマキラー<4998>が、およそ9年ぶりにM&Aに乗り出した。同社はスイスの農薬・種苗大手シンジェンタの日本法人であるシンジェンタジャパン(東京都中央区)からフラワー事業(種子、挿し穂など)を取得すると2021年2月1日に発表した。

種苗代理店や花卉生産者、ホームセンター、公園事業者などに対し、フマキラーのガーデニング製品と一緒に、種子などの取り扱いを提案することで事業を拡大するのが狙いで、数カ月以内にフラワー事業の取得を完了するという。

新型コロナウイルス感染症拡大による在宅勤務や外出の自粛要請などにより主力製品である殺虫剤の売り上げが大きく伸びているほか、感染症対策として需要が急増しているアルコール除菌剤の増産に踏み切ったことなどから同社の業績は好調に推移している。

この勢いに乗って、さらなるM&Aや増産などの可能性もありそうだ。

100年の歴史を持つ殺虫剤

フマキラーは1874年(明治7年)に薬種商として創業したのが始まり。現在の主力事業である殺虫剤部門は1920年に開発、発売した「強力フマキラー」が第一弾で、100年の歴史がある。

1963年に開発した電気式蚊取り器「ベープ」は60年近く経った現在でも販売されており、コロナ禍で需要が急増している「アルコール除菌スプレー」も誕生から25年ほどが経つ長寿商品だ。

同社は1973年にイタリアに「フマキラーイタリア」を設立したあと、マレーシアやインドネシア、インド、メキシコ、ミャンマーなどに進出し、海外市場の開拓に注力した。その結果、2020年3月期時点での海外の売上高構成比は45%に達している。

この間、殺虫剤のほかにアルコール除菌などの家庭用品、除草剤や肥料などの園芸用品、害虫駆除器などの業務用品に事業領域を拡大していった。

同社の大下一明社長は「オンリーワンの価値を持つフマキラーブランドの創造に全力を挙げる」と、さらなる新分野、新市場の開拓に意欲を見せる。

フマキラーの沿革
1874 創業(薬種商)
1890 屋号を「大下回春堂」(薬種商)と命名
1920 殺虫剤「強力フマキラー」を販売
1962 「フマキラー」に社名を変更
1963 電気式蚊取り器「ベープ」を開発
1964 東京証券取引所市場第二部に上場
1973 イタリアに「フマキラーイタリア」を設立
1976 マレーシアに「フマキラーマレーシア」を設立
1990 インドネシアに「フマキラーインドネシア」を設立
1996 キッチン用「アルコール除菌スプレー」を発売
1996 インドに「フマキラーインディア」を設立
2007 メキシコに「フマキラーアメリカ」を設立
2012 「テクノピア」「テクノピア・ジャカルタ」を子会社化
2019 ミャンマーに「フマキラーミャンマー」を設立
2021 シンジェンタジャパンからフラワー事業を取得

協力体制構築で成長

フマキラーは、9年ぶりのM&Aとなったシンジェンタジャパンからのフラワー事業の譲受について、シンジェンタとフマキラーの協力体制が整うことで、同事業の継続的な成長が可能になったとしている。

シンジェンタジャパンのフラワー事業に在籍している従業員はフマキラーに転籍する予定で、事業譲受後はシンジェンタフラワー製品のほとんどを日本市場で独占的に取り扱う。

M&Aの相手方であるシンジェンタは、スイスに本社を置くアグリビジネス企業で、世界の90カ国で2万8000人の社員が活動している。日本法人のシンジェンタジャパンはフラワー事業のほか、アグリビジネス事業、野菜種子事業、プロフェッショナルソリューション事業(ゴルフ場用農薬など)を日本で展開している。

両社の間にはどのような協力が生まれるだろうか。

フマキラー自体がM&Aの対象に

このM&Aの9年前の2012年に取り組んだのが、アセアン市場で殺虫剤製造販売事業を手がけるマレーシアのテクノピアと、インドネシアで殺虫剤製造販売事業を手がけるテクノピア・ジャカルタの2社の子会社化。

アセアン市場での事業基盤を強化し、成長を加速させるのが狙いで、子会社化のあとテクノピアをフマキラーアジアに、テクノピア・ジャカルタをフマキラーノモスにそれぞれ社名を変更するとともに、株式の保有割合をそれまでの70%から100%に引き上げ、完全子会社化した。

また、この企業買収以前にはフマキラー自体がM&Aの対象となったことがあった。殺虫剤首位のアース製薬<4985>がフマキラーとの経営統合を狙いに、2007年ごろからフマキラー株を買い増していた。

大量保有報告書によるとアース製薬は2009年にフマキラー株の11.11%を保有しており、その後2011年に0.63%分を手放し保有割合を10.48%としたあと、経営統合を断念し同年に家庭用芳香剤などを手がけるエステー<4951>に全保有株を売却した。

エステーは2010年にフマキラー株の15.1%を保有し、2011年に保有したアース製薬分と合わせ、保有割合を25.58%に高めた。その後2014年に15.1%を手放し、保有割合を10.48%に引き下げた。現在も保有割合は変わっておらず、フマキラーの筆頭株主の座を維持している。

上方修正の可能性も

フマキラーの2021年3月期は大幅な増益見通しだ。同社が2020年11月に発表した2021年3月期第2四半期決算によると、新型コロナウイルスの影響で国内の殺虫剤部門の売り上げが前年同期比14.7%の大幅な増収となった。

さらにアルコール除菌剤の伸長により家庭用品部門も売上高が同4.5倍に急増したほか、海外でも新型コロナウイルス感染症の影響はさほど大きくなかったため、同4.9%の増収となった。

こうした状況を反映し、2021年3月期第2四半期は、営業利益が前年度比6.5倍の23億6600万円、経常利益が5.8倍の24億78000万円、当期利益は16億2000万円(前年同期は2億4900万円の赤字)と大幅な増益を達成した。

同社はそれまで未定としていた2021年3月期の業績予想を2020年8月に公表した。それによると売上高は前年度比横ばいの445億円、営業利益は同23.2%増の22億円、経常利益は同23.7%増の25億円、当期利益は同68.8%増の13億円の見込みだ。

前年度との比較ではまずまずの数字となるが、2021年3月期第2四半期決算との比較では、営業利益と当期利益が第2四半期の実績を下回ることなる。これは第3四半期、第4四半期は赤字に転落することを意味する。

現在のところ大きな減益要因が見当たらないため、2021年2月12日に発表予定の第3四半期決算で、これら数字が上方修正される可能性がありそうだ。

どのような数字が出てくるのか。株価はもちろんM&A戦略や設備投資計画にもかかわってくるだけに、投資家の関心を集めそうだ。

【フマキラーの業績推移】単位:億円、2021年3月期は予想

2018年3月期 2019年3月期 2020年3月期 2021年3月期
売上高 477.4 412.43 444.85 445
営業利益 25.27 11.36 17.85 22
経常利益 26.88 13.32 20.21 25
当期利益 17.35 6.93 7.7 13

文:M&A Online編集部