【駅探】M&Aで事業領域を拡大

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写真はイメージです

列車の発着時間などを検索できる「乗換案内」を運営する駅探<3646>が、M&Aで事業領域を拡げている。

同社は2021年4月にスマートフォン向けインフィード広告(SNSやニュースサイトでコンテンツ中に表示される広告)を手がけるサークア(東京都千代田区)を子会社化したのに続き、2022年11月にはインターネット広告代理事業のプラウドエンジン(東京都新宿区)を子会社化する。いずれも広告配信事業の拡充が狙いで、2024年3月期に向けてさらなるM&Aを計画している。

同社は乗換案内から地域の情報を提供する媒体に事業転換することを、会社の目指す方向と定めている。2021年からの2件のM&Aをはじめ、今後予定しているM&Aはいずれもこの方向に沿ったもので、着実に歩を進めていることが分かる。

2024年3月期の売上目標は59億円。2022年3月期の28億9100万円からは、2年間で倍増という強気の計画だ。M&Aが果たす役割は大きいそうだ。

駅前を探険するように情報を提供

駅探の旧社名は「駅前探検倶楽部」。駅前を探険するように、地域のサービスや情報を提供し、社会の役に立とうという思いが込められているという。東芝が1999年にドコモのiモードに乗換案内を提供したのが事業の始まりだ。2003年に、東芝から分離独立する形で創業した。2008年に現社名の駅探に変更、2011年に東京証券取引所マザーズに株式を上場した。

M&Aについては、これまでに4件の実績がある。2017年にチケットレス出張手配システムなどを手がけるビジネストラベルジャパンの株式を取得したのがM&A第一号。ビジネストラベルジャパンを傘下に収めることで、チケットレス出張手配サービスという新しいビジネスを手に入れ、事業領域を拡げた。

2年後の2019年には、旅行ガイドブック制作のラテラ・インターナショナルの株式を取得し、インバウンド向けセールスプロモーションサービスを始めた。駅探の月間1000万人が利用する乗換案内や大手を中心とする法人顧客基盤と、ラテラ・インターナショナルの強みである旅行会社店頭チャネルやガイドブックで培った情報収集力が補完関係にあり、両社が協力することで、事業領域の拡大が可能と判断した。

この後に、サークアとプラウドエンジンが続くわけで、この2件のM&Aでは、広告という新しい事業の拡充につながった。こうして拡げてきた事業は、現在どのような構成になっているだろうか。

駅探の沿革とM&A
1999 東芝でNTTドコモ iモードに乗換案内を提供
2003 東芝から分社化し、駅前探険倶楽部を設立
2008 社名を駅探に変更
2011 東京証券取引所 マザーズに株式を上場
2017 ビジネストラベルジャパンの株式を取得し、チケットレス出張手配サービスを開始
2019 ラテラ・インターナショナルの株式を取得し、インバウンド向けセールスプロモーションサービスを開始
2021 サークアの全株式を取得し、広告配信領域に事業を拡大
2022 東京証券取引所グロースに移行
2022 インターネット広告代理事業のプラウドエンジンを子会社化(11月の予定)

当期利益は60%強の増益予想

駅探のメイン事業は、パソコンやスマートフォンで、乗換案内や時刻表、運行情報などを検索できる消費者向けのサービス。通勤、通学はもちろん、旅行の計画や定期代、交通費の計算などで利用されているという。

M&Aで獲得したチケットレス出張手配事業は、割安なチケットが手配できるサービスで、顧客の社内システムと交通事業者、旅行予約サイトのシステムを連携することで、航空券や新幹線、ホテルの予約、精算などの業務を簡素化できる。

もう一つM&A関連事業である広告分野は、乗換案内に広告を掲載するサービスで、駅や路線のターゲティングなど、乗換案内の特性を活かした内容となっている。

このほかに、不動産、飲食、美容など、駅を基点とした店舗やサービスの情報を収集し、比較、検討できる駅探PICKS(ピックス)や、経路検索、運賃検索、定期代検索などの機能を活用した交通費精算、通勤費計算サービスなどもある。

さらに乗換案内で使用している駅や路線、列車などに関するデータも販売している。不動産や求人、飲食店のポータルサイトで、施設のアクセス情報として最寄り駅や所要時間、行き方などを顧客のサービスに実装することができる。

同社は、こうした新しい事業を取り込むことで事業領域を拡大してきており、今後もM&Aや事業提携などによって、さらに事業領域を拡げる計画だ。

2022年3月期の売上高は28億9100万円(前年度比48.4%増)、営業利益は1億3800万円(同26.3%減)、経常利益は1億4000万円(同31.9%減)、当期利益8000万円(同35.5%減)だった。

2021年4月に子会社化したサークアの売上高が加わったことで、大幅な増収となったものの、新型コロナウイルス感染症の影響による既存事業の減収に伴う減益に加え、サークアの広告掲載基準の見直しによりセグメント利益がマイナスとなったため、グループ全体では2ケタの減益を余儀なくされた。

2023年3月期については、こうした減益要因が改善される見通しで、売上高は前年度比20%ほどの増収、営業利益、経常利益は同30%ほどの増益、当期利益は66%の増益を予想する。

【駅探の業績推移】単位:億円、2023年3月期は予想

広告関連事業で高収益

駅探は2024年3月期を最終年度とする3カ年の中期経営計画を実行中で、最終年度の業績は売上高59億円(2022年3月期比2.0倍)、営業利益5億円(同3.6倍)を見込む。

営業利益が2年間で3.6倍になるのは、地域の生活者のニーズと、地域の事業者の提供サービスを結び付ける媒体に関する広告事業の利益率が高いためで、今後も新しい媒体を立ち上げ、収益力を高めていく計画だ。

このほかサークアの手がける広告配信は、インターネット広告市場の伸びに連動し安定的な成長を見込む。ただ、主力の乗換案内は無料化や一般化で縮小し、その他の既存事業も大きな成長は見込めない状況だ。

中期経営計画初年度の2022年3月期の売上高は33億3800万円の目標に対し、13%ほど低い28億9100万円に留まった。子会社化サークアの広告掲載基準の見直しなどで、前年度よりも増収となったものの、当初の目標数値には届かなかったためだ。

だが、同社では最終年度の目標数値は変更していない。成長力ある広告関連の事業に力を注ぐことで巻き返しを図る作戦のようで、一気に業績を上積みできるM&Aは必須の武器となりそうだ。

文:M&A Online編集部