【アダストリア】M&Aでファッションと飲食の融合にアクセル

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東京都文京区のニコアンドの店舗

「グローバルワーク」などのカジュアル衣料を手がけるアダストリア<2685>が、飲食事業の強化に乗り出した。

同社は2017年にアダストリアイートクリエーションズを設立し、飲食事業に参入したのに続き、2022年2月には「アロハテーブル」などのレストラン事業を手がけるゼットン<3057>を子会社化し、飲食事業の成長に向けアクセルを踏み込んだ。

2022年2月期はM&Aなどによる新規事業への投資費用として、10億円を予定していたが、ゼットンの子会社化に要した費用が、計画を大きく上回る28億円強に達していることからも、本気度がうかがわれる。

2025年に向けて打ち出した四つの戦略の一つにも飲食事業の拡充を掲げており、アダストリアイートクリエーションズの事業拡大とともに、ゼットンとの連携によってファッションビジネスと飲食ブランドを融合させた新しい事業を開発する計画という。アダストリアはM&Aで、どのような事業を生み出すのだろうか。

早くも横浜山下公園で成果

アダストリアの傘下に入ったゼットンが展開する「アロハテーブル事業」は、ハワイに本店を構えるアロハテーブルブランドをメインに、ハワイアン業態の店舗を展開しており、ハワイで過ごす時間を感じられる空間を作り出している。

このほかに、レストランブランドの開発などを行う「ダイニング事業」、歴史ある建物を利用した結婚式を企画、演出する「レストランブライダル事業」、ビアガーデンやバーベキュー場などの期間限定のアウトドアイベントを企画、開催する「アウトドア事業」、ハワイを中心に新たな自社ブランドを創り出す「インターナショナル事業」の合わせて5事業を展開している。

さらに、レストランやカフェ利用して、活気を取り戻す「公園の再生プロジェクト」にも取り組んでおり、今後は、公園内に出店した飲食店や売店などの収益で公園の整備などを行う事業者を公募する制度(PARK-PFI)を活用して、公園や老朽化公共施設の再生事業を拡大する。

これら事業を、親会社となったアダストリアとともに連携して実現していく計画で、早くも3月1日には横浜市の山下公園レストハウスのPark-PFIの公募で、設置等予定者に選ばれた。

山下公園が持つ素材を生かすとともに、山下公園レストハウスを周辺の各エリアをつなぐ結節点とするための提案が評価されたという。2022年6月から工事が始まり、2022年度中に完成する予定だ。

他社との提携やM&Aが不可欠

一方のアダストリアは「グローバルワーク」のほかに「ニコアンド」「ローリーズファーム」「レプシィム」「ジーナシス」「レイジブルー」などの多くのブランドを展開しているものの、さらなる成長のためにはアパレルの枠を超えて生活のあらゆる場面で多様なライフスタイルを提案することが重要と判断。

その一つとしての試みとして、アダストリアイートクリエーションズを設立し、飲食事業に挑戦していた。すでに、米国のスムージー(果物や野菜で作る濃厚な飲み物)専門店ジャンバジュースの日本での独占展開権を取得しており、事業拡大に注力している。

さらに飲食事業の成長を加速させるためには、他社との提携やM&Aが不可欠と判断し、ゼットンの子会社化に踏み切った。

アダストリアはゼットンが実施した第三者割当増資を約12億9200万円で引き受け、その後のTOB(株式公開買い付け)で、51%の株式を取得(TOBによる買付代金は15億8400万円)した。

このM&Aで飲食事業成長のための準備が整ったことになり、互いのノウハウやネットワークを活用して、出店の加速や海外展開、新規事業の開発などに本腰を入れることなる。

さらに、成長戦略に沿った動きも出てきた。アパレルや雑貨、家具、飲食を展開するニコアンドの「niko and ... COFFEE」では、ハンバーガーチェーンを運営するドムドムフードサービス(神奈川県厚木市)とコラボレーションした新商品「ダシマチーズ」の販売に乗り出した。

「ダシマチーズ」は、ドムドムハンバーガーのヒットメニューである厚焼きたまごを、「niko and ... COFFEE」の看板メニューであるニコパンでサンドしたもので、チーズソースや明太子をトッピングしてある。

店舗では「行こう!食べよう!着てみよう!」をキャッチフレーズに、ハンバーガーとアパレルとのコラボを展開する。ファッションと飲食の融合を目指す、こうした動きは今後活発化しそうだ。

コロナ前の水準に

アダストリアの2022年2月期は、売上高が前年同比19.1%増の2190億円を見込む。前年度はコロナ禍の影響で17.3%の減収だったが、2022年2月期はコロナ前の水準に戻る予想だ。

営業利益、経常利益はいずれも65億円で、営業利益は前年度の8.47倍、経常利益は同2.18倍と大幅な増益となる。当期損益は38億円で、前年度の赤字(6億9300万円)から黒字転換する。

【アダストリアの業績推移】単位:億円、2022年2月期は予想

一方、ゼットンの2022年2月期の業績予想は、新型コロナウイルスの影響を見極めることが困難なため未定としている。

2021年2月期は売上高が前年度比54.1%減の47億1600万円に留まり、営業損益は16億9200万円の赤字(前年度は4億6700万円の黒字)、経常損益は15億7700万円の赤字(同4億7300万円の黒字)、当期損益は12億5100万円の赤字(同3億4500万円の黒字)に陥っていた。

2022年2月期第3四半期時点では、営業損益は9億7200万円の赤字だが、経常利益は3億7000万円、当期利益は2億9000万円のいずれも黒字を確保している。ここからどのように業績を立て直していくのか。ファッションと飲食の融合の成果が試される。

アダストリアの沿革
1953 水戸市で福田屋洋服店を設立。紳士服小売業を開始
1984 チェーン化を開始
1992 レディースカジュアルウェア小売業に進出
1993 ポイントに社名を変更
2000 日本証券業協会に株式を店頭登録
2002 東京証券取引所市場第二部に株式を上場
2003 台湾に出店し、海外事業展開をスタート
2004 東京証券取引所市場第一部に株式を上場
2013 アダストリアホールディングスを設立。持株会社体制に移行
2015 アダストリアホールディングス、ポイント、トリニティアーツの3社を合併し、持株会社体制を解消
2015 アダストリアに社名を変更
2017 アリシアをグループ会社化
2017 米国事業を開始
2017 飲食事業のアダストリアイートクリエーションズを設立
2022 外食のゼットンを子会社化

文:M&A Online編集部