【Zホールディングス】LINE、ZOZO…M&Aを急ぐ裏事情

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ヤフーとLINEの経営統合で注目されているZホールディングス(ZHD、旧ヤフー)<4689>だが、2019年に売り買いともにM&Aが加速している。旧ヤフー時代からM&Aで事業を拡大してきたZHD。ここ10年間を見ても、2009年にGyaO(買収金額約5億円)、2012年にバリューコマース(同非公表)とサイバーエージェントFX(同210億円)と、せいぜい年間1-2件程度だった。買収金額も1000億円を超えたのは旅行予約サイトを運営する一休のTOBだけだ。

急加速するZHDのM&A

ところが2019年に入ると、一転して急加速する。5月に同社は4565億円の第三者割当増資を実施し、引き受けたソフトバンク<9434>の連結子会社に。9月には過去最高の4007億円を投じてファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を展開するZOZO<3092>TOBで子会社化した。

ZOZOのTOBでは創業者で当時社長だった前澤友作氏をソフトバンクグループ(ソフトバンクG)<9984>の社長兼会長の孫正義氏が自社の風呂に招いて直談判。返答を先延ばししようとする前澤氏に「これはトップ同士の商談だ。今すぐ結論を出せ」と迫り、その場で話をまとめたとされる。

売買 開示日 取引総額(億円)  内 容
2019年9月25日 27 バリューコマース、ヤフー傘下で宿泊施設向け予約システムなど開発のダイナテックを子会社化
2019年9月12日 4007 ヤフー、衣料品通販サイトのZOZOをTOBで子会社化
2019年5月8日 4560 ソフトバンク、ヤフーの第三者割当増資を4565億円で引き受け連結子会社化
2018年7月11日 93 ヤフー、料理動画レシピサービス「クラシル」のdelyを子会社化
2016年8月8日 17 アストマックス、連結子会社で金融商品取引業や商品投資顧問業を手がけるアストマックス投信投資顧問の株式の一部をヤフーに譲渡
2016年6月9日 20 ヤフー、電子書籍サービスのイーブックイニシアティブジャパンをTOBにより子会社化
2015年12月15日 1000 ヤフー、旅行予約サイトの一休を公開買付けへ
2014年8月7日 92 ヤフー、CRM関連製品・戦略構築支援の事業シナジーマーケティングを公開買付け 
2014年6月25日 349 Jトラスト、「KCカード」ブランドを中心としたクレジット・カードローン事業を分割して新設した孫会社をヤフー・ソフトバンクグループへ譲渡
2013年1月17日 3 ヤフー、情報・通信業のマイネットから顧客管理システム事業を取得
2012年12月12日 210 ヤフー、外国為替証拠金取引(FX)を手がけるサイバーエージェントFXを買収
2012年10月16日 非公表 ヤフー、アフィリエイトマーケティング事業のバリューコマースを子会社化
2010年6月11日 マクロミル、ヤフーバリューインサイトのマーケティングリサーチ事業を会社分割により承継
2009年4月7日 5 ヤフー、動画コンテンツ配信のGyaOを子会社化

主導権取るZHD、いずれはネイバーの買収も

そして、11月にZHD傘下のヤフーとLINE<3938>の経営統合だ。ZHDは両社の親会社であるソフトバンクGと韓国ネイバーが50%ずつ出資して持株会社化する現LINEの傘下に入るものの、新たに設立する事業承継会社である新LINEはヤフー同様、ZHDの子会社に。つまり、ZHDがLINEを事実上は買収することになるのだ。

ヤフーとLINEの経営統合スキーム(ZHD公開資料より)

ZHDの直接の親会社になる現LINEはソフトバンクGとネイバーの折半出資だが、売上規模はソフトバンクGの9兆6022億円(2019年3月期)に対して、ネイバーは5175億円(5兆5869億ウォン、2018年12月期)と18分の1以下。ZHDの9547億円(2019年3月期)と比べても半分程度にすぎない。

さらには連結売上高の約4割に当たる2071億円を稼ぎ出している子会社のLINEは、スマートフォン(スマホ)決済サービスのプロモーション費用や人口知能(AI)などの先行技術投資で慢性的な赤字続き。たまらずネイバーは2019年4月に「LINE」の開発にも関わったシン・ジュンホ氏を代表取締役最高WOW責任者として同社へ送り込んだ。

同4-6月期には97億円だったスマホ決済「LINE Pay」のプロモーション費用を同7-9月期には還元率の引き下げで8億円と10分の1以下に削減するなど、黒字転換に向けた構造改革を進めている。こうした事情から、ネイバーはZHDとソフトバンクGによる資金援助と赤字事業のリプレース(置き換えまたは統合)を期待している可能性が高い。

事実、2018年3月にはLINE子会社で格安スマホ通信サービスを展開する仮想移動体通信事業者(MVNO)のLINEモバイルに、ソフトバンクが51%出資して子会社化している。「LINE Pay」もZHD子会社で国内スマホ決済最大手のPayPayと統合される可能性が高い。

こうした事情からLINEの主導権はZHDとソフトバンクG側が握るのは確実だ。孫正義社長兼会長の頭の中には、すでに「ネイバー買収」のプランがあるかもしれない。

収益伸び悩みがZHDをM&Aに走らせる

とはいえ、ZHD側も余裕綽々(しゃくしゃく)とは言えない。傘下の主力会社であるヤフーのサービスのうち競争力が高いのは月間150億ページビュー(PV)を誇るニュース配信サービス「Yahoo!ニュース」と、スマホ決済の「PayPay」ぐらい。しかも「PayPay」には多額のプロモーション費用をかけており、収益性は低い。

国内ではスマホ決済最大手となったPayPayだが、多額のプロモーション費用が収益を圧迫している。(PayPayホームページより)

その他のサービスは厳しい競争にさらされている。かつて個人間売買仲介サービスでは「向かうところ敵なし」だったネットオークションサービスの「ヤフオク」は、フリマアプリサービスのメルカリ<4385>に押され気味だ。2019年10月17日にオープンしたばかりのオンラインショッピングモール「PayPayモール」の出店数は約600店と、米アマゾンの日本版や楽天<4755>の楽天市場に遠く及ばない。

ネット旅行予約サービスの「一休」は楽天が展開する「楽天トラベル」に大きく水をあけられている。動画配信サービスの「GYAO!」も有料サービスでは存在感がない。傘下にあるオフィス用品通販大手のアスクル<2678>は好調だが、前社長と社外取締役3人が約45%の株を保有するヤフーによって事実上、解任されるなど関係はぎくしゃくしている。

だからこそ、ZHDは矢継ぎ早にM&Aを急ぐのだ。同11月14日にTOB株式公開買い付け)を終えて子会社化(持株比率50.1%)したZOZOは、当面の大きな収益源になる。ただ、中・長期的にみて創業者でカリスマ経営者だった前澤前社長が去った影響は未知数だ。

ZHDの生き残り戦略は、親会社であるソフトバンクGの膨大な資金力で競合サービスを展開する企業を買収し、競争優位の状況をつくり出すことだろう。だが、それには二つの「落とし穴」がある。一つは海外のアリペイの参入だ。

世界最大のスマホ決済を展開する中国アリババグループのアリペイ(支付宝)は、すでに中国人観光客向けのサービスとして日本国内でも利用できる店舗が増えている。同社が日本の消費者向けに本格的なサービス提供を始めたら、PayPayにとっては大きな脅威になるだろう。

もう一つはサービスの「ガラパゴス化」だ。日本の消費市場はユニークで、国内競合サービスを集約することによって、ますます日本の消費者に特化するサービスになっていく。もちろん「ガラパゴス化」によってアリペイなどの海外メガプラットフォーマーの参入を阻止する効果はある。

だが、人口減少と経済の停滞で日本市場の縮小は避けられない。ZHDの長期的な成長のためには、グローバル展開をにらんだM&Aが必須だろう。

文:M&A Online編集部

この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。