【揚工舎】介護事業の拡大へ、M&Aをこつこつ積み上げる

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揚工舎の本社ビル(東京・板橋)

デイサービス(通所介護)、有料老人ホーム運営などの介護事業を手がける揚工舎<6576>がこつこつとM&Aを積み上げている。個々の案件規模はさほど大きくないものの、その数は16件に達する。同社はプロ投資家向けに開設されている東京プロマーケットの上場銘柄(44社)で唯一の介護事業者でもある。

「リハビリ」重視を身上に、介護事業を展開

揚工舎が掲げるテーマは「感動空間」の創造。理学療法士として培ってきたリハビリの知識・経験を具体的な形として世の中に示してみたいとの思いを社名に込め、伊藤進社長が2003年に設立し、デイサービス事業に着手した。

現在、デイサービス拠点は都内に10カ所。自立支援型の運営に特色があり、リハビリ体操や嚥下(飲み込み)体操、ヨガといった共通メニューに加え、利用者個々のコンディションに応じて平行棒、滑車、ホットパック(温熱療法)などの訓練用具を使ったプログラムを用意している。

会社設立以来初めてのM&Aに取り組んだのは2010年。東京都豊島区内で有料老人ホーム(現ヨウコーキャッスル巣鴨)を買収した。有料老人ホーム事業にいよいよ乗り出すことになったのだ。

続いて2012年にハートセンター(東京都足立区。現ヨウコーフォレスト竹の塚)、13年にはサンリバティー(神奈川県寒川町。現ヨウコーフォレスト湘南)を買収し、有料老人ホーム事業の基礎を固めた。

有料老人ホームでは要介護認定を受けた入居者に対し、食事や入浴、排せつなどの介護、機能訓練、医療ケア、レクリエーションなどの生活サービスを提供する。なかでも揚工舎が力を入れているのが「生活リハビリ」だ。

具体的には、歩く、椅子から立つなど日常生活における動きの中で、身体を使う際のポイントを指導し、機能回復につなげる同社独自の考え方を実践しているという。

全9施設の有料老人ホームはM&Aで傘下に

有料老人ホームについては目下、都内6、神奈川県2、千葉県1の計9カ所を運営しているが、実はいずれもM&Aを通じて傘下に収めた施設ばかり。業績が低迷していたり、後継者問題を抱えたりしている事業所が主なターゲットで、事業再生型M&Aを業容拡大の原動力としてきた。

足元の業績はどうか。2021年3月期予想は売上高13.1%増の22億4300万円、営業利益90%増の9100万円、最終利益7.6倍の1億2600万円。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、デイサービス事業で外出を手控える利用者が増える動きもあったが、2019年に買収した有料老人ホーム2施設が通期でフルに寄与することなどから、2ケタ増収と利益水準の大幅回復を見込む。

分野別の売上構成(2020年9月末)はデイサービス26%、有料老人ホーム56%、在宅サービス(訪問介護、ケアプラン作成、福祉用具レンタル・販売、住宅のバリアフリー改修)9%、教育・紹介派遣9%。有料老人ホーム、デイサービスが経営の両輪だが、M&Aの取り組みは在宅サービス、教育・紹介派遣の分野でも活発だ。

◎揚工舎の業績推移(単位は百万円)

19/3期 20/3期 21/3期予想
売上高 1,760 1,982 2,243
営業利益 104 48 91
最終利益 70 16 126

介護人材養成へ「スクール」を買収

揚工舎として2021年の第1号案件となったのが福祉用具レンタル・販売のケア・フレンド(東京都荒川区。売上高9680万円、営業損失402万円)の子会社化。3月半ばに全株式を取得した。ケア・フレンドは1993年設立で、30年近い業歴を持つものの、近年は債務超過に陥っていた。

高齢化社会の進展とともに介護需要は膨らむ一方だが、業界を悩ませているのが慢性的な人手不足だ。厚生労働省の調査によると、2025年度に介護職員は245万人必要とされるのに対し、現状のままだと34万人不足すると推計されている。さらに介護職員は重労働の割に低賃金のため離職率が高く、待遇改善も急務となっている。

東京都板橋区内の本社内に校舎を構えるのが完全通学制のヘルパー養成スクール「ヨウコーケアカレッジ」。こうした教育事業への進出もM&Aによる。2015年にアイ・ヘルパー・ジャパン(埼玉県川口市)からスクールの営業権を取得したことに始まる。

介護職員初任者研修(約2カ月)、介護福祉士実務者研修(半年程度)の2講座を開講。介護福祉士の国家試験には3年以上の実務経験に加え、実務者研修の修了が義務づけられている。また英語対応を可能とし、外国人の入学も積極的に受け入れている。

スクールの修了生は介護人材として様々な分野に送り出しているほか、希望に応じてグループ内で採用する。

介護人材の紹介・派遣でもこれまで3件のM&Aに取り組み、事業基盤を整えてきた。2018年にピィーアンドエィ(東京都千代田区、現ヨウコーほっとスタッフ)を子会社化したのが手始めだ。

2018年に東京プロマーケット上場

揚工舎が東京プロマーケット(東京証券取引所が運営)に上場したのは2018年4月。プロ投資家に限られ、東証1部・2部やジャスダック、マザーズのように一般投資家が参加できる市場ではないが、「上場企業」の仲間入りを果たし、社会的信用を高めた。

M&Aは上場以降7件を数え、勢いを増している。2020年9月末時点で、過去の買収にかかるのれんは約1億6100万円。総資産に占めるのれんのウエートは10%強と、件数の割に日本企業の平均的な水準にある。数の上ではM&Aラッシュの様相を呈しているが、内実は案件に対する手堅いアプローチがうかがえ、「こつこつ」という表現があてはまる。

高齢化社会の到来で、デイサービスや有料老人ホームなどの介護施設は今や社会インフラの一翼を担う。目下、揚工舎の事業エリアは都内と神奈川県、千葉県の一部にとどまる。介護ニーズへの社会的要請にどう応え、企業成長につなげるのか。その実現に向け、M&Aに引き続きアクセルを踏み込むことになりそうだ。

主な沿革
2003 揚工舎を設立し、デイサービス事業を開始
2010 東京都豊島区内の有料老人ホーム(現ヨウコーキャッスル巣鴨)を取得
2012 有料老人ホーム運営のハートセンター(東京都足立区)を子会社化
2013 有料老人ホーム運営のサンリバティー(神奈川県寒川町)を子会社化
2014 ケアさくら(東京都板橋区)の介護事業のすべてを取得
2015 住居型有料老人ホーム・訪問介護ステーション運営のシャローム(東京都板橋区)を子会社化
アイ・ヘルパー・ジャパン(埼玉県川口市)から「アイ・ヘルパースクール」の営業権を取得し、教育事業を開始
2016 アイ・ヘルパー・ジャパン(埼玉県川口市)から「アイ・ヘルパーステーション」の営業権を取得
神奈川県綾瀬市内の有料老人ホーム(現ヨウコーキャッスル綾瀬)を取得
2017 東京都大田区内の住宅型有料老人ホーム・訪問介護ステーション(現ヨウコーキャッスル西馬込)を取得
2018 東京プロマーケットに上場
人材紹介・派遣のピィーアンドエィ(東京都千代田区)を子会社化
ビーワンコーポレーション(千葉市)の職業紹介・人材派遣事業を取得
2019 アカネケアコンサルタント(東京都小平市)から有料老人ホーム事業を取得
有料老人ホーム運営の光風苑(千葉県館山市)を子会社化
2020 木下キャリアサポート(東京都新宿区)から介護・看護・保育分野の人材紹介・派遣事業を取得
有料老人ホーム運営のケアクリエイト(東京都青梅市)を子会社化
2021 (3月)福祉用具貸与・販売のケア・フレンド(東京都荒川区)を子会社化

文:M&A Online編集部