【イエローハット】M&Aでオートバックスを蹴散らすナンバー2

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イエローハット<9882>は、国内第2位の自動車用品販売大手。売上高こそ国内首位のオートバックスセブン<9832>に及ばないが、営業利益、経営利益、純利益ともにイエローハットが上回っている。収益でみれば業界最大手なのだ。その原動力となっているのがM&Aだ。

イエローハットの業績(単位:億円)

年度 売上高 営業利益 経常利益 純利益
2017年3月期 1,298 69 80 55
2018年3月期 1,378 95 106 68
2019年3月期 1,392 95 109 73
2020年3月期 1,410 100 110 73
2021年3月期 1,469 129 140 85


オートバックスセブンの業績(単位:億円)

年度 売上高 営業利益 経常利益 純利益
2017年3月期 2,040 58 71 30
2018年3月期 2,116 72 82 54
2019年3月期 2,138 74 82 54
2020年3月期 2,214 75 80 37
2021年3月期 2,204 105 112 7

多角化で一度は経営危機に

そんな同社も決して順風満帆ではなかった。2000年頃からさらなる成長を目指し、海外展開に加えて経営多角化を進める。中古車販売や携帯電話販売、ホームセンター、介護用品販売といった事業に手を出したが失敗。2004年には経営不振が顕在化する。2008年3月期には、ついに初の営業赤字を計上した。

経営の混乱が続く中、2008年10月には立て直しのため堀江康生常務が社長に就任する。創業者一族から経営のバトンタッチを受けた堀江社長は、本業であるカー用品販売に経営資源を集中する「原点回帰」を目指す。しかし、経営危機は深刻であり一刻を争う事態だった。

同社は東京・中目黒にあった旗艦店兼本社の土地建物を売却して借入金を返済する一方、M&Aで自動車用品販売店舗網の展開を迅速に進めていく。

2008年10月に伊藤忠商事<8001>の子会社のアイ・シー・エス(千葉市)から、自動車用品関連の小売事業を約15億円で取得すると発表。これによりオートテック用賀店(東京都世田谷区)やオートテック上尾店(埼玉県上尾市)など、東京都、埼玉県、群馬県で10店舗(売上高約60億円)を一気に拡充した。

M&Aで店舗網のスピーディーな拡充を実現

M&Aで店舗網を拡大したイエローハット(同社ホームページより)

しかし、当時はカー用品販売も伸び悩んでおり、それだけに依存するわけにはいかない。そこで同社は車検サービス事業の強化に乗り出す。2009年3月に自動車用品販売のほか自動車の修理・整備などを手がけるオートジョイ(東京都港区)が運営する自動車用品販売店「オートナウ浦和店」(売上高約4億円)を整備事業込みで譲受すると発表した。

2010年3月17日にイエローハットは、自動車用品販売や自動車修理を手がけるロードスター京都(京都市)から「ロードスター五条店」(京都市)を取得すると発表した。近畿圏での販売網の強化を狙ったもので、取得価額は非公表。同4月16日に「イエローハット五条桂店」としてリニューアルオープンした。

2011年12月2日には、業績が低迷していた自動車用品販売のモンテカルロ(現・広島イエローハット)を株式交換により完全子会社化すると発表。モンテカルロは景気悪化や個人消費の低迷で厳しい経営環境に置かれており、2011年3月には大阪証券取引所の上場廃止の危機にあった。

モンテカルロの不採算店舗や有利子負債を整理した上で、イエローハットの店舗開発力や資金を投入しながら経営基盤を強化して事業の拡大を目指すことになったのだ。株式交換比率は、イエローハット1:モンテカルロ0.05。

「居抜き」入居でコストを抑えて積極出店

イエローハットは2012年1月20日にも、自動車用品販売のクワハラ(長崎市)が運営する「ドライブショップ クワハラ」の長崎県内3店舗(売上高合計5億円)の店舗事業と整備事業を取得すると発表した。長崎地区の販売・サービス拠点を拡充し、西日本の体制強化につなげるのが狙いだ。取得価額は非公表。

2013年9月17日には自動車用品販売のあしだ(京都市)から「カープロショップあしだ」(京都市)の店舗事業を取得すると発表した。近畿圏の販売網強化が狙いで、取得価額は非公表。イエローハットは自動車部品販売会社を次々と買収して店舗網を拡大していく。

イエローハットの出店の特徴はM&Aだけではない。「居抜き」物件中心の出店戦略もある。経営再建前は土地を購入するか借りて、建物を自前で一からつくるのが当たり前だった。M&Aによる「居抜き」出店にすることで、出店までの準備期間と初期投資を大幅に削減できる。標準的な居抜き店舗だと看板の架け替えや改装などの初期投資で2000万〜3000万円かかるが、年間の賃貸料は1800万円程度で済む。

一方、従来のような土地を買って店舗を建設する新築方式では、標準的な自前店舗では建物だけでも1億8000万円、さらに土地取得代金は一坪60万円、500坪で3億円。合計で5億円近い投資が必要になる。土地や店舗は資産になるものの、出店スピードは大幅に落ちるはずだ。キャッシュを生む店舗展開でもたつけば、経営危機にあった同社の存続は難しかっただろう。

オートバイ市場にもM&Aで進出

イエローハットは、かつてほど大規模ではないが多角化にも乗り出した。2012年1月27日にオートバイ用品販売店「2りんかん」を展開するドライバースタンド(東京都東久留米市、売上高176億円)を完全子会社化すると発表した。「2りんかん」は1978年に1号店をオープンし、首都圏、近畿圏、中部圏を中心に多店舗展開している。

ドライバースタンドは自動車・二輪車用品販売、中古部品買取販売などを手がけているが、オートバイ用品販売では業界トップの地位にあった。イエローハットはドライバースタンドを傘下に取り込み、互いの経営資源を共有することで、事業拡大と収益性向上を狙った。取得価額は非公表。

さらにイエローハットは2014年3月3日に、関東圏を中心にオートバイ販売店「バイカーズステーション SOX」を展開するウィル(埼玉県川口市、売上高72億9000万円)を株式交換により完全子会社化すると発表した。ウィルは1991年設立で、国産車、外国車、新車、中古車など約6000台の二輪車を在庫。買収当時は25店舗を展開していた。

イエローハットはウィルを傘下に取り込み、自社の店舗開発力や資金力を投入してオートバイ販売事業を拡大したほか、イエローハットがすでに子会社化していたオートバイ用品販売のドライバースタンドとの協業などで競争力強化を図った。株式交換比率はイエローハット1:ウィル769。

オートバイは趣味性が高く、顧客は遠方からも来店してくれる。そのため自動車部品販売店舗に比べて商圏が広いという。イエローハットは、これからもオートバイ用品販売店舗網の拡大を進めるだろう。同業界には3社の競合会社が存在するが、いずれM&Aによる再編が起こるかもしれない。

商圏が広く、少ない店舗で効率的に販売できるオートバイ用品店(2りんかんホームページより)

イエローハットのM&A一覧

この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。

文:M&A Online編集部