安田倉庫が輸配送ネットワークの拡充に向けてM&Aにアクセルを踏み込んでいる。2019年以降、傘下に収めた陸運会社は6社(予定分の2社を含む)。これにより、グループの車両保有台数は700台を突破し、従来の6倍以上となる。総合物流サービス企業として陣容整備は着々進行中のようだ。
安田倉庫はその名前の通り、旧安田財閥の流れを組む名門。1919(大正8)年に興亜起業として発足したことに始まる。保管、流通加工、輸配送などの物流サービスを総合的に展開する。倉庫業界では三井倉庫ホールディングス、三菱倉庫、住友倉庫がビッグスリーを形成。安田倉庫は渋沢倉庫などと並んで準大手グループに位置する。
その同社がM&Aを本格的に始動させたのは2019年。折しも創業100年に当たるこの年、北陸3県を地盤とする大西運輸(金沢市)を買収した。大西運輸は1982年設立で、北陸を基盤として関東、関西、中京地区に広がるネットワークを持つ。車両台数は270台以上で、小型車両から大型車両まで取りそろえる。
併せて、大西運輸の兄弟会社であるオオニシ機工(同)を子会社化した。同社はクレーン作業や建設資材・鋼材輸配送を主力とする。
コロナ禍が2年目を迎えた2021年には南信貨物自動車(長野県松本市)を買収した。こちらも大西運輸と同じく、地場大手のトラック運送会社。南信貨物は1943年に設立し、甲信地区から関東、中京地区にネットワークを築いている。傘下のパワード・エル・コム(同)と合わせ、大型車両から小型車両、冷蔵・冷凍車両まで約300台の車両を保有する。
安田倉庫はグループ内でトラック運送を担う子会社として安田運輸(横浜市)を持つ。安田運輸の車両台数は120台ほどだが、ここへ大西運輸と南信貨物の約570台が加わった。運送系3社の連携体制が確立し、国内の輸配送ネットワークはぐっと厚みを増した。
だが、これで終わりではなかった。2022年12月末、エーザイ傘下で医薬品の物流業務を手がけるエーザイ物流(神奈川県厚木市)の買収を発表した。安田倉庫の得意分野の一つが医薬品や医療機器を扱うメディカル物流。エーザイ物流のノウハウやネットワークを取り込み、メディカル物流のサービス向上につなげる。
エーザイ物流は1991年設立で、札幌市、神奈川県厚木市、岡山県真庭市の3カ所に物流拠点を構える。安田倉庫は3月31日にエーザイ物流の全株式を取得する。車両台数は非公表。
さらに2月初め、運送・倉庫業のOSO(京都府八幡市)の子会社化を決めた。4月1日付で全株式を取得する。OSOは2010年に設立。約60台の車両を保有し、茨城県、埼玉県、兵庫県、福岡県に営業所を置く。
エーザイ物流、OSOを含めると、グループ内の車両台数は少なくとも750台規模となり、安田運輸単独だった頃と比べて6倍以上となる計算だ。
安田倉庫の2023年3月期業績予想は売上高9.3%増の580億円、営業利益5.5%減の27億5000万円、経常利益5.9%減の38億円、最終利益20%減の23億円。13年連続の増収ながら、本業のもうけを示す営業損益は4年連続の減益を見込む。グループ入りした陸運子会社が売上高を押し上げる一方、物流施設の新設による営業原価や販管費の増加などが各利益を圧迫する。
売上高構成は物流事業87%、不動産事業13%。不動産事業は東京・芝浦で3カ所、横浜市で11カ所のオフィスビルを保有している。
物流事業では倉庫・物流の枠にとどまらず、特定ジャンルに特化した専門的なサービスを展開している。その代表例がメディカル物流とIT機器物流だ。物流事業全体の4分の1以上を占めるまでになり、業績の牽引役となっている。
メディカル物流の拠点として2020年と21年、東京都江東区に「東京メディカルロジスティクスセンター」を2カ所開設した。物流事業者として初の医療機器修理業許可を取得し、倉庫・物流機能に加え、医療機器の検査・点検、薬事ラベル添付、洗浄、修理、メンテナンスなどの各種サービスをワンストップで提供する拠点を実現した。
IT機器物流では、パソコンやタブレット、スマートフォンなどの各種設定や動作確認といったキッティング業務から、サーバー製品移設、回収した製品のデータ消去や廃棄までのサービスを一元的に提供している。
◎安田倉庫の業績推移(単位は億円)
2021/3期 | 22/3期 | 23/3期(予想) | 25/3期(計画) | ||
売上高 | 477 | 530 | 580 | 650 | |
営業利益 | 32.8 | 29.1 | 27.5 | 40 | |
経常利益 | 43.6 | 40.3 | 38 | 48 | |
最終利益 | 27.9 | 28.7 | 23 | ー |
今年度スタートしたのが中期経営計画「YASUDA Next Challenge 2024」では最終年度の2025年3月期に売上高650億円、営業利益40億円、経常利益48億円を掲げる。投資は3年間で360億円を予定。物流事業に280億円、不動産事業に40億円、情報システム関連に40億円を充てる。
物流事業では付加価値の高いサービス提供に向けたソリューションの強化とネットワークの拡充を基本戦略に打ち出している。具体的には、メディカル物流拠点、IT機器ライフサイクルマネジメント業務体制、EC(ネット通販)物流サービスなどの強化に加え、引き続き国内外の輸配送ネットワークの拡充に取り組む方針だ。
安田倉庫の海外物流ネットワークは現在、中国、ベトナム、インドネシアの3カ国にとどまる。シンガポール、タイ、インドなどアジア地域で新たな拠点展開を模索している。
こうした一連の施策展開に際してはM&Aが有力な手立てとなることは間違いない。間もなく中期経営計画は2年目に入る。安田倉庫の次の一手は国内か、それとも海外か、注目される。
安田倉庫の主な沿革 | |
1919年 | 興亜起業として創立 |
1924年 | 横浜市で普通倉庫業を開業 |
1934年 | 臨港倉庫に社名変更 |
1942年 | 安田倉庫に社名変更 |
1949年 | 太平倉庫に社名変更 |
1954年 | 安田倉庫に復称 |
1972年 | 丸安運輸(現安田運輸)を設立 |
1996年 | 上海駐在員事務所を開設 |
1999年 | 東証2部上場 |
2003年 | 芙蓉エアカーゴ(東京都港区)を子会社化 |
2005年 | 東証1部上場(2022年4月東証プライムに移行) |
2007年 | 中国・上海に現地法人を設立 |
2008年 | 日本アイ・ビー・エムロジスティクス(現日本ビジネスロジスティクス、横浜市)を子会社化 |
2009年 | ベトナムに現地法人を設立 |
2014年 | 高木工業物流(現ワイズ・プラスワン、横浜市)を子会社化 |
2017年 | インドネシアに現地法人を設立 |
2019年 | 大西運輸(金沢市)を子会社化 |
2020年 | オオニシ機工(金沢市)を子会社化 |
2021年 | 南信貨物自動車(長野県松本市)を子会社化 |
〃 | パワード・エル・コム(長野県松本市)を子会社化 |
〃 | 城南運輸(長野県飯田市)を子会社化 |
2023年 | 3月、エーザイ物流(神奈川県厚木市)を子会社化 |
〃 | 4月、OSO(京都府八幡市)を子会社化 |
文:M&A Online編集部