長野県を代表する企業グループとして知られる綿半ホールディングス。「綿半」の二文字は県内で絶大なブランド力を誇り、その歴史は400年以上に及ぶ。現在はスーパー・ホームセンターなど小売事業を主力に、建設事業や貿易事業を展開する。事業の深化と多角化を目的に近年、M&Aのアクセルを踏み込んでいる。
綿半のルーツは戦国末期にさかのぼる。先祖は織田信長に仕える武将の中谷勘右衛門。本能寺の変(1582年)の後、長野県飯田市に身を寄せ、民・家臣の生活と平安のため、刀を捨てて、綿を扱う商いを始めた。天下分け目の関ケ原の戦いの2年前、1598年のことだ。
以降、当主が「綿屋半三郎」を襲名し、これが「綿半」の名の由来となった。江戸中期には飯田藩ご用達商人として苗字帯刀を許され、野原姓を名乗る。現社長の野原勇氏は16代目という。
今も昔も変わらない綿半のシンボルマークは「合」の字。力を合わせ、分かち合い、響き合う「合」の旗印を掲げ、商いに邁進してきた。本拠地は今日まで飯田市のままだ。
明治に入ると、綿商いから、洋鉄やセメントなどを扱う金物商に経営を転換した。1949年に綿半銅鉄金物店を設立し、戦後復興の波に乗って建設資材販売で業績を伸ばした。1966年に綿半鋼機に社名変更。高度経済成長に伴い、鉄骨加工や屋根工事など建設事業のウエートを高めた。また、建設資材販売からの派生で、ホームセンター事業に進出し、今日の小売事業の礎を築いた。
2003年にはグループの総合力発揮を眼目に持ち株会社制に移行し、綿半ホールディングスに社名を変更した。実は、同社が株式上場したのは2014年(東証2部、翌年1部昇格)とつい最近のことだが、上場を機に明らかな変化があった。M&Aが次々に繰り出されるようになったのだ。
M&Aが集中しているのが小売事業。2015年以降、7件を数える。業種も食品スーパー、ホームセンター、ドラッグストア、菓子専門店、インターネット通販、家具販売店、家具製造とさまざまだ。
現在、長野県を中心に東京都、愛知県、山梨県、岐阜県、埼玉県、神奈川県に50店舗(3月末)を持つが、そのほぼ半数は一連のM&Aで獲得している。
例えば、2015年に食品スーパーのキシショッピングセンター(現綿半フレッシュマーケット、愛知県一宮市、6店舗)、16年にホームセンターのJマート(現綿半Jマート、東京都新宿区、10店舗)、2020年にドラッグストア経営のほしまん(長野県佐久市、6店舗)をそれぞれ傘下に収めた。
小売事業は全売上高の7割を担う大黒柱に成長。2021年3月期の部門売上高は806億円(前年度比3.8%増)で、5年前の504億円から6割拡大している。店舗改造・新規出店に加え、積極的なM&A戦略の成果といえよう。
年 | 主な沿革とM&A |
1598 | 長野県飯田市で綿屋として創業 |
1868 | 綿商いから金物商に転換 |
1949 | 綿半銅鉄金物店を設立 |
1961 | 鉄構部門を設立し、鉄骨加工を始める |
1964 | 綿半ストアー飯田店を開店 |
1965 | 貿易事業を開始 |
1966 | 綿半鋼機に社名変更 |
1977 | ホームセンター事業に参入 |
1987 | 立体駐車場事業を開始 |
2003 | 綿半ホールディングスに社名変更し、持ち株会社制に移行 |
2006 | 食品スーパーとホームセンターを合体したスーパーセンター化に着手 |
2010 | 医薬品原料輸入のミツバ貿易(現綿半トレーディング)を子会社化 |
2014 | 東証2部上場(翌年東証1部に) |
2015 | 食品スーパーのキシショッピングセンター(現綿半フレッシュマーケット、愛知県一宮市)を子会社化 |
2016 | ホームセンターのJマート(現綿半Jマート、東京都新宿区)を子会社化 |
2018 | インターネット通販のアベルネット(現綿半ドットコム、東京都新宿区)を子会社化 |
2019 | 茶葉・菓子製造の丸三三原商店(現綿半三原商店、長野県安曇野市)を子会社化 |
〃 | 木造住宅のサイエンスホーム(浜松市)を子会社化 |
2020 | 家具・インテリア販売のリグナ(東京都中央区)を子会社化 |
〃 | ドラッグストアのほしまん(長野県佐久市)を子会社化 |
2021 | 家具メーカーの大洋(静岡県島田市)を子会社化 |
〃 | 木造住宅の夢ハウス(新潟県聖籠町)を子会社化 |
綿半ホールディングスの足元の業績はどうか。2021年3月期決算は売上高4.5%減の1147億円、経常利益25.4%増の35億円、最終利益26.3%増の19億円。経常利益は6期連続で最高益を更新した。
現行の3カ年の中期経営計画では最終年度の2022年3月期に売上高1200億円、経常利益32億円を目標とするが、経常利益については1年前倒しで計画を達成した。
◎綿半ホールディングスの業績推移(単位億円、22/3期は予想)
2018/3期 | 19/3期 | 20/3期 | 21/3期 | 22/3期 | |
売上高 | 1023 | 1064 | 1201 | 1147 | 1200 |
営業利益 | 23.4 | 23.6 | 26.3 | 32.8 | 33.7 |
経常利益 | 25 | 25 | 28.1 | 35.2 | 35.5 |
最終利益 | 14.8 | 16.1 | 15.1 | 19.1 | 21 |
売上高構成をみると、小売事業が3.8%増の806億円、建設事業が24.5%減の278億円、貿易事業が12.8%増の60億円。
小売事業はM&Aによる増収効果に加え、新型コロナウイルス感染症拡大による巣ごもり需要でDIY用品や園芸用品など利益率の高い商品の売れ行きが好調に推移し、部門(セグメント)利益も58.2%増の25億円と全社業績を牽引した。一方、建設事業はコロナ禍が逆風となり、受注減が響いて期中の完成工事高が大きくダウンした。
貿易事業は抗菌・巣ごもり関連商品が伸びたほか、医薬品原料、化成品原料の輸入販売が堅調に推移した。貿易事業は2010年に買収したミツバ貿易(現綿半トレーディング)をベースとし、現在、経営の第3の柱を担う。
建設事業におけるキーワードが「メーカー建設業」。人手不足などで建設コストが上昇する中、メーカー化による高収益力体制の追求と競争力の強化を狙いとする。自走式立体駐車場、ドローンを活用した屋根診断システム、アルミ大型大開口サッシ「GLAMO」など自社開発による独自商品に強みを持つ。鉄骨加工から派生した自走式立体駐車場、屋根・外装改修はそれぞれ国内トップクラスのシェアという。
その建設事業で目下、新たな柱として育成中なのが木造住宅だ。2019年8月に、戸建木造住宅「真壁づくりの家」を展開するサイエンスホーム(浜松市)を買収し、参入したばかりだが、早速、M&Aの第二弾に動いた。
この6月10日、夢ハウス(新潟県聖籠町)の全株式を取得し子会社化すると発表した。夢ハウスは1996年設立で、木造住宅のフランチャイズ事業を展開し、全国約400社の加盟店を持つ。売上規模は137億円(2020年9月期)。買収金額はアドバイザリー費用を含めて27億1800万円で、綿半として過去最大のM&Aとなる。
夢ハウスは山林の育成から製材、乾燥、プレカット、施工にいたる全工程を自社で手がける一貫体制を確立し、新潟県内に3つの加工工場を持つ。2年前にグループ入りしたサイエンスホームと連携し、木造住宅事業を一気に拡大する構えだ。
すでに創業から420年余の綿半グループにとって次の節目は「500年企業」。コロナ後を見据えつつ、持続的成長に向けた事業構造をどう作り上げるのか、長寿企業の変革への挑戦が注目される。
文:M&A Online編集部