【東京きらぼしフィナンシャルグループ】ネット銀行「UI銀行」を開業、M&Aも始動

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傘下行の「きらぼし銀行」(東京・南青山の本店前)

きらぼし銀行を傘下に置く東京きらぼしフィナンシャルグループ(FG)が新機軸を矢継ぎ早に打ち出している。今年1月、地域金融グループとして2例目となるネット専業銀行「UI銀行」を開業し、金融デジタル化への体制を整えた。さらに7月には広告会社を買収するなど、取引先企業の課題解決につながる非金融サービスの充実にも余念がない。

ネット銀行でデジタルシフトを加速

東京都民銀行、八千代銀行、新銀行東京の3行合併による「きらぼし銀行」が発足したのは2018年5月。同時に、持ち株会社名も従来の東京TYフィナンシャルグループから、東京きらぼしFGに改めた。

東京きらぼしFGの本社(東京・南青山)

この間、2018年に投資子会社のきらぼしキャピタルを設立し、2020年には証券子会社のきらぼしライフデザイン証券を開業した。海外ではコンサルティング業務を手がける現地法人を2019年にベトナムのホーチミン、2022年1月に中国・北京にそれぞれ開設した。そして、きらぼし銀行では2020年に旧3行のシステム統合を完了した。

銀行業務を中心に、証券、リース、クレジットカード、コンサルティング、フィンテックなど、各種金融サービスをフルラインで提供する布陣をほぼ整えた。

これら一連の取り組みの中でハイライトとなったのがUI銀行だ。きらぼし銀行を通じた従来のネットバンキングの枠を飛び越え、ネット専業銀行の立ち上げに踏み切った。その答えは明快だ。デジタルシフトを加速することにほかならない。

UI銀行はデジタルを起点としたプラットフォーム構想の中心を担い、グループ内サービスの相互利用、新規顧客の獲得、連携パートナーとのハブ(中継)機能の役割が期待されている。

デジタルとリアルの相互送客

「東京発のプラットフォーマーとなる」。東京きらぼしFGが2021年度にスタートした新中期経営計画(3年間)の旗印だ。では、プラットフォームとは何か。

グループが持つ金融・非金融、対面・非対面のさまざまなサービスの提供を通じて、顧客の新しい価値をともに創造する場所と位置付ける。

例えば、店頭の単純な預金・為替取引は金利・手数料面でメリットのある非対面(デジタル)のUI銀行で行い、コンサルティングなど質の高いサービスは対面(リアル)のきらぼし銀行が受け持つ、といった相互送客の実現につなげる。

UI銀行は準備会社設立から1年3カ月で2022年1月に開業にこぎつけた。預金残高目標は3月末で915億円としていたが、実績は1362億円と上々の滑り出しとなった。内訳は普通預金82億円(2万3547口座)、定期預金1279億円(4万4099口座)。預金残高のうち、およそ半数が既存取引先以外の新規先だったという。

ネット銀行は住信SBIネット銀行、楽天銀行、ソニー銀行、セブン銀行などが知られるが、地域金融グループとしてはふくおかフィナンシャルグループが昨年5月に開業した「みんなの銀行」に次ぐ。そうそうたる顔ぶれの先行各社を相手に、果たしてどんな戦いを繰り広げるのか。

広告会社のビー・ブレーブを子会社化

攻めの姿勢はM&Aにも表れている。7月1日付で、広告会社のビー・ブレーブ(東京都千代田区。売上高17億8000万円、営業利益1億500万円、純資産2億400万円)の全株式を取得し、子会社化した。取得金額は非公表。東京きらぼしFGにとって2018年にスタート後、初めてのM&Aとなった。

取引先企業が抱える広告宣伝やプロモーション、ブランディング、マーケティング分野の課題解決を支援するのが狙い。各種のサービスをグループ内に取り込むことで、取引先の幅広いニーズにこたえる。

ビー・ブレーブは1987年に設立。官公庁や企業向けにチラシ制作からIR(投資家向け情報提供活動)関連までさまざまなサービスを提供し、東京きらぼしFGとはこれまで取引関係にあった。

今回傘下に収めたビー・ブレーブは、銀行の業務範囲拡大の一環として金融庁が設ける「銀行業高度化等会社」にあたる。2021年秋に施行された改正銀行法で子会社を通じて広告業参入の道が開かれた。これにより、PRやマーケティングなどで取引先支援が行いやすくなる。

◎東京きらぼしFGの業績推移(単位億円、貸出金残高=きらぼし銀行)

20/3期 21/3期 22/3期
経常収益 940 933 1083
経常利益 23 82 249
純利益 76 41 181
貸出金残高 3兆7698 3兆9380 4兆3697

金融新時代への布石づくり着々

メガバンクはもちろん、地方銀行、信用金庫、信用組合などの地域金融機関は再編・淘汰の荒波をくぐり抜けてきた。では、東京きらぼしFGはどういう経緯で誕生したのか。

東京都民銀行と八千代銀行が経営統合し、共同持ち株会社の東京TYフィナンシャルグループ(現東京きらぼしFG)を設立したのは2014年10月。続いて2016年4月に新銀行東京が合流した。そして、2018年5月に傘下の3行合併によるワンバンク(1行)化に移行し、きらぼし銀行が発足した。

東京都民銀行は1951年、都内中小企業の金融難を支援するため、東京都や東京商工会議所などの後押しで発足した。八千代銀行は1924年に信組としてスタートし、戦後に信金に改組。八千代信用金庫として業容を拡大し、1991年に普銀転換を果たし、八千代銀行が生まれた。

一方、新銀行東京は2005年、当時の石原慎太郎都知事の肝いりで開業。中小・ベンチャー企業支援を目的に無担保・無保証融資を掲げたが、大幅な赤字を抱え込み、都が公的資金注入して再建に乗り出した経緯がある。

旧3行は東京を地盤とし、中小企業と個人をメイン顧客とする。ただ、メガバンクと信金・信組の狭間で「東京の地銀」を標ぼうしながらも、埋没感が否めなかった。こうした中、地域金融機関としての存在感を発揮するには規模と機能の拡大が必要と判断したのだ。

新生・東京きらぼしFGが出発して早5年目。この間、金融新時代への布石を着々と打ってきた。統合・合併の効果を最大限発揮すべく機は熟しつつある。

◎東京きらぼしFGの沿革

主な出来事
1951 東京都民銀行が開業
1991 八千代信用金庫び普銀転換に伴い、八千代銀行が誕生
2005 新銀行東京が開業
2013 東京都民銀行と八千代銀行が経営統合し、持ち株会社の東京TYフィナンシャルグループを発足
2016 新銀行東京が合流
2018 3行合併できらぼし銀行が発足。併せて東京きらぼしフィナンシャルグループに社名変更
きらぼしキャピタルを設立
2019 ベトナムに現地法人を設立
2020 きらぼしライフデザイン証券を開業
2021 デジタルウォレット「ララQ」アプリを導入
中国・北京に現地法人「信銘冠嘉商務諮詢」を設立
2022 1月、ネット専業銀行として、UI銀行を開業
7月、広告業のビー・ブレーブ(東京都千代田区)を子会社化

文:M&A Online編集部